8/25 またね
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話
8月25日 外出中です(紅と白)と遭遇中です(紅と白)(謎の配達人
の後話となります
「お母さんっ、フィルはっ!?」
勢い良くドアを開けて店に飛び込んで来た汐に、驚いた顔をして太陽。
「えぇと……三時くらいに飛び立って行ったけど……」
「うそっ!?」
太陽のその言葉に声を上げ、太陽が「挨拶には帰ってくるわよ」という言葉を告げる前に、飛び込んで来たのと同様に、店を飛び出していく汐。
「はくじょー者――っ!!」
「……慌ただしいわねぇ……」
叫んで駆けていく汐を、やれやれと見送る太陽。
それに陸と空は苦笑を浮かべ。
「たっだいま〜♪ んぁ? どったの?」
疲れた〜と言いながらバザーから戻ってきた海は、そんな面々を見て首を傾げるのだった。
(……本当にもう行っちゃったのっ!?)
きょろきょろ、辺りを見回しながら浜を駆ける汐。
といっても、特に当てがある訳でもなく。
先程走って来た分もありある程度走った所で、ぜぇはぁと膝に手を付き、立ち止まって息を整える。
周りの景色はオレンジに染まり、海水浴に来ていた者達も、帰り支度を始め出していた。
「……まだ、なにも……っ!」
それがなんだか物悲しくて、溢れてくるモノをごまかすかのように、
「……フィルの……フィルのっ……!」
汐は叫んだ。
「〈レディちゃん〉の、ばかああぁ〜〜っ!!」
公衆の面前だろうと、構うものかと。
自分をこんな気持ちにさせて、何も言わずに行っちゃったフィルが、全部全部悪いんだからと。
するとそれに。
「だぁれが馬鹿だ、コラ!」
「!」
はばたき音と共に、頭上からそんな声が聞こえ。
はっとした汐が慌てて後ろを振り返ると。
ざっと砂を鳴らして空から降り立ったフィルが、汐にその手を伸ばした所で。
「レディちゃんって呼ぶなっつーの! 汐(お前)のこの耳は飾りか? 飾りなのか? この口にはチャックがいんのか、あぁん?」
「ひひゃいっ! ひひゃいっへば〜〜!!」
頬を、むにょんとされる汐。それに吹き出すフィル。
「……っ、ぶはっ! ひゃははっ! おっ前、変な顔〜〜っ!」
「っ! フィルのせいなんだからねっ!?」
腹を抱えて笑うフィルに頬を染めて言い返し、ばかばかっと手を振り上げる。
汐のその手を、フィルはそっと受け止めて。
「……何も、言わずに――、勝手にいなくなったりなんかしたら、ダメなんだからっ……!」
俯いたまま告げられた汐の言葉に、受け止め下ろさせた手は繋いだままに、コツンと、汐の額に自分の額をそっと合わせて。
「……悪りぃ。もーしねぇよ。絶対だ」
「……っ……」
呟かれたフィルの言葉に応えるかのように、汐がきゅっと握られていた手を握り返す。
それに、フィルは苦笑してもう一度ごめんな、と呟いて。
「それで、なんで戻ってきたの?」
「誰かさんが、寂しがるんじゃねーかなぁ〜っと思ってな」
「もぅ! まだそれ言うっ!」
折角聞いてあげたのにっ、と頬を膨らます汐に笑って、フィルはその栗色の頭を撫でつつ告げる。
「ちゃんと、行く前に挨拶はしてこーと思ってたんだって。けど、一羽マメ鳥が足んなくって、探すハメになっちまってさ」
「ちゃんと見つかった?」
首を傾げて告げてくる汐に、ああ、とフィルは頷いて。
「バス停んトコにいた、カガワって奴の、肩の上にいたんだけどさ」
「カガワって……賀川のお兄ちゃんの事?」
「お前、(やっぱり)知ってんの?」
蒼の瞳をぱちくりして訊ねてくるフィルに、汐はコクンと頷いて。
「運送会社のお兄ちゃんだよ。賀川運送っていう」
「へぇ? ご同業、かぁ? ま、いーわ。そいや汐(お前)随分、めっずらしい事してんじゃねーか」
「? 何が?」
はてなと首を傾げる汐に、フィルはニヤニヤとしたまま告げる。
「夜輝石、カガワ(そいつ)にやったんだろ? よかったのか? 大事なモンなんだろ?」
フィルのその問いに、ん〜、と暫し思案し。汐は前を見つめたまま告げる。
「〈必要だった〉から、かな。それに――、フィルと同じだよ?」
「は? 俺?」
汐の言葉に今度はフィルが首を傾げ。それに笑って告げる汐。
「〈託されたもの〉があったの。だからそれを汐は、届けただけだよ」
「……そっか」
呟いてくしゃくしゃと汐の頭を撫でるフィル。そっとそこから手を離し、さて、と呟いて。
「んじゃ、俺様はそろそろ行くぜ。ある程度距離稼いどかねーと、雨雲に追われるハメになるからな」
「――うん、そうだね」
苦笑して呟く汐に、フィルは頭に巻いていたダーバンを外して、それをかぽりと汐に被せながら告げる。
「コレ、やるよ」
「わっ!? フィルっ、なに?」
突然被せられたそれに驚きながら言う汐に、フィルは笑って。
「泣きたくなったら、それ使って泣いていーぜ?」
「もぅ! 全然泣いてない訳じゃないって、言ってるのにっ。……でも、ありがとうね、フィル」
それに頬を膨らます汐だが、お礼をいってから柔らかに笑み。
「あ、そうだ。フィルにもあげるよ」
ポンと手を打って呟いて、首から下げていたペンダントから、夜輝石を取り出して差し出す汐。それに驚いてフィル。
「大事なモンなんだろ? ……いいのか?」
「汐がそうしたいの。だから、ね?」
そんなフィルに、にっこりして告げる汐。
それにそっと手を差し出し、夜輝石を受け取るフィル。
「サンキュー。って、なんで三つ?」
礼をいって開いた手の中には、三つの夜輝石があり。首を傾げるフィルに笑って、栗色の瞳をくるりとさせて告げる汐。
「フィルの分と、ルドの分と、後の一つは、ラタリアお兄ちゃんの分だよ。フィルだったら、お兄ちゃんに届けられるでしょ。――〈ちゃんと届けて〉ね?」
汐の言葉に苦笑する。
「わーったよ、届けてやる。ラタの奴も喜ぶだろうしな。あぁ、それと。もし〈返事〉が来たら、俺様直々に届けに来てやんぜ」
「うん」
それにこくりと頷いて。
「――じゃ、またな、汐」
「うん。またね、レディちゃん?」
汐のその言葉に苦笑して。フィルは一息して鳥笛を鳴らし。
一陣の風のもと、白の大鷲、ルドの背に乗り飛び立つフィル。
「元気でね――!」
その後ろ姿に声を投げ、汐は大きく手を振って見送るのだった。
ラタリアは、女の子じゃあ、ないですよ?
ラタリアイーデが名の、男の子です
賀川さんの分で、百八つの手紙が集まった訳ですが、これでフィル君が輪廻に還る、という事はないです
百八つの業が揃って逝けるのは、至極稀ですので
これで一旦フィル君がうろなを去りますが、また戻ってきて、十月二十三〜冬休み期間中、うろな町に滞在します(段々段々、滞在期間が延びていくなぁ、この子…)
宜しければ絡んでやってくださいませ♪
(フィル君現在十月二十三日、三十日、十一月四日、九日、十三日、十六日、十七日、二十六日予定あり)
あとそろそろ年末情報を
十二月三十一から一月一日、初日の出を海に見に来る人達の為にARIKA開けようかな、と考え中
(年越しそばと漁師汁とぜんざいと甘酒とか売りますよ〜?)
あらすじにも書いてありますが、宜しければご確認くださいね
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より、賀川さん
お借りしております
おかしな点等ありましたら、お知らせくださいませ




