8/28 勝敗は?
綺羅ケンイチ様のうろな町、六等星のビストロより
十七 『中二病とブルーハワイのコース』のコラボスイーツ話です
つい先程までは晴れていたのだが、天気予報でいっていたように、今や外はゲリラ豪雨に見舞われている。
そんな中海が今いるのは、ホテル〈ブルー・スカイ〉内の第二厨房と呼ばれる場所。
月イチで催されている、スイーツ教室などが行われたりするその場所に、海は今、源海と彼方に向き合うようにして立っていた。
その顔には、ニヤリとした不敵な笑みが。
それに同じく笑みを向け、源海が呟く。
「忙しいというに、こんな所に呼び出しおって。……一体何を始めるつもりじゃ?」
キラリ、眼光鋭く告げる源海に臆する事なく、海は告げる。
「もぅ始まってて終わってるっつーの。忙しいのはわかってっかんな〜」
「ほぉう? まだまだガキのお前に、儂らを気遣う心があったとは驚きじゃな」
「いってろよ。今にんな言葉、吐けなくしてやっからよっ!」
源海の言葉に、ニヤリとした笑みのまま言葉を投げ。
「腰抜かしやがれ、クソジジィ! これが今回のあたしの、挑戦料理だっ!!」
「これはっ!?」
「おぉ!?」
源海と彼方が驚く中、差し出されたのは。
金の縁取が施された、丸皿にのせられた――――
わたあめ。
「ぬぅ?」
「あれ?」
どこからどー見ても、わたあめでしかない。
それを見つめ、訝しげな顔をする源海と彼方。そんな二人にニヤリとしたまま海。
「意外性を突くってのも、たまにはいーモンだろ? ま、とにかく食べてみてくれよ♪」
そう言う海を源海と彼方はじっ、と見つめ。次に皿上のわたあめを見つめ。
綺麗な動作で二人同時にわたあめを掬って、口に入れる。
暫しすると。
『なっ、……なんだコレはぁっ!?』
二人から同時に、驚きの声が上がる。
それに、ニヤリとしたまま海が告げる。
「どーだぁ! 今回のあたしの挑戦料理、〈ブルー・スター 〜彩海の箱庭〜〉の味は!」
それを、聞いているのかいないのか。
源海と彼方の口から言葉が溢れる。
「ふわりと消えるわたあめの甘さ。その後にくる、弾力あるスポンジの中から飛び出すラムネと金平糖。うん、面白くて楽しい食感だ」
「うむ。わたあめにブルーハワイのチョココーティングで甘さが過ぎるかとも思うたが、スポンジとそれに隠されたラムネの爽やかさ、そしてわたあめの内部、飴糸に絡められたアラザンに包まれているビターチョコの苦さ、加えてベリーの酸っぱさが、見事なハーモニーを奏でておる」
呟く二人の前に、わたあめごと半分にしたスイーツの断面を見せる海。
土台のスポンジは、細かく砕かれたラムネ入り。
砂浜の部分には海星が散らばり、チョココーティングされたブルーハワイのシロップが、晴れた日の夏の海を思わせる。
その上空には青の色彩を跳ね返して、アラザンと飴糸で流星群を描いた夜空が広がっていた。
朝と夜。二つの海辺を閉じ込めた、箱庭と呼ぶに相応しい一品がそこにあった。
「わたあめの外側を崩しながらっていうのも、探索心と好奇心が刺激されるし」
「見目に美しいというのも、重要な要素の一つであるしの」
「っ! じゃあ……」
二人からの高評価に、声を上げる海だが。そんな海をギランと光る鋭い眼光でもって、源海は見つめ言い放った。
「じゃがのう、海よ。儂の目と舌を――、騙し通せると思うたか?」
「!」
それに、ぐっと喉を詰まらせる海。そんな海を見やって、源海は続ける。
「この土台――、プロのパティシエのものじゃの。海(お前)が作るモノにしては、少々完成度が高すぎるでのぅ」
「それに今回は少し、土台に頼り過ぎたっていうのも、バレた要因のひとつだな。星空を作ったのはいいが、いつものに比べると、大人しすぎだったからな」
まぁ、意外性を突くっていう点では見事だったんだけどな、と彼方が続ける。
「や〜っぱ無理かぁ。ま、隠してるつもりはなかったんだけどさぁ〜」
それに、あーぁ。とため息を吐く海。しかし、すぐ様その顔をニヤリとしたものに変えて。
「けどさぁ? 見た目、味共に、二人とも評価は高い訳だよねぇ?」
ニッと、その黒の瞳を煌めかせる。
「ぬ」
「おっと。そういえばそうだな」
海のその言葉に、渋い顔をする源海と、苦笑を浮かべる彼方。
海が、今までも幾度となく繰り返している、この挑戦料理。
あるルールは二つだけ。
海が作ったものであるというものと。
源海と彼方、二人の評価が高かった場合のみ、〈ブルー・スカイ〉内にある店舗での取り扱いを許可する、というものだ。
〈誰かとコラボしてはいけない〉。
などというルールは、何処にもない。
ニヤリ。海の笑みが深まる。それを暫し、凝視していた源海だが。ゴホンと一つ咳払いし。
「誰かとコラボする、というのも互いを高める為ならば利であるし、土台との調和を成し遂げたのはまだまだ未熟なれど、小娘にしては見事であった。それに、儂を負かそうというその心意気に免じて、今回ばかりは特別に、許可してやるとするかのぅ」
「……っ! いよっしゃああぁぁぁっ!」
言葉を聞き終わる間もなく、叫んで拳を振り上げる海。こうしちゃいらんねぇっ! と脱兎の如く部屋を飛び出していく。
それを慌ただしい奴だなぁ、と彼方が苦笑を浮かべて呟いたと共に慌てて戻ってきて、
「もち、コラボ先での販売も可、だよなぁ?」
戸口から首だけ覗かせて訊ねる海。
「共同作じゃからの。仕方あるまい」
ため息混じりに呟く源海の言葉を、最後まで聞いているのかいないのか。ひゃっほー! と叫んで、どだだだだっと駆けていく海。
その足音を聞きながら、彼方はくすりと苦笑する。そんな彼方に、源海から声。
「――彼方。わかっておるな?」
源海の言葉に、はいはいと頷いて。
「……まったく。父さんも素直じゃないよなぁ」
苦笑混じりにこっそりと、彼方は呟くのだった。
「彩あぁぁ――っ!!」
バターンッ! 店の扉が壊れるかとの勢いで押し開けられ、声を上げて飛び込んできたのは。
ゲリラ豪雨の中、傘もささずにすっ飛んできた海だった。
「あっ、海っ!? いきなり、びっくりするじゃないのよ!」
それに驚きの声を上げるのは、テーブルを拭いていた彩菜だ。
「傘、さして来なかったの? そのままじゃ風邪ひいちゃうから」
と、葛西さんが厨房から出てきてタオルを差し出しながら告げるが、待ちきれないとでもいうように、飛び込んできた勢いそのままに、海は彩菜にがばりと抱きついて告げた。
「あんたのお陰であのジジィ、唸らせる事が出来たって! マジありがと〜〜彩ぁ〜〜っ!!」
「ちょっ、濡れるじゃないのよっ!!」
それを嫌そうにしながらも、若干嬉しそうな顔の彩菜を、葛西さんは穏やかに見つめ。
暫ししてから、「販売許可、バッチリもらってきたかんね♪」と、海はニカッと笑ってピースするのだった。
そうしてすぐ様、〈ブルー・スター 〜彩海の箱庭〜〉の販売が、ホテル〈ブルー・スカイ〉内の各店舗で販売が開始された、のだが。
「なっ……なんだよこれぇっ!?」
それを見て、海は驚きに声を上げた。
確かに〈ブルー・スター 〜彩海の箱庭〜〉は、ちゃんと販売されている。
……しかし。
その隣に、〈ブルー・スカイVer. 〜小箱遊び・夏〜〉という、ブルー・スカイヴァージョンに改良されたそれが、一緒に並んでいるではないか!
海の脳裏に、「ふおっふおっふおっ」という源海のしたり顔と、笑い声が響き渡り。
「……あっ、……あんの……っっ!!」
握り締めた拳を、ブルブルと震わせ。
海は叫んだ。
「クッソジジイィ〜〜〜〜っっ!!」
海の修行の日々は、まだまだ続くのだった。
じー様の方が上手でした(笑)
飴細工の塔とか立てようかなぁ、とも思ったんですが、彩菜ちゃんが良い土台を作ってくれたので、シンプルにいってみました♪
しかし、すぐバレた(笑)
修行の道は険しいという事で
ARIKAでも販売しますよ
期間短いですけど(苦笑 来年は開始時から置いてそうですが)
ビストロさんの方はおまかせで☆
因みに、ブルー・スカイでは、春夏秋冬の4Ver.ある感じです
綺羅ケンイチ様のうろな町、六等星のビストロより
葛西さんと彩菜ちゃん、コラボスイーツ
お借りしました
おかしな点等ありましたら、ご連絡下さいませ




