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8/23 道行き猫と、森中の遭遇




「それじゃあユキさん、ちょっと散歩に行ってくるよ」

「あ、はい。気を付けて行ってきてくださいね」


 森の中。チョコレート色の小屋の玄関前でそう言葉を交わし、意外とすんなり(巡視の為に)抜け出せた事にほっとしつつ、賀川はそっとその場を後にする。


「あ……」


 その後ろ姿に知らずと手を伸ばしかけるユキだが、そのままただ、見送るに留め。くるりと背を向けて、小屋の中に入っていくユキ。


「…………」


 それを横目でこっそりと確認してから、賀川は森への道を歩き出すのだった。




 その少し前、森の入口。


「それじゃ夕方迎えに来るから。森の中は危ないトコがあるかもしれないから、十分気を付けてね? 変な所とか、覗きに行ったりしちゃダメなんだからね?」

「空お姉ちゃん。ソレ、家出る時も聞いたよ〜? 大丈夫だよ、まだこんなに明るいんだし。ちゃんと真っ直ぐ行って、真っ直ぐ帰って来るから」


 エンジン付きキックボードで森の入口まで送ったはいいものの、まだ心配そうな空に(うしお)はにっこりと笑顔で告げ。何度も此方を振り返る空を「大丈夫だよ。空お姉ちゃんこそ早くしないと遅れるよ?」と、なんとか送り出し。


 白い車が止まっているすぐ側を抜け、森に入ろうとした所で、入口にちょこんと座っている黒い塊に気が付いた。

 白の前足を揃えて、尻尾をゆらゆら揺らしながら、此方を見上げてくる黒猫。


「手袋ちゃん……じゃなかった。時雨ちゃん?」

「なっ」


 汐の問い掛けにひと鳴きして、森の中へトコトコと歩いていく黒猫、時雨。ちょっと行った先で汐を振り返り、来ないの? という顔をする。


「一緒に行ってくれるの? ありがとうっ」


 それに笑顔でお礼を言って、森の小さき案内人、時雨と共に、汐は森の小屋目指して歩き出すのだった。




 ぴょん、ぴょんっ

 危なそうな箇所を避けて進んでくれる時雨のおかげで、わりとスムーズに森の中を歩き進める汐。

 太陽のギラつく日の下は猛暑の為かなり暑かったが、森の中は木々の作る木陰により若干涼しい。


 森に入るまでは被っていたつば広の帽子を脱ぎ、藍染めのシュシュで二つに結わえた栗色のしっぽと花柄のチュニックの裾を揺らして、時雨の後を追いかける汐。

 夏のせいか草が良く伸びている所もあり、見失わないよう追いながら、ジーンズに履き慣れた靴で来たのは正解だったな、と思う。


 木漏れ日がキラキラと森を彩る中、ある程度森を進んだ所で、一回休憩。


 首から下げたコップ付きペットボトルからコップを取り外して、小川の水をコップに汲んで、それを時雨ちゃんに差し出し。

 自分はスポーツドリンクの入っているペットボトルに、そのまま口をつける。


 柔らかに風のそよぐ中、暫し木陰で休んで体力回復してから、


「よ〜し。それじゃあ再び、出発進行〜♪」

「な〜」


 誰にともなく告げて、持ってきた物を忘れないよう、しっかりと手に持ってから汐がすっくと立ち上がった所で、


「…………?」


 サワリと風が頬を撫でたのと同時に、〈不思議なモノ〉をふと感じて、立ち止まる汐。


「んなーぁ?」


 そんな汐を振り返り、不思議そうに見上げる時雨。それに苦笑しつつ告げる。


「あ、時雨ちゃんごめんね。……でも、なんか……」


 言いながら、そっと前を見つめる。


(……なんだろう……? なんだか胸が――どきどき、する……)


 知らずと握っていた夜輝石の銀の鎖が、チャリと小さく音を立てる。

 それと同時に、前方からもガサリとした音が響き。


「!」


 ピン! と時雨の耳が立つ。規則正しい音の響きに合わせ、ぴくぴくと忙しなく動く耳。


(……足音……?)


 思案しながら前を見つめる汐の耳に、一際大きく音が聞こえ、その栗色の瞳が、木陰から出て来た人影を捉える。


「……こんな所に、子供……?」


 木陰から出てきたその人物は、驚いたような顔で汐を見つめ。


「なぅっ!」

「わっ!?」


 足下から聞こえて来た時雨の声に驚いて、慌てて声のした方を向いて。


「……なんだ猫か……。ってもしかして君、軍手くんかい?」


 前足の白いのに気付いて、その場によいしょと屈み込む。


「………………」


 それを、目をぱちばちと瞬いて暫し見つめ、〈不思議な感じ〉がいつの間にか無くなっているのに、はてなと小首を傾げてから、持ち前の人懐っこさで、てててっとその人物に近付いていく汐。


「こんにちは。お兄ちゃんは森のお散歩中?」

「あぁ、うん。まぁそんな所かな。ところで君こそ、こんな所に一人で、どうしたんだい?」


 そう訊ねられてから気付いたようにはっとして、ぺこりんとお辞儀してから告げる汐。


「あ、ごめんなさい。私、青空汐です。お兄ちゃんのお名前は?」


 栗色の、キラキラした瞳で見つめられたままそう聞かれ、


「……あ、きら……っ! ――sorry.賀川、だよ。そう呼んでくれたら嬉しい」


 呟くように告げてから、言い直すその人――賀川さん。

 それを特に気にしたふうもなく、


「うん。賀川のお兄ちゃん、だね」


 にっこりとする汐。

 そんな汐に訊ねる賀川。


「そ、それで。汐ちゃんはどうしてこんな所に?」

「お見舞いだよ〜。ユキお姉ちゃん、この先に〈いる〉から」


 それに笑顔で答え、またね〜と行こうとする汐を、驚きつつ引き止める賀川。


「ちょ、ちょっと待って。ちゃんと誰かにここに来ること、言ってからきたの?」

「うん? 空お姉ちゃんに言ってきたよ〜?」


 くるりんと振り返って告げる汐。その顔に嘘をついているような感じはしない。


(……嘘は言ってないみたいだけど、森の奥まで子供が一人で……?)


 思案する賀川。一人で、の所がどうやら声に出ていたらしい。

 それに汐が答える。


「一人じゃないよ? 時雨ちゃんがいるから」

「なっ」


 汐の言葉に、足下にちょこんと座っている時雨が、返事をするかのように鳴く。


「…………」

(……子供一人と、猫一匹……)


 それに、悩ましげな賀川。暫しうーんと唸ってから、小さく挙手して告げる。


「……わかった。ユキさんの友達みたいだし、俺も一緒に行くよ」

「わぁ、ありがとうっ賀川のお兄ちゃん!」


 賀川の提案に、ぱぁっと瞳を輝かせる汐。


 こうして、猫時雨を筆頭に、その後に汐が、汐の後を賀川が半ば、引率者的について行くという、三者での森の道行きとなった。




 森の中を歩きながら、ユキさんの知り合いだとか、なんでお見舞いに来たのか等互いに話ながら進む中、前を歩く汐が引いている、旅行鞄のような物に賀川が気付き。


「持ってあげるよ」


 と言って、汐が何か言うより早く、ひょいっとその手に取る賀川。

 すると。


《――危険感知。防護モード起動》


 ビ――ッという警告音と共に、妙に機械的な声が聞こえ。


「えっ?」

「あっ!」


 驚く二人を余所に、旅行鞄の取手部分から伸びた輪っかのようなモノが、賀川の手をがっちりと掴み。


《――重壁要塞モード》


 機械音声と共に、重力に引かれて賀川ごと地に落下する鞄。

 ゴッ! という音を立てて落下した鞄は地を穿ち、周囲にいたらしい鳥を飛び立たせ。


「重――――っ!?」

「きゃ〜〜っ! ごめんなさ〜〜いっ!」


 森中に、賀川と汐の声が響き渡った――……



 因みに、先を歩いていた時雨は全くの無害で、木漏れ日の降る岩の上にちょこんと座り、くわぁと欠伸を一つした。


 森の家は、もうすぐそこ。



道案内をお願いしてしまいました(笑)

ありがとうございます〜

しかし汐、何をどんだけ持ってきてるの…(汗)


桜月様、先見して頂いたものより、増えたり増えたり…しております(苦笑)

不都合な所などありましたら、お知らせくださいませ


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

ユキちゃん、賀川さん


とにあ様の時雨より

時雨ちゃん


お借りしております


おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ


さぁ、森のお家にいきますよ〜



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