8/18 受け継がれているもの
「そいや、あたしらって皆ちゃんと、継いでるよねぇ。どーゆーワケかさ」
閉店後、店内の掃除をしながら、海がふと呟く。
「何をよ?」
それに、その隣で調理台を拭いていた陸が、訝しげに声をかける。
店内には二人の他に太陽、空、渚、汐の四人もいて、皆各々掃除をしながらも、海の声にそっと耳を傾ける。
「そりゃ当〜然、オヤジの遺伝子……ってか、オヤジが持ってたモノを、だって」
ふっと苦笑しつつ、続ける。
「オカンが色々大雑把だから、変わりにオヤジがキッチリしてるワケだけど、そのキッチリしてるトコ、陸姉がしっかり継いでるし」
「必要に迫られたから……感が有りすぎな気がしないでもないけど、まぁ、そうよね」
海の言葉に苦笑しつつも、こくりと頷く陸。
窓を拭いていた太陽が、海の大雑把な、な所で「そんな褒めなくても〜」と呟くが、皆微苦笑を浮かべるのみで、海の言葉に耳を傾ける。
「あたしが料理に走ったのだって、オヤジのおかげと言えば、まぁ、そーだしなぁ」
『そうなの?』
あはは〜と苦笑いして告げる海に、事情を知らない陸、空、渚が首を傾げつつ訊ねる。
そんな三人と海を見つめ、苦笑を浮かべる太陽と汐。
「ま、まぁそれは置いといて。んで、空は裁縫と歌だしさ。オヤジ手先器用だったし、気付いた時には必ず、なんかは口ずさんでただろ? 良いことがあったら大抵、歌ってたじゃん」
「そうだね。お父さんがいた時はいつも、歌が流れてたんだよね。だから私……歌、好きになったんだもの」
その時を思い出してか、柔らかに微笑みながら、空が掃除の手を止め呟く。
それに、皆も笑みを向ける。
「んで、渚は発明じゃん。ま、オヤジは発明とか出来なかったけどさ。オヤジがジャンク集め趣味にしてたから、渚が発明に目覚めたんだしね〜」
「…………やってみたら出来た、ってだけ。それに、質がよかったから」
ポソリと呟く渚に、にんまりとして海が告げる。
「でも好きだろ?」
それに驚いた顔をしてから、
「…………ん」
小さく呟いて、渚はそっと笑みを見せる。
「んで、汐はオヤジの容姿まんま継いだし、あの力まで、継いだワケじゃん」
「そ〜だね〜」
海の言葉に、にっこりして汐が答える。それに苦笑し、
「で、だけどさぁ」
と呟いて、すぃっと太陽を見て、告げる海。
「そんな、オヤジの面影残りまくりのあたし等見てて、オカンは、ホントにだいじょーぶなんかなぁ? って、ちょっと思ったり、した、んだけど……」
段々と目が逸らされ、声が小さくなっていく。
それも、仕方がないというもの。
太陽、以下陸、空、渚の三人の顔が、驚いたような、ポカンとした表情をしていたからだ。
「……〜〜〜〜っっ!!」
それに、頬を赤らめそっぽを向く海。
それを汐はにこにこと見つめ。
「あっははははっ!!」
太陽が盛大に吹き出す。
それにつられるようにして、海以外の皆からも笑い声が上がる。
「あっ、あんた、そんなこと気にしてたの〜〜!?」
「海にしては、随分珍しいこと言うから、何かと思えば……」
「海お姉ちゃん、可愛い♪」
「…………びっくり。でも、わからなくも、ない」
「この前、お父さんからのお中元、届いたからだよね〜?」
くすくす笑いながら各々が告げる中、あーもー! と頭をもみくちゃにしてから、
「くそっ……言うんじゃなかった……」
ボソっと呟いて、台の上に突っ伏す海。
そんな海に苦笑して、太陽は告げる。
「大丈夫、に決まってるでしょ。むしろちゃんと、所在君との証が、繋がりがあるんだなぁって、嬉しいくらいなのに」
「!」
「っ! お母さんっ」
それに、たまらず空は太陽に抱き付き。
「……あ、えぇと……」
「…………っ」
陸と渚は、目を世話しなくぱちぱちと瞬き、ほんのりと頬を染め。
汐は、いつの間にか太陽の傍らに寄り添い、にっこりとした笑顔を向ける。
そんな汐の頭を、そっと優しく撫でる太陽。
その間に、
「べっ……別に、んなこと(ノロケ)聞きたかったワケじゃねぇってのっ! もーあたし寝るからねっ! おやすみっ!」
早口で言って、どかどかとお店を出ていく海。
それにきょとんとしていた他の面々だったが、互いを見合ってくすりと笑い。
耳まで真っ赤にした海が出ていった先を、黙って見つめるのだった。
そんな中、更に笑みを深めて太陽は思う。
(……恥ずかしくなりすぎると、どっかに行っちゃうクセ、アリカ君にそっくりよ)
温かなものに包まれながら、その日の夜は更けていく……
悪戯好きの海ですが、色々考えてるんですよ…?な回(苦笑)
海の可愛い?面ですね




