8/25 昼前の海の家ARIKA 1
早めに昼食を取って、と陸に言われ、太陽はピークに突入する前に昼食を取る事にする。
五通の封筒と、今日の賄い〈さっぱり梅シソスパ〉を二つ持って、海水浴客で賑わう中を、フィルを探しながら進む。
探し人は、すぐに見つかった。
ARIKAのすぐ側。白髪に蒼の瞳。加えて肩に鷲を乗せている少年は、この日本ではやはり珍しいのか、周りにちょっとした空きがある。
それに苦笑しながら、封筒を持ち直して、太陽はフィルに近付いていく。
「……ひぃ、ふぅ、みぃ……」
手紙の枚数を数えているフィルに、声をかける。
「最低枚数(百八枚)は、集まった?」
「……九十九、百、百一……あぁ、くそっ! やっぱ足んねえぇ〜っっ!!」
太陽の声を聞いているのかいないのか。ガリガリ頭を掻きながら叫ぶフィル。
そんなフィルに苦笑して、
「はい」
太陽はフィルの目の前に手紙を差し出す。
それにぱちくりとするフィルだが、その宛名を見てバチリと目を見開き、差し出された手紙に手を伸ばすフィル。
「これっ!」
「そ。お義母さんへの手紙、よ」
にっこり告げる太陽に驚くフィルだったが、手紙を速攻で確認すると、そっ……とその手を取り。
「貴女って人はいけない人ですね、太陽さん。海辺で男(俺)と二人きり、だなんて……。何が起こっても知りませんよ?」
熱っぽい視線を注ぎつつ、語るフィル。そんなフィルを、太陽は苦笑まじりに見つめる。
周りには海水浴に来ている人達がいっぱいで、全然、〈二人きり〉なんかじゃないんだけどなー、と思いながら。
「もぅ、バカ言ってないの」
告げて、スルリとその手を離す太陽。それに、ちぇっとした顔をするフィル。
「ほんっとなびかねーよなぁ、太陽さんは。俺様、自信なくしそうだっつの」
「何いってるの」
はぁー、とため息を吐くフィルに〈さっぱり梅シソスパ〉を一つ渡しながら、くすくす笑って太陽。
並んで座って、一緒にお昼を食べる。
波の音と、賑わう周囲の音に耳を傾けながら、暫し食を進め。
ポツリと、フィルが呟く。
「生者から死者へ、死者から生者へ〈想い〉を届ける(俺(様)達みたいな)郵便屋ってのはさ、夭折した魂が、自らの罪を償う為に、神から〈器〉を与えられた奴らってのがなるんだけとさ」
波音と喧騒の中で呟かれるそれを、聞いている者は太陽しかいない。
声は、声によって総裁される。
更に、周りの人々も(フィルの白髪を)一瞬その目に留めるがそれだけで、特に注視している者などはいない為、好都合とばかりにフィルは続ける。
「この世の理から外れた俺様達がまた輪廻に還る為には、百八つの業が綴られた手紙を集めるか、自分の両親、もしくは自分宛ての手紙を、受け取るしか方法がねえんだ」
途方もねぇ話だよな〜と苦笑するフィルに、あら、という顔をして呟く太陽。
「そう? フィルなら出来ると思うわよ?」
「そうそう俺様になら出き……って、えっ!? ……ひっ太陽さん、信じてくれンの!? こんな話……」
太陽の言葉に一瞬頷きそうになりながらも、はっとして驚いた表情で聞き返すフィル。そんなフィルに微笑んで太陽。
「あら。嘘だって思って欲しかったの?」
「いやっ、……そーゆーワケじゃ、ねぇんだけどさ……。フツー、信じねぇだろ?」
ぱちくり、蒼の瞳を瞬いてポカンと太陽を見つめてフィル。
「フィルの言ってる事だもの。信じるわよ」
そんなフィルに、くすくす笑って太陽が告げる。
何もかもわかっているかのような、黒の瞳と視線がぶつかり。
はぁーと息を吐いて頭を抱え、フィルは膝に顔を埋めながら呟く。
「……ほんっと、敵わねぇなぁもう。……でもサンキュ。太陽さんで五人目だ、この話信じてくれたヤツは」
「あらそうなの? それは光栄ね〜。先の四人は誰だったのかしら〜?」
にっこりして訊ねてくる太陽に、苦笑してフィルは告げる。
「永遠様と所在さんは、最初っから解ってるみてぇだった。後はラタリアと、セ……汐、だな」
呟いて、一つ息を吐く。
「ほんっと、驚かされてばっかだっての。まだまだガキんちょの汐に、あんな事言われるたぁ思ってなかったかんな〜」
陽の光を反射して煌めく、青い海を見つめながら囁くように告げるフィル。
「『今、目の前にいるフィルが、汐にとってはフィルなのに。何が違うの?』だってよ」
囁いてニヤリと口角を上げ、くくっと笑う。
「サラッと言ってくれやがって。変わらねーんだとよ」
「……それが汐(あの子)だもの」
敵わねぇよなぁ、と笑うフィル。太陽も穏やかに笑んで眼前の海を見つめ。
暫ししてから、口を開く。
「〈そんな事〉が、聞きたかったんじゃないでしょう?」
澄んだ、黒の瞳に射抜かれる。
それにニヤリとしたまま、フィルは太陽を見つめ返し。
呟く。
「さっすが太陽さん。話が早くて助かるぜ」
フィル君の素性がバレました(笑)
解釈は色々ですが、死んでいる訳ではない事を言っておきます
ちゃんと生きておりますので
なんだかあらぬ方向に、動き出して来ましたよ?




