8/23 森のお家で2
ユキの、息を飲む気配。
汐はただ、静かにそれを見つめ。
(……どういう、事だ……? ……まさか、汐ちゃんは――……)
一枚壁を隔てた先で、賀川は思考を巡らせ。
暫しの後、汐が再び言葉を紡ぐ。
「ユキお姉ちゃんは、忘れちゃってるかもだけど……。でもお姉ちゃん〈達〉は、知ってるはずだよ?」
囁くように、静かに。
「一人残される寂しさを、待つ事の苦しさを……。なのに――……なのにどうして、〈自己犠牲〉(それ)を選び願えるの……?」
静かに静かに、言葉を紡ぐ。
「お姉ちゃんは優しいから、〈皆の幸せ〉の為に、それを望むんだろうけど……。どうして、〈自分〉は、入ってないの……?」
呟いて、ぐっとコップを持つ手に力を込め。
届くようにと、言の葉に思いを込めて。
「〈自分を入れた皆の幸せ〉じゃなきゃ……、皆、幸せになんて、なれないんだよっ……?」
叫ぶかのような、汐のその言葉に、
「……私には……わかり、ません……っ」
俯き呟いて、静かに涙を流すユキ。その膝の上で、丸まっていた時雨がユキに、スリスリと頬をすり寄せる。
それに慌てて汐が椅子から下りて、ユキの傍に駆け寄って、
「ごめんね、ごめんね。ユキお姉ちゃんを、悲しませようと思って言った訳じゃないの」
背伸びして、ユキのその頭を撫でながら告げる汐。静かに続ける。
「自分の事、あんまり悪く思っちゃダメだよ。この世に生まれて来るもの達はね、どんな運命を背負っていたとしても、皆神様に愛されて、天使に祝福されて、何より両親に、家族に、周りの全てのものに望まれて、生まれてくるんだって」
よしよしと、優しく頭を撫でながら。
「だからね、皆幸せになる権利があるの。求める事は、自然な事なんだって」
柔らかに微笑み、呟く汐。
「お姉ちゃん〈達〉の心の〈奥底のキラキラ〉を、わかってもらえる人に、きちんと話せる人に、早く出会えるといいね……」
「……っ……」
ユキの涙が止まるまで、優しく優しく、頭を撫で続ける汐。
「……ありがとう、ございます。もう、大丈夫だから……」
暫くしてからそう言って、小さく微笑するユキに、
「変な話、聞かせちゃってごめんね、ユキお姉ちゃん。お詫びに、ユキお姉ちゃんの我儘一個、聞いてあげるよ〜」
初めの方は苦笑して、後の方はにっこり笑って、告げる汐。
「えっ! いいですよ、そんな……」
汐の提案にぶんぶん手を振って、断りを入れようとするユキ。
「汐がしたいの〜。だからさせて? ね」
それを制するように、にっこりと微笑む汐。それに、
「……わかりました。じゃあ、今度会う時までに考えておきますね」
苦笑を浮かべて頷くユキ。ユキのその耳に、汐はそっと唇を寄せて。
「我儘ね、ユキお姉ちゃんから、賀川のお兄ちゃんに、でも大丈夫だよ?」
「えっ!?」
驚くユキににっこりして、わざと大きめに声を上げる。
「そろそろ帰らないとだよね? 賀川のお兄ちゃん、呼んで来るね〜」
(っ!)
「えっ? あ、あの、汐ちゃん……?」
驚いたままのユキを残して、すっと戸口の影へと消える汐。
そこには既に先客である、壁に張り付いたままの、賀川がいた。
「…………」
頬を掻いて苦笑する賀川に、にーっこりとする汐。
それに一つ息を吐いて、こっそりと賀川は汐に囁く。
「ユキさんの事を、心配してくれてありがとう。自分の事も色々あるんだけれど……」
言葉を切って、柔らかに笑み。
「汐ちゃんの言葉で尚更、強く思ったよ。俺は彼女の為に生き抜くから。ありがとう」
賀川のその言葉に、陽だまりのような笑顔を向ける汐。一つ、付け加える。
「ユキお姉ちゃんと〈一緒〉に、生き抜いてね?」
それにくすり、苦笑して。
「――あぁ、そうだね」
賀川は頷き、呟いた。
その後、汐は賀川にもユキと同様に「我儘を一つ聞いてあげる」と告げて、こそっと囁く。
「賀川のお兄ちゃんから、ユキお姉ちゃんへ、でもい〜よ〜?」
「えっ!?」
驚く賀川に、汐は悪戯っぽく微笑むのだった。
長かったので、1と2に分けました
しかし、やはり凄い話ですね…(自分で書いておきながら…)
子供に何を言わせているのか…(汗)
でもこれは汐じゃないと、ダメな話だったので
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
ユキちゃん、賀川さん
とにあ様の時雨より
時雨ちゃん
お借りしてます
また
YL様のうろな町の教育を考える会 業務日誌より
司先生、果穂先生、拓人先生
とにあ様のURONA・あ・らかるとより、日生兄弟妹
お名前を出させて頂いてます
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ
さぁ、帰りますよ〜




