☆8/30 来訪者
来るの者は…?
空はぶ厚い雨雲に覆われしとしとと、雨が降る。
雨の中、静かに電車が走る。
うろな町と外を繋ぐ唯一のその電車の、ドア付近に立って雨の降る外を眺めている、男が一人。
栗毛をいじりながら、ひとつ呟く。
「……まとめるべきかなぁ?」
ぼそりと呟いた男は、ドアガラスに映る自分を見て苦笑する。
本来なら、緩くウェーブのかかっているだけの栗色のその髪は、雨による湿気で、いつもの倍以上に膨らんでいた。天然パーマゆえの試練だ。
女子などは今日一日、ヘアアイロンとブラシが手放せないだろう。
しかし、その男は苦笑するだけに留め、手早くゴムでまとめただけで満足したのか、視線をまた外へと向ける。
電車は、うろな町へと差し掛かっていた。
「うん。やっぱり雨はいいね」
ガラス越しに、町並みを見つめて呟く。
「雨は穢れを祓い、不浄なモノを浄化し癒す。それに、多くのものにとっては恵みだ。その一滴すら、かけがえない程に」
半月を描く瞳が、柔らかに笑む。
町を見つめるその瞳は、何処までも優しく穏やかで。
暫し静かに外を見つめていると、車内アナウンスが流れ、到着駅が近い事を告げる。
それに、にっこりと笑みを深めて。
足下に置いていた、一人旅用のボストンバックを手に持って。
やがて電車は緩やかに減速し、駅構内へと滑るように入っていき。完全に停車し、両開きの扉がプシュッと開いて。
開いた扉から、ふわり、駅に降りたって。
くるり、周りを見回して、その男はにっこりしたまま呟いた。
「――うん。綺麗な町だね」
そのまま、人波に紛れるかのように歩き出し、その男は、人垣の中へと埋もれていった。
きっと彼の頭はボワワンです(笑)
あ!名前すら出てないっ!




