10/5 母、強し?
YL様のうろな町の教育を考える会 業務日誌 10月13日その2 修行編その6 雨の砂浜、君はそこにいた。より、色々お借りしております〜
カタカタカタ。室内に、キーを叩く音が響く。
各々家族用に割り当てられたスペースの一つである、渚の部屋。
薄暗い中、といっても今日は晴れである為窓から入ってくる微かな明かり、そして液晶画面の光源により、作業スペース内はそこまで暗いという感じはない中、黙々と作業に没頭する渚。
電気は点いていなかったが、当の本人は気にもしていないようで。
昼過ぎから自室に篭りっぱなしだが、キーを叩くその速度は変わらない。
画面を凝視したまま、滑らかに渚の指がキーボードの上を走り。
「メシだっつってんだろ――がぁ!!」
「!」
怒鳴りながら部屋のドアを蹴り開けて室内に突っ込んできた海に、ピタリとその動きを止める。
集中していたのもあるが、プライベートフロアの防音機能は高い。
海の声に全く気付かなかった。
「うぉ、暗ぁっ!?」
室内の暗さに驚いて、ドア横のスイッチを入れて電気を点ける海。途端に明るくなった室内の様子に目を細め、手をかざしながら渚が呟く。
「…………海姉。なに」
「だから、メシだっつの」
きょとりと訊ねてくる渚に、呆れたように息を吐いて告げる海。それに首を傾げる渚。
ついさっき、お昼を食べたばかりのような……? と思いながら窓の外を見て、ベッド側の壁掛け時計を見やり。
その指針が十九時を指している事、そして自身のお腹の空き具合から、納得したように頷いて。
「…………アップデート終わらせてから、いく」
「どーせ時間かかんだろ〜? い、ま、す、ぐ、だっ!」
渚の言葉に、ビシリと指を突き付けて海。それにため息しつつエンター(実行)キーだけ押して、渚は海と共に自室を後にし一階へと下りる。
「暗くなってきたら電気くらい点けなよ。目ぇ悪くなるじゃん」
「…………気付かなかった」
「あ、そ。にしても渚、またPC自作したのかよ? 八台に、増えてた気ぃすんだけど?」
「…………父さんのおかげでパーツはある。なら、自作し(つくっ)た方が早い」
他愛ない会話をしながら、廊下を進む。
「んで、どーよ。アレの製作状況は?」
にんやりと言ってくる海に、ポツリと呟く渚。
「…………受信データ自動更新。試運転時に支障はみられなかった」
「ふぅん? 順調ならまぁいーんだけどさぁ」
「…………今日、データ追加するヤツがある。……でも、来週の特訓までには、充分に間に合う」
螺旋階段を下りながら、会話を続ける。
「…………海姉の方は、順調?」
「ん〜? ま、当日までのお楽しみってな〜♪ 浜辺で特訓なんだし、昼飯ARIKAで作んだからさ〜」
確か午前中は別んトコで訓練だったろ、先生。とつけ足し訊ねる海。
「今日追加するって機能は?」
「…………特訓用ロボ、使用者モニタリング機能付き。なら、実際の対人戦に近いものの方が、より実戦的な特訓が出来る。……その為の録音」
そう言って渚が、ポケットから取り出したのは。
小さなマイクと一つの録音機だった。
夕食後のリビング。
帰宅していた他の家族達は二階へと引き上げていった為、今そこにいるのは陸、海、空、渚、汐の五人。
太陽はまだ帰宅していない。
丸テーブルを囲んで座り、食後のお茶で一息ついてから。
「…………まずは、空姉」
「えぇっ!?」
ポツリと告げられた渚の言葉に、驚いた声を出して慌てる空。それに皆の視線が集まってしまい、結構大きな声が出ていた事に頬を染める。
「い、一番目なんて……恥ずかしいよ……」
俯いてもじもじしながら呟く空に、不思議そうに海も訊ねる。
「なんで空からなワケ? 段階踏んでくなら、渚からだろぉ?」
「…………私のは整備モード用。後からでも入れれ(組み込め)る。因みに、家庭補助用ロボとしての機能もある。だからお手伝い機能起動時用に、汐のも録音す(と)るから」
「え? 汐のもあるの?」
じゃ〜先にやる〜と、嬉々として両手を差し出す汐。その手にマイクを握らせ、他の皆は口をつぐみ。
こくりと渚が頷いてスイッチを入れ。
静かに録音が始まった。
「おっそうじおっそうじ、楽しいな〜♪ よっごれてるトコは、どこですか〜♪」
もの凄く楽しそうなその声(歌?)に、ほわりと和む姉妹達。汐のおかげで、スムーズに録音が進んでいく。
「準備はいいですか? それでは、始めます。よろしくお願い致します」
言いながらペコリ、お辞儀する空。
「よっ! はっ! ほっ! ほらほら〜。もっとガッツリ打ち込んで来なよ〜? まぁだ浅いっ♪ ……っと見せかけたフェイント〜♪ ――からのカウンタぁ〜♪ も〜降参〜? まだまだだねぇ〜♪」
竹刀まで持ってきて、誰よりもノリノリな感じで海。
「手首を返さない! 腰を落として! そこの右肘、5cm高く! 間合いをあと1秒は早く詰めて! まだ遅い! 今度は早い!」
まるで目の前に対戦者がいるかのように、ビシリと鋭い声の陸。
「…………省電力モードオン。記録メディアスキャン開始。微調整・修正開始。――終了。マニュアル呼出。バックアップデータ参照……」
淡々と、整備工程やらを呟いていく渚。
自分の分まで吹き込み終わり、一旦スイッチを切る。
「んあ? これで終わりかぁ?」
首を傾げて訊ねてくる海に、渚は左右に首を振って。
「…………後は、母さんの分がある」
そう呟いた渚の声に答えるかのように、玄関からただいま〜という太陽の声が届き。
「帰ってきたっ」
その声に嬉々として汐が玄関に駆けて行こうとするが、渚がその肩をそっと掴んで留めさせる。そんな渚を首を傾げて見上げる汐。しかしふと気付いて、そこからそろりと距離を取る。
その間に誰もいないの〜? と呟きながら、太陽がキッチンに足を踏み入れ。
「ちょっと! 誰なのコレっ!?」
鋭い声が上がる。
「片付けまでが料理の基本だって、いつも言ってるでしょう!」
「ヤバッ……!」
その声にげ、という反応をするのは海。
太陽の夕飯がまだだし、食べてる内にささっとやっちまえばいいや、と思っていたのだが甘かったらしい。
まさか先にキッチンに行くとは……と思いながらくる〜り、その場でターンして二階へと逃げかける海だが、そうはさせまいと口を開きかけた陸より先に、渚がぼそりと呟く。
「…………母さん。その犯人、海姉」
「ちょ、えっ!? な、渚ぁ!?」
まさか渚にバラされるとは思っていなかった海が、驚きの声を上げ。その声に即座に反応して、リビングに駆け入ってくる太陽。
「あ〜みぃ〜?」
うふふ……と、その顔は笑っているというのに、全く正反対の空気が、周囲に満ちる。
「え、えぇっとぉ〜〜?」
それにはは、は……と笑う海だが、目線は目下逸らし中。
そんな海ににこり、微笑む太陽。
それをため息しながら見つめ、〈音消しくん〉をきちっと装着する陸、空、渚、汐の四人。
太陽の、息を吸い込む音が聞こえ。
マイクを向け、渚が絶妙なタイミングで録音スイッチを入れた所で。
「お仕置きよ――!」
久方振りの、太陽の怒声が響き。
渚が、太陽の「お怒りモード」用の音声が楽に録音出来た事に安堵している、その傍らで。
「あんぎゃあぁ――っ!?」
生け贄にされた海が、キレのある鉄拳を受けてこれでもかと言わんばかりの、かん高い悲鳴を轟かせた。
売られた海(笑)
母のお仕置きに関しては、助けてくれる者はいない(苦笑)
しかし、音録り回楽しかった♪
YL様のうろな町の教育を考える会 業務日誌より、師匠君柄みで色々と
お借りしております
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ
さて、後は特訓前日に、かなぁ?




