8/22 託されたもの
桜月りま様の
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話
8月21日(海へ)の後日話となっております
お店の営業が終わって、暫く。
先に隣の家に帰っていた汐は、疲れて帰ってくるだろう皆の為に、お茶と軽食、あと少しの甘味が乗せられたトレイを人数分、テーブルの上に並べていた。
皆が座る所は大体決まっているので、各々の好みと量、それと今日の気分を考えて品を置いていく。
こーゆー時、キラキラが見えると便利だよね〜と思いながら並べ、ある一点だけは完璧なセッティングが出来た、とテーブルを見回して汐が頷いていると。
『ただいまー』
「あ〜疲れた〜っ!」
「今日もお客さんいっぱいだったね〜」
「…………疲れた」
などと言いながら、皆が帰ってきた。
「おかえりなさ〜い」
その声に、汐は笑顔で皆を出迎えるのだった。
「……なんであたしだけ、コレなワケ……?」
言いながら、小首を傾げる海。
汐以外の他の皆は、微苦笑を浮かべている。
海以外の皆の前には、今日のプチサンドと様々な甘味に、お茶がきちんと並べられていたのだが。
海の前には、お茶と今日のプチサンドに加え、何故か。
デカイ皿に揚げたパンの耳(バターシュガー味)が、大量に山積みされていた。
作りたての、良い香りが漂っている。
渚の発明品、油なしで揚げられる〈カリっとくん・二号〉によって汐が一人で作れる、揚げ物お菓子の一つである。
「……汐。あたしなんかした……?」
山積みの揚げパンの耳を見つめてから、斜め横に座る汐を見て海が訊ねる。
「知らないも〜ん」
つーん。
それにぷいっと顔を背けて告げる汐。
これは……何かしてしまったのは明白だ。
しかし、海にそんな覚えはない。
助けを求めるように太陽や陸、空や渚に視線を向けるが、どうやら原因を知っている者はいないらしい。
皆一様に首を傾げるのみ。
(え〜? あたしなんかしたっけ……? ここ最近、んな記憶ねぇぞ……?)
う〜ん、と顎に手を添え考える海だが、元々頭で考えたりするのは得意ではない。どちらかと言えば先に身体が動くタイプなので、原因はわからないがわからないなりに考え、パン、と手を合わせて謝る。
「なんかわからんけど、悪かったって。このと〜り、謝るから許してくれよ。な?」
しかし。
「わからないんだったら意味ないもんっ」
ぷいっと、更に顔を背ける汐。
それに、仕方なく助け船を出してやる太陽。
「海だって、わからないんだったら謝りようがないでしょう? 意地悪してないで、教えてあげたら?」
「む〜〜」
それに、汐が恨みがましい視線を一瞬だけ向けるが、仕方ないなぁといった感じでぽつんと呟く。
「昨日海お姉ちゃん、ユキお姉ちゃんに失礼な態度取ったんだもん」
「……あ〜、アレかぁ……」
汐の言葉に、頬を掻きつつ呟いて、今度は海が視線を逸らす。
それに、事情を知らない陸、空、渚が小首を傾げ、太陽が、「汐の為とはいえ、お客さんに対して海が突っ走った」んだと説明する。
その間に汐が言葉を続ける。
「体調良くないのに、絵持ってきてくれたんだよ? それなのに」
「あーもー! 悪かったってば。ライブあるってんでいつもより忙しかったから、確かに気ぃたってたよ。あたしが全面的に悪かったって。だから機嫌直してくれよ、汐〜〜」
それにこのとーり! と深々頭を下げる海。
それをじとーっと汐は見つめ。
そんな汐に、空や陸が「許してあげたら?」と声をかける。
しかし、汐が黙ったままでいると、それまで黙っていた渚がボソッと告げた。
「…………汐のため。それに……海姉が悩んでるの気持ち悪いし、悩むと料理の質が落ちる。それは、…………困る」
それに、カクッと海がソファーからずり落ちそうになる。
「渚、お前なぁ……」
脱力した感じで呟く海。
それに、堪えきれすに汐がくすくすと笑い出し。
皆からも、苦笑がもれる。
「海お姉ちゃん、ホントに悪かったって思ってる?」
「思ってるって! なんだったら、汐のお願いなんでもきーてやるからさぁ」
汐の咎めるような声に、慌ててビシリと姿勢を整え、再度頭を下げる海。
海のその言葉に、汐はにっこりして問う。
「なんでも?」
「おう」
「ホントに?」
「この海ちゃんに、二言はないぜ」
ふふんと言い切る海に、満全の笑顔を向ける汐。
その様子を見て、太陽ならびに三人の姉妹達があ〜あ、という顔をするが、海はまったくもって気が付いていなかった。
「じゃあ、明日ユキお姉ちゃんのお見舞い行くから、マンゴーちょうだい?」
「いいぜ〜? マンゴーの一つやふたつ……ってマンゴーっ!?」
可愛くおねだりしてくる汐によしよしと頷いて告げる海だったが、自分で言いながら驚き、慌てて汐に告げる。
「う、汐も知ってるだろ? マンゴーって、夏の果物の中では一番高……」
「それくらい知ってるよぉ〜。一緒にセリに行ったの汐だよ? それにウチのは国産だもんね。お店で使ってる果物の中では、一番高いよね〜。海お姉ちゃん太っ腹〜。あ、でもドラゴンフルーツも欲しいかも。ちょっとクセがあるけど、ビタミンいっぱいだし、凍らせてから食べたらすごく甘いし」
つらつら、高級フルーツの名を笑顔であげていく汐に、
「あ……、あああのな、汐……?」
海がなんとか声をかけるが、
「これはユキお姉ちゃんへのお詫びだもんね? それに、海お姉ちゃんに二言はないんだよね〜?」
キラキラした微笑みと共にそんな事を言われてしまえば、海にもう、何か言えよう筈もなく。
ふぅ……と、意識を手離すので精一杯だった。
パタリ、ソファーに倒れ込む海。
そのせいでちょっと騒がしくなる室内。
そんな中、汐はひそり、悪戯っぽくその口元を緩めるのだった。
にわかに騒ぎがあった為に、いつも雑魚寝に使っている寝室には今、汐一人だけがそこにいた。
フリルの付いたワンピースタイプの寝間着を着て、その首に夜輝石のペンダントを下げている。
夜輝石は父所在からのお中元の品だが、太陽や姉達から「これは〈汐の〉だと思う」と言われ、貰ったのだった。
貰ったその日から、ずっと身に付けている。
キラリと銀の鎖を揺らして、壁の絵へと近付く。
壁に掛けられた、ユキお姉ちゃんから貰ったイルカの絵を見つめて、呟く。
「……ユキお姉ちゃん、〈大丈夫〉だよね……?」
言いながら、そっとその絵に触れる。
すると。
「!」
イルカの絵がほわりと光り、触れた手から、〈キラキラ〉が汐の身体に渡り。
全身を巡った所で一度強い光を放つと、下げられたペンダント、夜輝石の中へとすうっと入り込んでいく。
「………………」
それに暫し、その栗色の瞳をぱちくりとしていた汐だったが、ぺたんとその場に座り込み、銀の細工で縁取られた夜輝石をそっと握って。
「……イルカさんも、ユキお姉ちゃんが心配なんだね。……うん、わかった。ちゃんと届けるよ……」
汐のその声に呼応するかのように、ほわりと、夜輝石が柔らかに瞬いたのだった。
なんか汐が小悪魔的…(笑)
この後海は、バザーで馬車馬のように働くハメになるのでしょうね、きっと(笑)
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
ユキちゃんのお名前と、頂いたイルカさんのイラストの事を出させて頂きました
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ
さて、明日はお見舞いです〜♪




