10/2 渉先生観察中の
授業が終わると、勢い良く教室を飛び出していく渚。
向かう先は勿論――二年の教室がある所、というか目的は渉先生だ。
今日は生憎の雨で、海外より日本の方が湿気指数が高く、今日持参しようと思っていた測定器は防水加工無しのモノだったので、外気と機械自体が持つ温度差によって内部が結露するおそれがある為、今日は測定器でのデータ収集はせず、渚自ら渉先生のウォッチングに出動していた。
「…………いた」
この前手渡した〈測量くん・ミニ〉を心臓より少し上部にちゃんと毎日貼ってくれている為、そこから自動で家のPCにデータ送信するその電波をキャッチして、渉先生の居場所を突き止めその後を見つからないよう足音を殺してついていく。
「…………今度の階段は右足から。手に持つ資材による重心移動速度、バランスの傾き、誤差は許容範囲内程度。脚部の強度は……」
柱の影から観察しながら、手に持つ端末に数値を打ち込んでいく渚。
眼前の渉先生と端末に注意が集中していた為、周囲への注意、主に背後への警戒は散漫気味になり。
「渚ねぇ?」
「!」
突然の背後からの声に驚いて、慌てて後ろを振り返りながらもなんとか思考を巡らせ、瞬時に腕を伸ばしその者を柱の影に引き込む渚。
「…………隆維。なんでいるの」
「だってここ、一年の教室がある廊下だぜ?」
「あれ? 渚ねぇ?」
引き込んだのはなんと隆維。その後ろからひょこりと、顔を出すのは涼維だ。
一階分、階段を下りてきていたのを忘れていた。
『何やってるの?』
二人同時に首を傾げて聞いてくるのに、唇に一本立てた指を当てて、ヒソリと囁く渚。
「…………渉先生のデータ収集。今、先生の身体強化する為のロボ、作ってる途中」
「今月末の決闘の?」
それに頷く渚に、なるほどという顔をする二人。しかし、その明るい青の瞳を瞬いて涼維が呟く。
「収集もう終わったの? 先生、行っちゃったけど」
「…………しまった!」
涼維のその言葉に慌てて前を振り返る渚だが、既に渉先生の姿はなく。
しかし、まだ休み時間はあと五分ある。
その事を確認して瞬時に端末に視線を走らせ、そこから即座に駆け出していく渚を、隆維と涼維は顔を見合わせ、きょとんとしながら見送った。
キュキュッ。上履きが床面と擦れて廊下にかん高い音を響かせる。
雨の日の廊下は、若干の湿り気を帯びているからだ。
しかし、それに構っている暇はない。
渉先生(観察対象者)が制止している今距離を詰めておかなければ、この休み時間中の観察はもう不可能だ。
時間は有限。ならば、無駄は最小限にしなければならない。そう思いながら、
「…………この角を曲がった先」
ボソリと呟いて最小の動きで角を曲がると、すぐ側のドアにピタリと張り付き。
そろりとノブに手をかけ、そっと回しかける渚だが。
「……流石に、それは止めておいた方がいいぞ、青空」
中から、響いているのにこもったような、渉先生の声が響く。
それに首を傾げながら、そろっと渚が視線を上げ。
「…………………………………………」
かなりの、思考停止の時間を要してから。
「……………………っ!?!」
その顔に朱をのぼらせて、『そこ』から、脱兎の如く教室に逃げ帰る渚なのだった。
端末への意識集中と、周囲の状況確認を怠ったが故に、起こった事態。
渚が、開こうとしていたその扉は。
職員用『男子』トイレの、扉だった。
それ以後の渚の渉先生のデータ収集は、ビデオカメラ内蔵の超小型自動飛行観察機と、超高性能望遠レンズ付きの、双眼鏡によるウォッチングが主体になったのだとか。
渉先生観察中のハプニング(笑)
これくらいはありそうかなぁ、と
集中力高いが故に…
気を付けようね、渚(笑)
YL様のうろな町の教育を考える会 業務日誌より、渉先生
とにあ様のURONA・あ・らかるとより、隆維君、涼維君
お借りしております
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ




