10/11〜12深夜 夢・続き
※うろな町外話
「私や永遠様のように、自ら望んで籠の鳥になったのならばわかりますが、そもそも〈あれら〉の本懐は、籠の鳥などで発揮されるものではありませんし、そのような事は、本来ならなされるべきではありません」
椅子に座り、ラタリアは呟く。
「あのタヌキどもは、その事を全く理解していないのです」
「うっわ。聖職者様ともあろーお方が、んな言葉使ってていーのかよ?」
ラタリアが呟いた〈タヌキども〉という言葉に反応し、おどけたように訊き返すフィル。
「おや失礼。フィルの下町語が、どうやら移ったようですね」
それを笑顔だけで忙殺して、ラタリアは続ける。
「永遠様は一代限りとの盟約で、なんの関係もなかった筈の私達のこの国に、周辺諸国に、尽力してくださったのですよ? 本来、在るべきモノを違えてまで。私達の現在があるのは、永遠様のお陰であると言っても過言ではないというのに」
ぐっ、とラタリアの拳が握られる。
「……あの者達は、永遠様との盟約を反故にして、一度有したからと……まるで自分達の所有物であるかのように、所在様を、汐を……この神殿(鳥籠)に〈連れ戻す〉のだと、そう、言っているのです」
「………………」
ラタリアの話に、はあぁとフィルは盛大にため息を吐く。
「あンのジジィども、もぅモーロクしてんのかぁ?」
「……老い先短いですからね。不安なんでしょう」
フィルの言葉に、若干高ぶっていた気を落ち着かせながら、ラタリアは続ける。
「昔と比べれば、此処も随分豊かになったとは思いますが、それでも完全に、という訳ではありませんし、近隣諸国との紛争などは、未だ後をたちません」
「貧富の差も激しいですし、まだまだ、皆が平等で安定した安全な世界には、古の生き証人である彼等からすれば、程遠いものなのでしょうね」
それを一番、感じているのは他ならぬ彼等でしょう。だからこそ不安で。それも、解っているつもりです、とラタリアは続け。
「しかしそれは、〈神に連なる者〉を新たに据えた所で、手に入るモノ等ではないはずです」
きっぱりと、言い切る。
「ま、ラタリア(お前)見てりゃ分かる事、だな」
それにニヤリと告げるフィルに苦笑して、続ける。
「本来神とは、感謝を捧げる対象なのであって、何かを願い乞うもの、ではないのですよ。たまに、気紛れに〈奇跡〉を起こされたりもしますが」
それとて、人の手でどうこう出来るモノではないでしょう? と呟き。
「神の起こされる〈奇跡〉とは気紛れであって、更に起こる現象は〈足りない〉か〈ありすぎ〉の、両極端なモノでしかなく。そんなものに、頼ろうというのがそもそもの間違いなのですよ」
ふぅ、と一つ息を吐き。フィルに頼んで、こっそりと厨房に忍び込んで用意させたお茶で唇を湿らせ、続けるラタリア。
「人は小さく、その歩みも遅いです。ですから各々に浸透するには、かなりの時間を要します。しかし、何時如何なる時も何かを成し遂げ、築いてきたのは他ならぬ、人である私達です。――神の奇跡等ではなく」
ラタリアの言葉に、こくりと頷くフィル。
神の声を聞く事が出来るラタリアだが、それが、確実で確かではない事を、ちゃんと理解している。
あくまで、神の御言葉は一つの助言に留め、そこから考え行動するのは、人々(自分達)なのだと。
そうして築いてきたのが、この国や周辺諸国なのだから、と。
「神を、信じていない訳ではありませんが、現代の世は、あまりにも――、あまりにも神の御座には遠い。此方からの声は、本当に届きにくいのですよ」
今よりもっと、神と近しい世ならば別でしたけどね、とラタリアは笑う。
「それも仕方ねぇだろうよ、こんな世の中じゃなぁ〜。ま、今はそれよりも、だ」
茶うけにと持ってきたサブレをパクリと飲み込み、パシンと膝を叩いて告げるフィル。
ニッと笑う蒼の瞳に、同じく笑みを向けて紫の瞳を合わせ、告げるラタリア。
「文をしたためます。フィル、届けてくださいますね?」
「おーよ。任しとけってんだ!」
それに力強くフィルが頷き、互いの拳をコツンと合わせる二人なのだった。
「っ!?」
勢い良く、跳ね起きる汐。
心臓が早鐘のように脈打ち、身体からは大量の汗が流れ出ていて、呼吸が荒く息が苦しい。
暫く息を整えながら、まだ闇に包まれている周囲を、そっと見回す。
源海の趣味により、所々にフリフリの沢山付けられた、可愛らしいその部屋。
その風景は、就寝前となんら変わる事はなく。
ほぅ、と息を吐く汐だが、途端に流れ込んで来た残像に、疑問を抱く。
起きるまで見ていた〈夢〉は、果たしてただの夢なのか、はたまた物の記憶を辿って見た〈遠視〉なのか。
今の汐には、どちらかなのかはわからなかったが、
「……フィル……?」
わからないままに、ぽつりと一つ呟いた。
なんだか色々進み始めてきました〜
たぶん、汐の土曜は熱出して潰れますが、日曜は元気に渉先生のお手伝いです♪




