表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/373

8/25 昼前の海の家ARIKA 1




 早めに昼食を取って、と(むつみ)に言われ、太陽(ひかり)はピークに突入する前に昼食を取る事にする。


 五通の封筒と、今日の賄い〈さっぱり梅シソスパ〉を二つ持って、海水浴客で賑わう中を、フィルを探しながら進む。


 探し人は、すぐに見つかった。


 ARIKAのすぐ側。白髪に蒼の瞳。加えて肩に鷲を乗せている少年は、この日本ではやはり珍しいのか、周りにちょっとした空きがある。


 それに苦笑しながら、封筒を持ち直して、太陽はフィルに近付いていく。


「……ひぃ、ふぅ、みぃ……」


 手紙の枚数を数えているフィルに、声をかける。


「最低枚数(百八枚)は、集まった?」

「……九十九、百、百一……あぁ、くそっ! やっぱ足んねえぇ〜っっ!!」


 太陽の声を聞いているのかいないのか。ガリガリ頭を掻きながら叫ぶフィル。

 そんなフィルに苦笑して、


「はい」


 太陽はフィルの目の前に手紙を差し出す。

 それにぱちくりとするフィルだが、その宛名を見てバチリと目を見開き、差し出された手紙に手を伸ばすフィル。


「これっ!」

「そ。お義母さんへの手紙、よ」


 にっこり告げる太陽に驚くフィルだったが、手紙を速攻で確認すると、そっ……とその手を取り。


「貴女って人はいけない人ですね、太陽さん。海辺で男(俺)と二人きり、だなんて……。何が起こっても知りませんよ?」


 熱っぽい視線を注ぎつつ、語るフィル。そんなフィルを、太陽は苦笑まじりに見つめる。

 周りには海水浴に来ている人達がいっぱいで、全然、〈二人きり〉なんかじゃないんだけどなー、と思いながら。


「もぅ、バカ言ってないの」


 告げて、スルリとその手を離す太陽。それに、ちぇっとした顔をするフィル。


「ほんっとなびかねーよなぁ、太陽さんは。俺様、自信なくしそうだっつの」

「何いってるの」


 はぁー、とため息を吐くフィルに〈さっぱり梅シソスパ〉を一つ渡しながら、くすくす笑って太陽。


 並んで座って、一緒にお昼を食べる。


 波の音と、賑わう周囲の音に耳を傾けながら、暫し食を進め。


 ポツリと、フィルが呟く。


「生者から死者へ、死者から生者へ〈想い〉を届ける(俺(様)達みたいな)郵便屋ってのはさ、夭折(そうせい)した魂が、自らの罪を償う為に、神から〈器〉を与えられた奴らってのがなるんだけとさ」


 波音と喧騒の中で呟かれるそれを、聞いている者は太陽しかいない。

 声は、声によって総裁される。

 更に、周りの人々も(フィルの白髪を)一瞬その目に留めるがそれだけで、特に注視している者などはいない為、好都合とばかりにフィルは続ける。


「この世の理から外れた俺様達がまた輪廻に還る為には、百八つの(カーマ)が綴られた手紙を集めるか、自分の両親、もしくは自分宛ての手紙を、受け取るしか方法がねえんだ」


 途方もねぇ話だよな〜と苦笑するフィルに、あら、という顔をして呟く太陽。


「そう? フィルなら出来ると思うわよ?」

「そうそう俺様になら出き……って、えっ!? ……ひっ太陽さん、信じてくれンの!? こんな話……」


 太陽の言葉に一瞬頷きそうになりながらも、はっとして驚いた表情(かお)で聞き返すフィル。そんなフィルに微笑んで太陽。


「あら。嘘だって思って欲しかったの?」

「いやっ、……そーゆーワケじゃ、ねぇんだけどさ……。フツー、信じねぇだろ?」


 ぱちくり、蒼の瞳を瞬いてポカンと太陽を見つめてフィル。


「フィルの言ってる事だもの。信じるわよ」


 そんなフィルに、くすくす笑って太陽が告げる。

 何もかもわかっているかのような、黒の瞳と視線がぶつかり。

 はぁーと息を吐いて頭を抱え、フィルは膝に顔を埋めながら呟く。


「……ほんっと、敵わねぇなぁもう。……でもサンキュ。太陽さんで五人目だ、この話信じてくれたヤツは」

「あらそうなの? それは光栄ね〜。先の四人は誰だったのかしら〜?」


 にっこりして訊ねてくる太陽に、苦笑してフィルは告げる。


永遠(トワ)様と所在(アリカ)さんは、最初(ハナ)っから解ってるみてぇだった。後はラタリアと、セ……(うしお)、だな」


 呟いて、一つ息を吐く。


「ほんっと、驚かされてばっかだっての。まだまだガキんちょの(セキ)に、あんな事言われるたぁ思ってなかったかんな〜」


 陽の光を反射して煌めく、青い海を見つめながら囁くように告げるフィル。


「『今、目の前にいるフィルが、汐にとってはフィルなのに。何が違うの?』だってよ」


 囁いてニヤリと口角を上げ、くくっと笑う。


「サラッと言ってくれやがって。変わらねーんだとよ」

「……それが汐(あの子)だもの」


 敵わねぇよなぁ、と笑うフィル。太陽も穏やかに笑んで眼前の海を見つめ。


 暫ししてから、口を開く。


「〈そんな事〉が、聞きたかったんじゃないでしょう?」


 澄んだ、黒の瞳に射抜かれる。

 それにニヤリとしたまま、フィルは太陽を見つめ返し。

 呟く。



「さっすが太陽さん。話が早くて助かるぜ」



フィル君の素性がバレました(笑)

解釈は色々ですが、死んでいる訳ではない事を言っておきます

ちゃんと生きておりますので

なんだかあらぬ方向に、動き出して来ましたよ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ