第9話
「おらよっと」
『ギョアー!』
俺は鎌を振るい、体が人で顔が魚のモリを持ったモンスター<マーマン>を斬る。マーマンはそのままHP0となり消えていく。
『マーマンを倒しました。1540の経験値を取得。クエスト「人魚の集落を救え」の達成条件を満たしました。』
『ありがとうございました。これで人魚の集落は救われます』
ウィンドウにそんな表示が出てくると同時に、背後から声がかけられる。そこには青の水着を身に付けた水色の髪の女性が立っていた。彼女は今俺が受けているクエスト「人魚の集落を救え」の重要NPCだ。この海エリアのそこには人魚の集落があり、そこが現在、今倒したマーマンに狙われているので助けようというのがこのクエストの内容である。彼女も人魚なのだが、今は砂浜の上に足を付けて立っている。どうやら海に潜ると魚の尾のようになるらしい。
『お礼にこれを差し上げます……どうぞ』
「これは?」
そう言って彼女は何やら水色のネックレスを渡してくる。事前情報により何かはわかってはいるが、ココは様式美ということで質問をする。
『それは水棲のネックレスというもので、あなた方のような種族でも海の中で活動ができるようにしてくれるものです』
「なるほど、ありがとうございます」
それを聞いて俺は礼を言う。事前情報ではここからはこういう展開になるはずだ。
人魚のNPCが顔を赤らめながら言う。
『そ、それでよかったらなのですがこれから私たち人魚の集落まで来ていただけませんか?我々人魚一同お礼を言いたいのもありますし……その……いろいろとお話したいこともありますし』
それを聞いて人魚の集落まで行けば、人魚が食べている料理を満足いくまで食べられ、さらに人魚とのフラグがたつとのことだ。いやー運営さんNPCにAI搭載してからこういうイベント増やしてきたねー。
そうして、人魚のNPCが口を開く。
『そ、それでよかったらなのですがこれから私たちの集落まで来ていただけませんよねそうですよね失礼しましたッ!』
「え、ちょ……」
セリフの途中で何やら慌てた様子で人魚NPCが去っていく。え、えー……どういうことやねん。ちょっと運営さんAI変なことなってますよ?返せよ俺のフラグ。なんですか、リアルで不遇な人はこっちでも不遇なんですか?……そういえばNPCが一瞬俺の背後をみていたような……。
「……(チラッ」
「ん?どうしたのラビ君?」
「あ、あぁ、何でもないよ」
俺の背後には笑顔で応対してくれるベルしかいないしなぁ……やっぱバグか?いやーでもなんかあのNPCビビってたような気もせんでもないが……。
「……(チラリ」
「あ、そうだラビ君今手に入ったこのアイテムなんだけど……つけてたらもぐったりできるんだっけ?」
「え?あぁ、そうだな。そういう効果のはずだから」
「そっか、じゃあこれで海の中を見たりできるね。きれいだといいな」
「……そうだな」
うん、バグだな。こんな天使のような笑顔をする人にNPCがビビったりなんてするわけがない。いや、俺一回ビビらされたけどあれはなんか理由があったんだろうし……いまはそんな威圧をする理由はないしな。……なんか心なしか近くにいるはずだったサイカとヒナの距離が遠くなってる気がするが気のせいだろ。
「さて、それじゃ目的も達成したし……あとは適当にぶらぶらしようか」
「そうだね。ミュウさんいつごろ来るんだっけ?」
「あー、たしかあのアイドルのライブが終わったあとだったかな」
「そっか……じゃあそれまで海で泳ごっか。潜水できるようにもなったし」
「おけー」
そうして、俺たちは海水浴を楽しむことになった。
ーーーベルーーー
まったく、私の前でラビ君に取り入ろうとするとは……AIとやらが入ってもたかがNPCと侮っていたよ。油断も隙もあった物じゃない。私が警告したせいでラビ君が何かしらのイベントを逃したみたいだけど……別にいいよね?仮想の女の子と仲良くならなくてもいいよ、私がいるもん。ラビ君の妹さんもなんやかんやで仲良くなって応援してくれるようになったし……あ、あとはお義母さんと仲良くなるだけだね!頑張って外堀を埋めます!
ーーーラビーーー
『みんなー今日は楽しんでくれたかなー?』
「「「おおおおおおお!」」」
4人で海水浴を楽しんでいると、ステージの方からアリスと観客たちの声が聞こえてくる。どうやらライブは終了したようだ。このままアリスはログアウトしてミュウとして帰ってくる。それからこのイベントで遊びつくす予定らしいが……さてさて、どれだけ散財させられるかな?祭りの出店でうってるものってだいたい高いからなぁ。
そんなことを考えていたとき、ウィンドウにとある通知が表示された。
『これよりボスバトルを開催します。』
「はい?」
その表示とほぼ同時に、ステージ近くの海から何か巨大なものが水しぶきを上げながら出てきた。出てきたものは丸っこい頭に三角の帽子をかぶり、頭のすぐ下からは10本の足がついている……吸盤ついてるし……たことかそこらなんだが……10本だからイカ?まぁ鑑定してみればいいか。
名称:デビル・フィッシュ・スクイッド
あ、両方ですかそうですか。てかもうちょっと名前ひねれや運営直訳したらタコイカとかそのまんまじゃねぇか。
そんなデビル・フィッシュ……あぁめんどくさい。言いやすかったからタコイカは吸盤のついた腕をステージに伸ばし、茫然としていたアリスの体を巻き取った。
「きゃぁっ!?」
「「「「「アリスちゃーん!?」」」」」
「触手!?触手サービスか!?」
アリスと観客たちは悲鳴を……いや、若干名違うわ。まぁ叫びながら、バタバタとしている。まぁアリスの今の服装は水着だし……サービスとかまぁいろいろあるんだろうけど。
「兄としては妹に触手関係はまだ早いと思うのよねーー《ハイジャンプ》」
「あ、ラビ君!?」
だれがまだ未成年の妹にそんなサービスをやらせるか。俺は高く飛び上がりアリスを巻き取っている腕のところまで来ると、
「とりあえずその粘液まみれの手?を離せーー《スラッシュ》」
タコイカの足を切り付け、アリスの拘束を解除させる。
拘束から逃れたアリスは、そのまま下へと落ちていく。
「ちょ、ちょっとそれはないよーーーー!」
アリスは叫びながら落ちていくが……このまま放置しておくつもりはない、ていうか放置したら後が怖い。おれは《エアジャンプ》を発動させ落下するアリスのところへ行くと、そのまま抱え、再び《エアジャンプ》を行使しタコイカから離れ茫然としていたベルたちのもとへ戻る。
「「「「よっしゃ兎野郎よくやったーーー!……でも死ね」」」」
うおぉっ!?助けた後の一部始終を見ていた観客たちから歓声に乗せて殺気がっ!?いやいや、あの時はいわゆるお姫様抱っこしか方法がなくてだな?
「お兄ちゃん前々!?」
「おっと」
観客たちに気を取られていたらタコイカの足が迫っていた。俺はそれを危なげなく避け、再び切り付ける。
「うおっあぶねぇ!兎野郎早くあのタコ倒せ!」
「いや、倒してくれてもいいが一緒にお前もいけ!あのイカ野郎と心中しろ!」
「なんでもいいからだれかあの軟体生物を倒してくれぇ!」
おおぅ観客たち、とくに低レベルの奴らが死屍累々。足一本にもてあそばれとる。野郎の触手とか誰得。まぁとりあえず<首刈り>あたり試してみますか。
そう考え、俺は鎌を構え、飛び込む構えを取って……固まる。
「ど、どうした兎!早く逝けよ!」
「別にあれをたおしてしまってもかまわんのだぞ!?」
「ゴートゥーヘル!」
「とっとと首をはねてやるんだよ!」
「……なぁあんたら」
さっきからさんざん言ってくる奴らの方を向く。首をはねろとか言ってきてるし、俺がどんなスキルを持ってるかはわかってるはずだ……。だから俺はこう問いかける。
「タコやイカの首って……どこ?」
「「「「「あっ……」」」」」
……よーし、正攻法で頑張るぞー。
アオイです。
最近執筆時間がどんどん削れてきてやばいです。
不定期の連載は十分許容範囲だったのですが、その後にとあるゲームをはじめましてね?簡単な操作で無双ができたりするのではまっちゃいまして……。
それに加え、RPGものですから続きがどんどん気になって気になって。
挙句の果てに、シナリオに刺激されて、異能物の読み切りを書いてしまう始末ですよ。
まぁ読み切りはもう書いたからいいのですが、やはりゲームをすると時間が削れてしまう……これはもう寝る時間を削るという一番愚かな選択をするしか……。




