8/24 月が綺麗ですね
忙しいハズなのに、上げてしまうこの不思議…
く…首しま…っ(苦笑)
朝早くだったのに快く迎えてくれた源海に、にっこりとした笑顔を向けて。
ホテルのプライベートフロアの一室で。
傍らでゴロゴロとするフィルと、合間合間で部屋にやってくる源海と一緒に、汐はせっせと手紙を書く。
初めはしぶっていた源海も、三度訪れる頃には、気が進まないながらもその手に筆を取って。
永遠に宛てての手紙を書く。
汐が二歳の時に、逝ってしまった永遠お祖母ちゃんに。
フィルが運ぶ手紙は、生者から死者への手紙。
それもまだ〈この世に転生していない〉死者宛のものだけ、だ。
その点、永遠なら安心出来る。
なんせ永遠は、源海を待っているのだから。
ばーばへ
お元気ですか?
天国の暮らしはどうですか?
もう慣れましたか?
汐も皆も、元気にしています。
此方は相変わらず、色んな所を行ったり来たりの生活です。
あ、でもこの前、じーじが暫くうろな(ここ)に居ないか、と言ってくれたので、今年はうろな町で年越し出来るかもしれません。
お休みする事も、大事だもんね。
お父さんは、相変わらず見つかってません。
……帰っても、まだ来てくれません。
ちゃんとご飯食べてるかな?
ちゃんとお布団のある所で寝てるかな?
お父さん、ふんわりしてるから、その変がちょっぴり心配です。
他人の事は結構気にするのに、自分の事はおいてけぼりだもんね。
会えるかな?
……会えると、いいな。
早く帰って来ないと、お父さんの顔なんて、もう忘れちゃうんだから。
ばーばももし、見かけたら、帰るように言ってね。
皆、待ってるの。
陸お姉ちゃんも、海お姉ちゃんも、空お姉ちゃんも、渚お姉ちゃんも、――もちろん、汐も。
それに――、お母さんが、待ってるの。
もうずぅっと、待ってるの。
これ以上待たせると――いくらお母さんでも、浮気くらいはしちゃうかもしれないよね。
だからねばーば、お願いね。
ばーばにだったら、お父さんも逆らえないもんね。
ちゃんと戻ってくるように、伝えてください。
……なんか、お父さんの事ばっかりになっちゃった。
あれれ。
あ、そうだ。
今年はね、沢山のお友達が出来たんだよ。
皆とっても素敵なの。
それに、とっても良いことがあったんだよ。
また、お墓の方から報告するね。
お手紙のお返事待ってます。
此方はまだ暑いけど、汐も気を付けるから、ばーばも気を付けてね。
汐より
PS.じーじにも、たまにはお返事あげないとダメだよ?
イジけて拗ねちゃうんだからね?
「で〜きたっ!」
昼を少し過ぎた頃。
やっとテーブルから顔を上げる汐。
綺麗に折って、便箋の色と同じ薄青色の封筒に大事そうに入れて、封をする。
「おぅ、やーっと書けたか。待ちくたびれたってぇの。俺様、もぅ腹減って死にそーなんだけど」
それに手だけ上げて、ヒラヒラさせながら言うフィルに、ごめんねと言いながら汐が苦笑していると。
「飯にせんか〜?」
ガチャッとドアを開けて、源海が部屋へと入ってくる。良い匂いが漂うワゴンを押して来た、長男縁を引き連れて。
お部屋で四人で昼食を食べる。
じーじとヨガおじちゃんと、一緒に食べれるのはとっても珍しい。
総支配人のお仕事は、とても大変みたいだし。
だからこうして、一緒に食べれるのは凄く嬉しい。
ヨガおじちゃんは、ちょっとだけお父さんと雰囲気が似てるから。
四人で楽しく昼食を食べている最中、ヨガおじちゃんがこっそりと聞いてきた。
「ねぇ汐。……父さん、手紙ちゃんと書いてたかい?」
「ふふっ。だいじょ〜ぶだよ、ヨガおじちゃん。ちゃあんと書いてたよ〜」
それに、にっこり笑って耳打ちする。
「そうなんだ、珍しいね。ま、汐の頼みなら父さんは断れないけどね。……因みに、何て書いてたか、わかるかい?」
「え〜? う〜んと。……そこまでは流石に言えないの〜」
こっそりと言ってきた呟きに、ごめんねと苦笑して手を合わせる。それにいいさ、と笑う縁。すると突如、インカムにピピッと着信が入る。きっと呼び出しだ。
「……ごめんね。食事の途中だけど、呼び出しみたいだからいくよ。汐はゆっくりしておいで。あぁ、それと――」
「!」
フィルに渡しておいてねと囁き、カサリ、二つの紙を渡して部屋を後にするヨガおじちゃん。
手の中には、キッチリと折られた撫子色の便箋が二枚。
ばーばの好きな、花の色。
じーじの選んだ色と、おんなじ。
それに、嬉しくなって頬を緩める汐なのでした。
三時のおやつ時。出されたスイーツに、歓喜している汐達の傍らで。
源海はこっそりと便箋に筆を走らせる。
ばーさんへ
元気にしとるか?
心配せずとも儂は元気じゃ。
若いもんには、まだまだ負けとれんのでな。
まだまだ、手が離せん奴らばかりでの〜。
まだ暫く、天国には逝けそうにないわい。
それに、孫らとの沢山の思い出を、ばーさんに話して聞かせてやりたいからの。
……そういえば、あの阿呆はまぁだ、帰って来とらんようじゃ。
まったく。我が愚息ながらほんと、太陽さんには勿体無いわい。
もしやもしれんが、ばーさんトコに、いってたりはせんじゃろな?
あやつもばーさんに似て、ぼんやりしとるからの〜。
もし居るようなら、早く帰って来んか! と、縁らがゆーとったと伝えてくれんかの。
ばーさんに言われたなら、あやつも逆らえんじゃろうしのう。
……まぁ兎も角、此方はそう心配する事もないでの。
ゆっくり天国で、待っててくれんかの。
あぁ、あんまり退屈すぎて、浮気などするでないぞ?
そっちには久喜の奴もおるしのぉ。
ばーさん、久喜を好いておったじゃろ?
まぁ……今となっては過ぎた事じゃが。
楽しく過ごせているなら、それでよい。
久喜の奴とも、また酒を酌み交わしたいものじゃのぅ。
おっと、話がそれてしもうたようじゃの。
そろそろ、締め括るとするかのう。
風邪をひく事なく、健康に過ごすんじゃぞ?
――あぁ、そうじゃ。最後に、ひとつ。
『月が綺麗ですね』
源海 拝
筆を置き。したためた文を封筒に入れ。そっと封をして。
源海は、窓の外をそっと見上げる。
沈みかけた太陽と入れ替わるかのように顔を出した綺麗な月が、ゆっくりと、昇り始めてきた所だった。
本当は、もっと夜にやりたかった…
でもある理由により昇りかけで…
とにあ様のURONA・あ・らかるとより、久喜様
お名前だけですがお借りしております
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