9/27 石には意思が宿るんだって
「ねー、海お姉ちゃん」
ブルー・スカイのホテル。プライベートフロア一階のリビングのソファに座って、ジュースを飲みながら汐がソファの背にもたれている海に訊ねる。
「んー?」
それに同じく飲み物を口にしながら、海が汐に声を返す。
「空お姉ちゃんって、何処にアルバイトに行ってるの?」
「……何? なんか気になる事でもあんの?」
汐のその言葉に、訝しげな視線を向ける海。
普通の人には〈見えないもの〉を見る目を持つ汐(末妹)の言葉には、何気ないものであっても少々、軽視出来ないものがある。
それが良い事ならばまだいいが、悪い事であった場合に、こんな風に言ってくれれば早期対処が出来るので、それはとても有難い事だからだ。
それにそれが汐自身に関係ある事なら、警戒が過ぎるくらいであってもいい、いや、足りないかもしれないのだから。
いくら〈神殿〉の加護があるとはいえ、それとて万全ではないのだから。
「……悪い事じゃないよ?」
考えていそうな事を正確に察知して、海を見上げて汐が呟く。それに苦笑しながら一つ息を吐き。
「ふぅん? えっと〜、確か天然石ショップ無限回廊だったかなぁ〜? 今週頭に開店したてのトコで、その日採用じゃなかったっけな」
「天然石……って事は輝石売ってるお店なんだね、そこ」
そうそう。商店街を一本入った裏路地の、角にあるお店なんだってさ〜、とつけ足す海。
(……そっか、だからなんだ)
海の説明を聞いて、納得したように頷く汐。
たまたま学校から帰る時間と、空お姉ちゃんが仕事から上がった時間が、同じだった時があって。
その時一緒に家まで帰ってきたんだけど、空お姉ちゃんに会った瞬間、その眩しさに目がくらんでよろめいた。
空お姉ちゃんの周りを、色んな〈キラキラ〉が、護るかのように包んでいたから。
特に強く出てたのが、オレンジ色のキラキラ。
その周りを彩るかのように、赤、青、黄、緑、紫――、様々な形と色のキラキラが、たくさん舞っていて。
初め見た時はチカチカして目がしばしばしたけど、その事に気付いた〈その人〉が、光を弱めてくれて。
撫でるかのように、頭に触れて。
〈触れた〉事で、夜輝石を媒介にその人が〈何か〉わかったから、そのまま一緒に帰ってきたんだけど。
プライベートフロアに空お姉ちゃんが足を踏み入れた瞬間、役目を終えて周りの景色に溶けるみたいに、それまでお姉ちゃんを包んでいたキラキラが、ふわって消えちゃったんだよね。
それに、お姉ちゃんの事、護ってくれてたんだって分かって。
石には〈意思〉が宿るんだって、お父さんが言ってたの。
だからきっと〈あの人〉は、そうなんだろうなって思って。
「ふふっ」
その事を思い出しながら、笑っていたら。
「なぁんだよ〜? 隠すとタメになんねぇぞっ」
怪訝そうな表情で海お姉ちゃんが腕を伸ばしてきて。
「きゃあ〜♪」
「おりゃおりゃ〜! 吐かねぇとこんままだぞぉ〜?」
ニヤリとした笑み顔で捕まえられて抱きしめられる。
それに笑い声を上げながら答える。
「素敵な事があったの。でも――、まだ秘密なの〜」
「あぁ? なんだよそれ、教えろよ〜? じゃないと……こーだぞぉ!」
言って、海お姉ちゃんが更に強く抱きしめてくる。
それにきゃははと笑いながら、いつか天然石ショップに行ってみたいな、と思う汐なのでした。




