お中元と、メッセージ
「お届け物です」
昼過ぎ、そう言って小包を届けに来た運送会社の兄ちゃんに、礼を言ってそれを受け取る。
職業柄、中元の時期は様々な人達に送ったり送り返されたり、なんてのは毎度の事なので、特に珍しい事ではないのだが。
差出人名を見て、あれっと驚く海。
「オカン〜。小梅っちから中元来てる〜」
それにあら、という顔をする太陽。
「司ちゃんからって久し振りじゃない?」
なんて言う二人に、額を押さえつつ陸。
「今までだってちゃんと来てたわよ……。ただ、海のせいで、私宛になってただけよ」
陸の言葉に、なんで? ときょとんとする海。
そんな海に、ふふ……と低く笑って、陸は告げた。
「近くだからって、持参していったお中元のお返しに、ビックリ箱仕掛けてたこと……忘れたとは言わせないわよっ!?」
「あぁ〜! んな事もあったっけなぁ。あん時の二人の驚きようは、見物だったよねぇ〜♪ それからだっけ、来なくなったの」
その時を思い出してか、ぶるぶる身体を震わせながら告げる陸に、でもアレは、写メっとくべきだったよなぁ〜、等とケロリと言い放つ海。
「……〜〜〜〜っっ!」
「む、陸お姉ちゃん落ち着いて。お店終わってから開けようよ、ね?」
今にも海に弾丸を浴びせようかという勢いの陸を、やんわりと空が押し留め。
その日の夜。
「パジャマだぁ〜♪」
箱の中身を見て、汐が嬉々とした声を上げる。
早速今日着るの〜と、パジャマを持ってくるくるとする。
「あら、海江田染めじゃない」
「陸お姉ちゃん知ってるの?」
「海江田の地域ブランドよ」
「流石司ちゃんね〜。凄く良い手触り」
早速出して、その手触りに目を細める太陽。
「へぇ。ウチの名前入りじゃん、この手拭いとタオル」
その隣に納められていた手拭いとタオルに、品よく入れられたARIKAの文字に気付いてヒュウ、と口笛を吹く海。
「可愛い♪ お揃いのシュシュが入ってるよ」
「…………汐、回ってると危ない」
その隣で空がシュシュを手に取り、いまだくるくる回ってはしゃいでいる汐に、渚が注意の声をかける。
「じゃ、タオル類は一回洗濯してくるわね」
そんな中太陽はタオル類を持って、洗濯機が置かれている脱衣所へ。
「渚のはこれ、かなぁ?」
「海のはコレっぽいわよね〜」
「あぁ? んじゃあ陸姉のはこれだぁっ!」
「…………空姉のは、これ」
と、姉達が自分のを選んでいる中、汐が初めに〈それ〉に気付いた。
「っ!」
驚いた表情で、姉達が囲んでいる箱を見つめ。
持っていたものを、取り落とさんばかりの勢いで箱の側へと駆け寄る。
「うぉっ!?」
「……汐? ど、どうしたの?」
「いきなり、危ないじゃないの」
「…………?」
驚く姉達に構うことなく、汐は箱の中に手を突っ込み。
あるモノを、取り出す。
明らかに、送られてきたモノとは違う、まるで紛れ込ませたかのようにしてあった、その包みを。
『!』
汐のその小さな両手に、ぎりぎり収まるくらいのその包みを見て、はっとする四人。
しかし、すぐさまその顔に笑みを浮かべ。
今年も、ちゃんときたんだな――、と安堵する。
そんな、柔らかな空気が漂う中、汐はその包みをぎゅうと抱き締め。
暫しそうしてから、すっくと立ち上がり。
「おかーさんのトコ、いってくる」
涙声なのを隠すかのように小さく告げて、パタパタと脱衣所へと駆けていく。
その後ろ姿を、懐かしむかのような眼差しで、四人は見つめ見送るのだった。
初めにそれに、気付いたのは汐だった。
七年前の、ある時から始まった〈それ〉の、意味を初めからわかっていたのは汐と、母太陽だけだった。
しかし、〈それ〉が、毎年家族の誰かの誕生日前後と、中元の時期に他の届け物に紛れ込ませて送られてくる事に、ある時、他の娘達も気が付いた。
〈これ〉は、メッセージなのだと。
父親――所在からの、家族(自分達)に向けての。
ちゃんと、この世界に(存在して)いるよ、というメッセージなのだと。
その証拠に、包みの何処かには必ず、〈花マルのような太陽〉のマークが入っている。
テストを頑張った時、お手伝いをした時など、何か出来た時には必ず所在が、大きな紙に〈花マルのような太陽〉のマルを描いてくれていたのだ。
だから、気付く事が出来た。
いつもいきなりだから、毎回驚きはするけれど。
もっと昔は、届け物より、早く帰ってきてくれと、戻ってきてくれと思い、悲しみと少しの怒りが、沸き上がっていたけれど。
届け物を見て、太陽と汐が、微笑むのだ。
そんな顔を見せられたらもう、なにか言えよう筈もない。
この届け物のおかげで、離れかけていた家族の互いの心が、また近付き出したのは言うまでもなくて。
それに――、今では、待つのもそう悪くない、と思えるようになってきている。
まぁただ、待っているというだけでもないし。
太陽は、「追いかけっこをしてるみたいで、これはこれで楽しいわよ?」などと言っていたりする。
それには苦笑するしかないが、皆でいられるなら、信じて――きっと待っている事が出来るだろう。
必ずまた、出会うことが出来るだろうと。
星々が瞬くその日の夜。
胸元にワンポイント、裾に品良く、背中に大きく、など柄の入っている所は様々だったが、皆お揃いの寝間着を着た六人家族は、いつもより穏やかな表情で、円を描くかのように、敷かれた敷布の上に寝転がり、静かな寝息を立てていた。
その中心には、見事な装飾の施された木製の箱に入れられた、暗がりで仄かに光輝く、夜輝石のペンダントがひとつ、納められていた――
海の、黒歴史?が暴露されていくなぁ…(苦笑)
ほんと、小梅先生には迷惑かけっぱなしでどうもすみません〜
YL様のうろな町の教育を考える会 業務日誌より、小梅先生お名前だけお借りしております
お中元頂いた後話を書かせて頂きました
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ




