9/2 その後には…
「こんなもの、かしらね?」
最後にキュッと、店の出入口である扉を拭いて。
雑巾を手にしたまま、ひとつ頷きにっこりとする太陽。
昨日で営業を終え、打ち上げをしたりして騒いだが、その影響は微塵もなく。
学校に行く渚と汐、市役所に転居届けを出しに行った陸を見送ってから、海と空の三人で、今年最後の大掃除をする。
また来年宜しくね、という思いを込めながら。
昨日の内にあらかた片付けていたので、ワゴンと荷台に荷物を積み込んだら、後は拭き掃除だけ、くらいなもので。
借家の方を先に綺麗にして、陸と渚、汐が帰って来るのを待って、皆で一緒にお店を綺麗に掃除して。
雲間から少しだけのぞいた陽の光が、周囲をオレンジに彩る中、ポツリと海が呟く。
「今年も無事、終わったなぁ〜」
その言葉にしんみりしつつ、お店を見つめて各々呟く。
「ほんとに、これにて営業終了ね〜」
「準備より後片付けの方が、終わるのって早いのよね」
「終わっちゃったね……」
「…………(こくん)」
「また来年、だね〜」
呟いて店を見上げる面々。
色々な事を思い返しながら、各々暫しそこに佇み。
「さぁ〜てと♪ んじゃそろそろ行こ〜ぜ〜? ホテル(あっち)行ってからも、荷物の積み込みやら仕分けやら、しなきゃなんね〜んだからさぁ〜」
あー、めんど。と言いながら、さっさとワゴンに乗り込む海。
それを見つめてから互いに顔を見合わせ、くすりと笑い合う者達。
陸がきっちりと借家とお店の戸締まりを確認し、太陽がお店の出入口を最後にしっかりと施錠して。
各々がワゴンへと向かう中、波打ち際を見つめて、ふと汐が立ち止まり。
「どうしたの、汐? 行くよ?」
それに気付いて、空が首を傾げつつ呟くが、
「うん……」
と返しはしたものの、そこを動こうとしない汐。
それに太陽、陸、渚の三人も立ち止まり、首を傾げる空を見てから汐を見やり。
「置いてっちゃうわよ〜?」
と太陽が声をかけるが、汐が動く気配はない。
太陽達が顔を見合わせている間に、バックミラーで異変を確認した海が、やれやれといった感じでワゴンから降り。
ざっかざっかと、佇む汐に近付いていく。
「なぁんだよ〜? さっきはまた来年、なぁんて言ってたくせに。直前で寂しくなっちまったのかぁ〜?」
「わっ!? 海お姉ちゃんっ? ちが……、わなくないけど、そーじゃなくて」
やや強引に頭を撫でられながらそんな事を言われ驚く汐だが、なんとか声を返してから、ポツリと呟く。
「なんか……なんていうか……よくわかんないけどもうちょっと、〈ここ〉にいなきゃいけないような気が……わわっ!?」
しかし、その言葉が終わらぬ内に、海がひょいっと汐を抱き上げ歩き出す。
「はい却下ー。今日あたしは、ふっかふかの布団で寝てぇんだよっ」
「えぇ〜っ!?」
海の言葉に声を上げ、手足をパタパタとさせて抗議の意を伝える汐だが、海の歩みが止まる訳もなく。
数歩でワゴンに辿り着き、後部座席にぽいっと汐を放り込んで自分も乗り込む。
「もう、海お姉ちゃんってば!」
「別にいいんだけどな? あたしは。でもそれじゃ汐は、陸姉の小言聞きながら、荷ほどきすんだな?」
がばりと起き上がって抗議する汐に、海はニヤリとしてそんな事を告げ。
それに汐がぐっと喉を詰まらせている間に、運転席には太陽が、助手席には陸が、中程の座席に空と渚が乗り込み。
パタン、ドアが閉められる。
「汐、いいのね?」
太陽が、後部座席にいる汐を見つめて告げる。
「……うん」
それにコクリ、頷いて。
エンジンがかかり、動き出すワゴン車。
汐は後ろを振り返って、見えなくなるまで、ずっと海を見つめていた――……
白のワゴン車が走り去ってから、数分後。
「夏の終わりゆく海、というのも良いものだね」
曇り空の中、浜に足を踏み入れる者が一人。
ふわり、緩くウェーブのかかった茶髪を海風に揺らして、その者は静かに、海を見渡すのだった。
同時刻。
たまたま海岸側を通って港に帰ろうとしていた大将は、浜を見やって驚いた。
見知った人物を、見たような気がしたからだ。
しかし、目を擦って再度その場所を見た時には、既に人の姿などなく。
きょろきょろと辺りを見回してみるが、人がいた痕跡すら見付けられず。
瞬きを繰り返し、うーんと唸りつつ頭を掻いて。
「……見間違いかぁ?」
大将はひとつ呟くのだった。
その後には実は…
先書き物上げてるだけです〜
さて、のんびりいきます、よ?




