10/11 降雨
何かを憂えむように、その日の雨は降っていた。
それでも、いつも(普段)通りに一日を終え。
陸と汐が風呂から上がってくるのを待ちながら、キッチンで明日の朝ご飯の下準備をして、リビングのソファに座ってお茶を飲みつつ雑誌を広げ、つけっぱなしのテレビの音を流し聞きしたりしながら過ごしていた海だったが、
『21時のニュースをお伝えします』
そんな出だしで始まったニュースに、ふと視線を上げ。
『うろな町中央公園付近の路上で17時50分頃、焼死体で発見された女性の名前が、町内の高校に通う“鍋島サツキ (17)”さんだと判明しました』
続けられた言葉に、黒の瞳を見開いて息を飲む。
「……な……ん……、だって……?」
『うろな町警察署によりますと、傍に落ちていたライターが火元だと考え自殺とみて調査を進める方針ですが、現場 や死体には不可解な点も多く残されており、他殺の可能性も視野に入れていくそうです。 同署は情報提供を求めています。
それでは、続いてのニュースをお伝えします。 ●×動物園で、先月誕生したライオンの赤ちゃんが、初めてお披露目されることに――――』
その後に続いた内容は、頭に入ってきてはいなかった。
「……鍋島、サツキ……って……」
渇いた喉から、掠れたように滑り出た言葉は、周囲に溶けて消えていく。
「……あの子……?」
愕然と、呟いた海の脳裏に浮かぶのは、夏の終わりに出会った、向日葵のような笑顔の少女。
ライブの夜、ARIKA(店)を手伝う千秋と一緒に、恥ずかしげに頬を染めてはにかむ、その横顔。
独特の語尾。くるくる変わる表情が印象的な――……
会ったのはその二回だけだったが、そんな彼女を、忘れるはずが、間違えるはずがない。
「……な、んで……。一体、何が……」
知らずと溢れた言葉に気付く事なく、茫然と画面を見つめる海。
「海お姉ちゃんってば! お風呂いかないの〜?」
「っ!?」
しかし、汐のその声に一気に現実に引き戻され、慌ててバチン! とテレビ画面の電源を落として振り返る。
「あぁ、いく。いくってぇの〜。湿気でなんかベタついてる気ぃするし〜」
その時には、普段通りの様で。笑顔で告げる。
然り気無く、お風呂から上がってきた汐の進路を螺旋階段の方に誘導しながら、
「雨で冷えてんだから、湯冷めしねぇよーにもう寝ろよ〜?」
呟いてその栗色の頭をくしゃりと撫でる。
「えー? 『すぐでき! おしゃべり料理術』見たいのに〜」
「ダーメだって。日曜の特訓、先生の応援と手伝い、してくれるんだろ?」
不満げな声を上げる汐に、風邪ひいたら出来なくなんぞ? とつけ足して、汐に階段を上らせる海。
「海? 入るの?」
「おうよ。陸姉、汐の事よ〜ろしく〜」
髪をかわかし終え、調度リビングへと入ってきた陸と入れ替わるかのように、手をヒラヒラと振って風呂場へと向かいながら告げる海。
それに返事を返し、陸は汐と共に、二階へと上がっていくのだった。
汐の首から下げられた夜輝石のペンダントが、キラリと光を瞬かせるがそれに気付く事はなく。
暫くしてから、窓の外、降りしきる雨と同じくするかのように、水音が浴室内に響き渡るのだった。
降る雨がせめて、彼女に温かなものでありますように…
寺町朱穂様の人間どもに不幸を!より、サツキちゃんのニュースとサツキちゃんのお名前を
とにあ様のURONA・あ・らかるとより、千秋くんのお名前を
お借りしております
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