8/25 絡まる思考
静かに寝息が響く中。
むくりと起き上がる太陽。
月明かりで明るい寝室内を、音を立てぬよう移動して。
そっと後ろ手に扉を閉め、リビングへと赴く。
窓から入る月明かりのおかげで、難なくリビングまで到着。
テーブルに置いてあるコップを手に取り、小型冷蔵庫の中から、麦茶の入ったボトルを取り出して。
並々と注ぎ、一息のもとに飲み干して。
ふぅっ、と息を吐く。
眠れない――。
なんて事は、そうあるものじゃないのに。
しかし、その原因がなんなのか、などと言わずと知れていて。
「……あぁ、もぅ。明日の営業に差し支えたら、どうしてくれるのよ……」
既に此所にはいない者に溢してスタスタと歩いて、ぽすっとソファに腰を下ろし。
もう一度、息を吐く。
〈汐が狙われている〉。
確かにフィルはそう言った。
ご丁寧に、元老院(敵側)の情報まで付けて。
一度もその事を、考えなかった訳じゃない。
汐が今より小さかった時に一度、拐われかけているのだから。
しかしそれは、表面上でとはいえ〈神殿〉の庇護(監視)下に置かれる事で、払拭されたのだと思っていたのに。
〈盟約〉は覆される。
思いの外あっさりと。
「……お義母さんが死した事で、〈盟約〉なんか無いも同然。アリカ君が見つからないからって、〈何も知らない〉汐に、的を定めたってワケ」
拳を握る手に、力が入る。
そんな事、許せる訳がない。
これが怒りから来るものだと、太陽はちゃんと自覚していた。
しかし、同時に情けなさを痛感して、そんな自分に対する怒りも感じていた。
必要以上に〈関わらない事〉。
それが神殿と、〈持たざる者〉とのルール(取り決め)だ。
それ故の、今の〈自由〉。
本来ならそんなもの(ルールなど)、ありもする筈無いというのに。
永遠(お義母)さんとの事があったから、結ばされただけのモノに過ぎない。
しかし神殿がただ、〈力を持つ者〉を〈継承者〉を、管理する為の場所ではない事を、太陽ももう知っている。
フィルは、神殿が、いや元老院が、〈欲して〉いると言っていた。
〈継承者〉を。
「…………っ!」
関わらない事がルールだからと、もっときちんと聞いておかなかった事を、今更ながらに後悔する。
お義母さんが……お義母さん達が、神殿と繋がりがあった事は知っていた。
しかし、それだけだ。
何故繋がりがあったのか。
どんな繋がりだったのか。
そして、何故〈一代限り〉などという〈盟約〉があるのか。
〈盟約〉によって汐は守られる、とアリカ君は言っていたけれど、それは何故なのか。
わからない事ばかりが、そして後悔ばかりが、ぐるぐると思考の渦を作る。
ただ区別する為だけの、〈番号〉なんかじゃなかった。
ちゃんと〈理由〉があったんだ。
フィルが呼んだ〈七の継承者〉には、ちゃんと意味があったのだから。
〈七の継承者〉が欲しいんだと、はっきり言ってきたのだから。
「……アリカ君の〈視て〉いるモノは、汐の〈視て〉いるモノは……ただ〈キラキラなモノ〉ってだけじゃないの……?」
空のコップが、月明かりを反射し透過するのを見つめながら、太陽は呟く。
「……〈継承者〉に……、アリカ君に、汐に……、一体何があるっていうの……?」
その呟きに、答えなど無く。
月夜の闇に溶けるかのようにして、そっと静かに消え去った。
たぶん、ここから色々動き出します?よ
あと八月は六日ですね…ふふふ




