第11話
ーーーサイカーーー
「…さてと」
キラと呼ばれたPKの人が去って行ったあと、なぜか落ち込んでいた彼は気を取り直すように私のほうを見てきてこういった。
「いったんキャンプに帰ろうか」
「え?」
「いや、俺たちが狙われたのは誰かに頼まれたって言ってただろ?だからキャンプのほうもなんか起きてるかと思ってね」
「あぁ…なるほど」
私が疑問に思ってると、彼は丁寧に説明してくれた。
「ええっと…それじゃサイカさん」
「はい?」
何かためらうようにした後、彼は私の名前を呼ぶ。
「今からささっと帰るので…背中におぶさってくれないかな?」
「え?」
「い、いやこれはけっして小説のように背中に感じる二つの山脈の感触を味わうという体験をしたいのではなく、あくまで俺がサイカさんを背負って文字通り跳んでいけば早くつけるなーということでして…」
聞いてもいないのにわけのわからない弁明をあわてながらしている。
私はそれをみて…おかしくなってしまい、クスリとわらってしまった。
「サ、サイカさん?」
彼はその様子を不思議に思ったのか、どうしたのかと聞いてくる。
それになんでもない、と返し、それに加えて、今まで思っていたことを伝えておくことにした。
「あと、私のことはサイカでいいです」
「え?でも…」
「年上にさん付けでよばれるとなんか変な感じがするんです…まぁ、あまり人と話さないからってこともありますが…」
「なるほど…わかったサイカ。それじゃ俺のことも…まぁ好きに呼んでくれていいよ。でもプーちゃんは勘弁な?」
了承してくれた彼は、笑いながらそう言った。そして私は、これまで考えていたことの結論を含めて、こういうことにした。
「それじゃあ…お兄さんってよんでいいですかね?」
「…はい?」
「さ、さすがに『お兄ちゃん』は恥ずかしいので…あと、私姉と妹はいても兄がいないので…だめですか?」
そう、姉さん…というか母さん直伝の上目使いで頼んでみた。これをやると男は大体了承してくれるらしい。男は案外ちょろいもの、とは母さんの口癖だ。現に父さんもいまだにうまく丸め込まれている。
そして彼も…
「あー、了解、いいよ。お兄さんで」
苦笑しながらそう言ってくれた。
実際遠かれ早かれ、姉さんが彼を射止めればお義兄さんと呼ぶことになるのだ。姉さんはあぁみえて嫉妬深く執着心が強いから、きっと彼のことを離さないだろう。
そして彼は話をもどし、
「それじゃ跳ぶからおぶさってくれ」
と、屈んでおんぶする体制をとった。
「わかりました」
そういって私は彼の背中に乗りかかった。
すると前から小声で、
「やはりこの二つの山脈の感触は…いかんいかん」
という声が聞こえたので、私は後ろから彼の頬をつねって引っ張った。
「いたたたたた!?ごめんなさい!」
なぜ頬を引っ張られたのかは理解しているようで、悲鳴を上げた後すぐに謝ってきた。そんな彼に、私は、
「だめですよ。そういうのは姉さんだけにしてください」
「ベルさんはいいんだ!?」
と、いった。彼はそのセリフに対し、驚き、なぜベルさんだけ…、といっていた。やはり朴念仁だ。
そしてそのあと、跳ぶよー、という彼の言葉を聞いて、彼の背中にしっかりとしがみつきながら
この『頼りになるけど女性関連がだめだめな兄』をしっかりとささえてあげよう
と思うのだった。
ーーーベルーーー
どうしよう…。
私は、目の前の状況をみながら、何をすればいいかわからず隣にいるヒナと一緒に棒立ちしていた。
何が起こったかというと…
「だから僕が!βテスターでありトッププレイヤーであるこの僕が!これから初心者と非戦闘職だけなのに加え女性だけで不安であろうと思っていっしょにいてやるといっているんだ!」
「だからそんなものは頼んでないのよ!大きなお世話!ていうか迷惑よ!とっとと帰りなさい!」
リアルでは最近あまり話してなかった…というか話しかけてこなかった氷川君もといゼロ君が、私たちのキャンプ地に現れ、なんていうか…いつもの調子で接してきて最終的に私たちとこれから一緒に行動するといいだした。それだけならよかったのだが、なにやら私に対し、どんどん距離をつめてくる言動に対してルシさんが激怒。迷惑だから帰ってくれと言って今に至るのだ。
まぁ私としても、彼にはいい加減にしてほしかったので助かったという考えもあるのだが…いかんせんヒートアップしすぎな気がする。
「ていうかそもそも護衛ならいるのよ!いまは探索中でいないけどね!」
「あぁしっているPlayRabbitのことだろう!だが現実問題、今この場にいないじゃないか!」
「呼べばすぐ来れるようになっているのよ!」
「すぐといってもしばらくはかかるだろう!」
「いいえ一瞬よ!」
「ならやってみせろ!」
「ええいいわよやってあげようじゃない!ベル!」
「えっあ…えっと…」
「「早く!」」
「は、はいぃ!」
うぅ…なんでこっちに飛んでくるの?そんな怒鳴らないで下さいよぉ…。
しかたなく、私はラビ君にこれから召喚をするという連絡をいれることにした…サイカを取り残すことになっちゃいそうだけど…それは謝って今度好きなものを作ってあげよう。
そうしてメッセージを送った後、召喚をしようとしたとき…
「《召かーー」
「ーーただいまー…ってやっぱりなんかあったか」
「ひやぁ!?」
「うぉっ!?どしたのベルさん!?」
いつの間にか背後にラビ君が立っていた。その背にはサイカをおんぶしている…うらやましい…ってちがうちがう!
「お、おかえりなさいラビ君、はやかったね。けど…どうしたの?」
「いや…ちょっとね…とりあえず『サイカ』降りて」
「あ、わかりました。ありがとうございました『お兄さん』」
…え?
いまラビ君サイカのこと呼び捨てで呼んだ?しかもサイカはラビ君のことをお兄さんっていった!?お兄さんって!?え、なにそれどれだけ二人の仲が急接近したのやっぱり二人きりにしたからいやいやうそでしょなんでそんななんでなんでなんーー
「ーーベルさん?おーい?」
「わっ!?」
「おおっ!?…ど、どしたのベルさん固まったり奇声発したりして…」
「え…あっ…ご、ごめんなさい…なんでもないの…」
「そ、そう?…それじゃ俺はあっちに用があるから…」
そういってラビ君は言い争っていて、突然のラビ君の登場に驚いていたルシさんとゼロ君のところに歩いて行った。…ふぅ。とりあえず状況整理。ゼロ君とルシさんが言い争っていた(もうどうでもいい)。ラビ君が突然の帰還(これはまぁいいか)。そして帰ってきたラビ君とサイカが急接近していた。これはもう見逃せない。何があったか問い詰めないと、吐かせないと、姉妹だからって遠慮なんてしないから…ふ、ふふ…
「ふふふふふふふ」
「ね、姉さん?」
「お姉ちゃん?」
笑っていたらヒナとサイカが不審そうに私をみてくる。そこで私はサイカの肩を両手でガッとつかんで逃がさないようにする。
「ね、姉さん?」
「ちょっとサイカ…お姉ちゃんとO☆HA☆NA☆SHIしよっか?…ね?」
「ね、姉さん…たぶん私たちの間には重大な誤解があると思うんだ?」
ふふふ…隠し事がある人はたいていみんなそういうんだよ?ニガサナイカラ…ゼッタイ…。
アオイです。
そういえばもうすぐあれがありますね?
そうです、バレンタインです。
明治などの会社の策略です。
そして女性陣から10倍返しを約束させられる日です。
やはりこれはチョコを売ってる会社の策略です。
なのでみなさん、抵抗するためにある訓練をしましょう。
何の訓練かというとばれないように部屋の暖房の温度を上げる訓練です。これが成功すればすべてのチョコは解けて使い物にならなくなることでしょう。つまりメーカーの策略は失敗。10倍返しに苦しむ人々もいなくなる。一石二鳥ですね。さぁ!私と一緒に訓練しましょう!




