9/15 予感?
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話 9月15日 諜報中です(謎の配達人)とリンクです
うろな町外話含む
「ぎゃあああっ! やめんかーーーーーーーっ」
「ひゃっ!?」
海お姉ちゃんがいきなり叫んで、走ってったからびっくりして。
お姉ちゃんが走っていった方を見つめながら首を傾げて目を瞬いていると、首から下げた夜輝石がキラリと光って、イルカさんの映像を伝えてくる。
「もしかしてっ!」
それに嬉しくなって、海お姉ちゃんの後を追うように駆けていくと。
青空の中見覚えあるトラックの側でお姉ちゃんと話をしている、水玉模様がトレードマークの賀川のお兄ちゃんがいて。
「あーーーー賀川のお兄ちゃんだ!」
勢いそのままに、飛び込んでいく。
「こんにちわ、汐ちゃん。こないだはありがとう」
「この頃、見ないからどうかしたのかって思っていたの〜」
ぽふっと抱きつき優しく抱き止めてくれたお兄ちゃんに笑顔で答える。
この頃、配達に来るのは三番のお兄ちゃんばっかりだったし、あの〈夢〉の青い道の先にいたのは、賀川のお兄ちゃんだったような気がしてたから。
研修に行ってたって聞こえたけど、あんなに『遠く』まで研修に行かなきゃなんて運送会社さんって大変なんだって思っていたら。
「ありがとう、一つ聞きたいんだけど……」
とお兄ちゃんが呟いて、フィルの事を聞いてきたから、海お姉ちゃんと一緒に教えてあげる。
そういえば、フィルが帰る時に、賀川のお兄ちゃんの事聞いてきてたんだよね。
足りない分の手紙がお兄ちゃんのだったって言ってたし、その時鳥さんだけじゃなくてフィルも賀川のお兄ちゃんに会ってたんだ。
「フィル、レディって呼ばれるとすっごく嫌な顔するんだよ〜」
そう思いながら笑って言うと、賀川のお兄ちゃんがすっごく悪いお顔で笑う。
海お姉ちゃんが、悪巧みしてる時と同じだぁ。
「何か、すごい悪い顔で笑ってるぅ〜」
そう呟くと、そんな事ないよ、って賀川のお兄ちゃんは笑って言って。
ホテルへの荷物を卸しながらのお兄ちゃんに、フィルの事を色々教える。
生者からの言葉を集めて、死した人にその手紙(言葉)を届けるのが役目って事。
集められた手紙は、神殿で神様から賜られた〈神火〉で焚き上げられる事。
神火で焚き上げられた手紙には死者から生者に、稀に返事の便りが届くんだって事とかを。
「ちゃんと返事が返って来たんだよ?」
って言ったけど、賀川のお兄ちゃんはあんまり信じてくれてないみたい。
ユキお姉ちゃんがいるのに、なんだか不思議だなって思う。
海お姉ちゃんが、夢のない大人はこんなもんだって言ってたけど……
大人になったら、夢ってなくなるものなのかなぁ?
荷卸しを終えて帰っていく賀川のお兄ちゃんを手を振りながら見送っていると、ふと思い出したかのように海お姉ちゃんが呟く。
「汐、あんた一番賀川君に、教えちゃってよかったのかぁ〜?」
「なにを?」
問いかけの意味が分からなくて首を傾げながら訊ねると、ニヤリとしながら海お姉ちゃんが呟いた。
「レディって呼び方嫌って事〜。汐が教えたってのがバレたら、な〜にされる事かねぇ〜?」
「!? でも海お姉ちゃんが、先にそう呼んでたんだよっ!?」
「で・も。教えたのは汐だろぉ〜♪」
「あ、ひどいっ! お姉ちゃんだけ、言い逃れするつもりなの!?」
「さぁてねぇ〜? でもレディに汐を売り渡すんは、簡単だよなぁ〜?」
ニヤニヤとしたまま、そう言う海お姉ちゃん。
条件を飲まなかったら、確実に売り渡される。
それは今までで十分過ぎる程、わかっていて。
む〜としたままその顔を見上げて、訊ねる。
「……フィルに、バラさないでいてくれる為の条件は?」
そう訊ねると、にんまりする海お姉ちゃん。
「今週の掃除当番」
その言葉に、ピンと来て。
源海のホテルのプライベートフロアは二フロア分あって、四家族共同で住んでるんだけど、それでも凄く広くて。
二週に一回交代制で、掃除当番が回ってくる。
今週は、海お姉ちゃんに渚お姉ちゃん、ヨガ叔父ちゃんにお嫁さんの山桜桃さん、カナ叔父ちゃんトコの長女の燎お姉ちゃんに、次男の炯お兄ちゃんっていうメンバーだったはず。
そして、海お姉ちゃんと炯お兄ちゃんに割り当てられているのは、源海の部屋。
似た者同士だからかなぁ。
じーじと海お姉ちゃん、仲悪いんだよね〜。
その事に思い至ってはぁ、と一つため息をついて。
「わかった。代わるからフィルには絶対、言っちゃダメなんだからねっ!」
ビシッと指差して海お姉ちゃんにそう言って、部屋に戻る為にそこから歩き出す。
いつか絶対仕返ししてやるんだから、と思いながら。
うろな町から、遥か遠く。
雲をも突き抜けた山の頂に建てられた、白を基調とした神殿の。
長い回廊をこの神殿唯一の神官が一人歩いていると。
ばさり、鳥の羽音が聞こえ。
ついで空調の為に開けられているひし形のデザイン窓から、一人の少年がストンと飛び下りてくる。
ふわり、白の髪をなびかせて下り立った少年の、蒼の瞳と目があって。
「おかえりなさい、フィル。ですが、そんな所から飛び下りてくるのは感心しませんね」
その少年、フィルににこりとしながら告げる白紫に紫水晶の瞳の神官。それにニヤリとしたままフィルは告げた。
「はいはいっと。それもう耳タコだっつーの、ラタリア。大体、毎度毎度の事なんだからいー加減諦めろってぇの〜」
やれやれと肩を竦めるフィルに苦笑する神官、ラタリア。
「今回はどうでしたか?」
「なんとかまぁ、百八つは集めたぜぇ〜」
背負っていた袋を差し出して告げるフィルにお疲れ様でした、と呟きながら袋を受け取るラタリア。
その時フィルの肩に、バサリと羽をはばたかせて小型の白い鷲がとまり。
それに微笑むラタリア。
「ルドもおかえりなさい」
ラタリアの言葉にククッとひと鳴きするイグリールド。
「あ、そーだった! 忘れるトコだったぜ〜」
ルドを見て何かを思い出したのか、ポンと手を打って懐をまさぐり出すフィル。
コレを渡さなかったら一人ん時をわざわざ狙った意味がねぇよ、と呟きながらその懐から取り出されたのは。
去り際に汐から貰った、三つの夜輝石だった。
「これはまさか所在様の……いえ、汐からですかっ!?」
驚き瞳を瞬くラタリアに、にんまりとしながらフィル。
「あげるってさ〜。俺様とルドとラタリアの分だぜ」
呟いて、手のひらにのせた三つの夜輝石を見せながら、どれにする? と目で訴えるフィル。
じっ……と見つめるその先には、大中小の三種の夜輝石。
「一応、身に付けられるように加工はするつもりなんだけどな」
「では、これを」
そう言って、ラタリアが手にしたのは、中くらいの大きさの夜輝石。円筒形のそれを見つめながら、指輪にでもしましょうかと呟く。
「んじゃルドがデカイので俺様はこのちっさいのな〜」
その呟きを聞きながら告げるフィル。
「フィルは何にするのですか?」
「ん〜? まぁ、目立ちにくいモンにはするつもりだけどな〜」
「出来るまでのお楽しみですね。では、私のは指輪でお願いします」
「おうよ」
一度手にしたそれを、再びフィルの手のひらの上に返すラタリア。それをしっかりと預かり、んじゃま、アプリらにでも会いに行ってくらぁ、と踵を返し手をヒラヒラとさせるフィルだが、
「!?」
突如、ぞくりとしたものがその背を這い上がり、びくっと身体を震わせて、驚いた顔で後方を振り返るフィル。
しかしそこには、きょとんとした顔のラタリアがいるのみで。
何処かで誰かに……
それもとてもマズい奴に、弱みを握られたような気がする……
訝しげに思いながら眉根を寄せて思案するフィルだが、ただの勘でしかない事と首を振り。
キラリ、握っている夜輝石が仄かな光を帯びているのに気付く事なく、なんでもねーよと手を振って、その場を後にするのだった。
なんでもかんでも交渉材料にしてしまう海(笑)困った子ですね(苦笑)
海に仕返し出来るんでしょうかね、汐ちゃんは
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より、賀川さん、ちらりとユキちゃん
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