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8/24 早朝の使い




「……うにゅ」


 徐々に日の光の溢れる中、もぞりと起き上がる(うしお)


 ぼーっとしたまま辺りを見回し。

 すーすーと規則正しく寝息をたてる太陽(ひかり)(むつみ)(あみ)を確認し、空と渚が居ないのに、二人が寝ていた辺りをタフタフと撫で。


「……冷たい」


 温もりがもうない事に、今日は二人で潜りにいったんだな、と結論付けて、ぽふりと寝転び再び、汐が微睡みに身を委ねようとした所で。


 バサッサ、バサッサ、バサッサ……


 独特な羽ばたき音が、その耳に届く。


「!」


 それにバチリと両の瞳を開いて。窓の外を慌てて振り仰ぐ汐。

 するとすぐ近くを大きな影が、旋回するように横切っていったのが見えた。


 それを目に捉えるやいなや、枕元に用意しておいた服に速攻で着替え、手ぐしで髪を整えて、勢い良く家を飛び出していく汐。走りながら叫ぶ。


「イグリ――ルド――ッッ!!」


 両手を広げて駆ける汐の前方に、今まさに、白の大鷲がその翼を羽ばたかせ、降り立とうとしている所だった。

 砂煙があがっているのもかまわず、その大鷲に飛び込んでいく汐。がばりと抱き付き、告げる。


「ルド、久しぶりだね〜! 元気だった?」


 ふわふわの胸毛に頬をすり寄せ、嬉しげに告げる汐の頭上から、声。


「先にルドに挨拶かよ。(セキ)、俺にはねーの?」


 少年のようなその声に、不満げに声のした方を見やって告げる汐。


「もぅ! セキじゃないってば、フィル。う・し・お、汐だよっ」


 それにわりぃわりぃと笑って告げ、大鷲ルドの背からヒラリと降り立つ少年。

 キョロリと辺りを見回して、


陸海空(リクカイクウ)に、(ショウ)もいねぇな? まさかセキ(お前)、言わずに来たんじゃねぇだろ〜な〜?」


 ジロリと汐を見て告げる。それにぐっと息を詰まらせながらも、なんとか言い返す汐。


「すぐ戻るもんっ! それと、お姉ちゃん達の名前はリクカイクウにショウじゃないってば! 直さないと、海お姉ちゃんみたいに「レディちゃん」って呼ぶからねっ?」

「うげ。それだけは勘弁。ちぇっ、わかったよ」


 レディちゃんの所で物凄く嫌そうな顔をして、唇を尖らせて呟く少年、フィル。逸らしていた目を戻して暫し。

 どちらともなくぷっと笑って。


「久し振りだな、汐。俺様の身長にもー追い付くたぁ、随分と生意気になりやがって」

身長(これ)は汐のせいじゃないよ〜。でも、ほんと久しぶりだね、フィル」


 フィルは白銀の髪を揺らし蒼の瞳を細めてニカッと笑い、汐もそれに、にっこりと微笑んだのだった。




 レディフィルド・イルヴォーグ・レジテ


 背丈は汐と然程変わらないが、これでも成人している大人。現代の小人族の少年(青年)である。

 フィルの仕事は手紙収集。手紙専門の郵便屋だ。

 といっても、普通の郵便屋ではないが。


 死した人に手紙を届ける――


 死んでしまった大切な人へ、生者からの言葉を集め、届けるのが彼の役目。


 正確には、フィル(その他先輩郵便屋)が集めた生者からの死者への手紙を、霊峰の頂上に建てられた神殿へ、届けるのが仕事である。


 その神殿にある、神より賜られたと言われる〈神火〉によって焚き上げられた〈言の葉〉は、天にいる死者の元に届くのだと言われている。

 そしてそこから焚き上げられた手紙には、死者から生者に、返事の便りが返ってくるのだとも、まことしやかに囁かれている――……




「今回の日本担当は、フィルなんだね〜」

「あぁ」


 白鷲のルドを撫でながら言う汐に答え、フィルは胸に下げた笛を取り出す。

 鳥笛だ。

 死者への手紙を渡したい者の所にしか現れない、神殿が育成しているマメ鳥を、呼び寄せる為の(もの)

 この笛の音は、普通の人には聞こえないのだが。


「…………」


 フィルが笛を吹く、と。


「ぎゃあああぁぁぁっっ!!!?」


 叫び声を上げて、一瞬の後に(あみ)がそこに駆け付け、フィルの肩を掴んでガクガクとさせる。


「て〜め〜え〜は〜〜っっ!! 準備くらいさせろってんだよコラァ!! 死にてぇのかっ、あぁん!?」


 どうやら、海には聞こえているらしい。……物凄〜くイヤな音らしいが。


「あはははは。い〜じゃねぇかよ兄弟。この国じゃ早起きは三文の得なんだろ? 良かったなぁカイ(海)、早く起きれて。俺様に感謝しろよ〜?」


 ガクガク頭を揺さぶられても平気な顔で、フィルは笑い告げる。それに歯をギリギリさせながら海。


「レ〜デ〜ィ〜っ!!」


 今にもフィルを海底に沈めそうな海を、制したのは遅れて来ていた太陽(ひかり)だった。


「あら、フィル。随分久し振りねぇ」

「ひっかりさああぁぁんっ! 俺は貴女に会う為に、海まで越えて来てしまいましたよぅ〜。あぁ〜この張り裂ける胸の内を、一体どう伝えたら貴女に届くんだ」


 それに、シュバビッと太陽の前に跪き、その手を取って熱弁し出すフィル。

 さっきまでとはまるで別人である。


「…………」

「…………」

「…………」


 そんなフィルを、ただ呆れたように見つめる海と汐。太陽は苦笑を浮かべている。


「あ、そうだ!」


 その沈黙の内に何かを閃いたのか、ぽんと汐が手を合わせ。


「フィル、いつまでここにいられるの?」

「ん〜? 明日の夕方にゃ立つかなぁ。ここいら月曜から雨だろ? 大事な手紙、濡らす訳にゃいかね〜からな」


 フィルのその言葉に大変! といった顔をして、家に向かって駆け出す汐。


「今日中に書くから、ちゃんとばーばに届けてね、フィルっ! お母さ〜ん、汐、じーじのトコ行ってくる〜〜っっ!!」

「えぇっ!? ちょ、ちょっとあんた、朝ご飯はっ!?」


 驚いた様子で叫ぶ太陽に、汐は「じーじのトコで食べる〜」とだけ告げて家に飛び込み。小さなバックだけ持って、ホテルの方へ走っていく。


 その後を、太陽に厳命されたフィルが、わたわたと追うハメになった。



単発キャラ(笑)


レディフィルドとイグリールド(大鷲)


そんなのがいるよ、という噂とか流れたらいいなぁ〜?


25日夕方にはうろなを去ります〜



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