8/8 最終戦
攻撃の応酬。
夏の海辺に、耳に痛い程の射撃音が響き渡る。
最終戦を開始してすぐ。
最後という事で、互いの水鉄砲とカートリッジ×三には水が満タンに入れられていた筈だが、既に水鉄砲の中は空で、互いにカートリッジを一つ差し込んでいた。
流れ込む水。しかしそれが満タンになるのすら待ち遠しいのか、攻撃を繰り出す双方。
最終戦に、残ったのは企画課の片割れ佐々木と、海の家ARIKAの四女渚。
走る。撃つ。避ける。
距離を詰める。身体を捻る。すれ違う。
目にも止まらぬ早さで、様々なモーションを繰り出す二人。
まるで止まったら終わり、とでもいうかのように。
しかし、それはある意味当然で。
一度止まってしまえばその瞬間にヤられるか、そうでなかったとしたら、互いに無限かと思われる程の牽制と読み合いの末、その次の一手で勝敗が決してしまう。
しかし、その瞬間は必ず訪れるのだ。
互いが、後一射打てるかどうか、という場面になれば嫌でも。
これまでの戦いで、互いが互いを手練れだと認識しているが故に、せめて〈それまで〉は目一杯楽しもうというのが、お互い間での暗黙のルールで。
「うひゃあ! ……やっぱ流石やなぁ、渚ちゃんは」
「…………お兄さんも、本当にしぶとい」
渚からの攻撃を避け、走りながら告げる佐々木。
それに、佐々木からの攻撃を避け走りながら、渚もポツリと声を返す。
「それはお互い様でっせ!」
言いながら、渚の背に回り乱射する佐々木。
それを、身を捻って回避する渚。
風船の位置は互いに腰元である為、正攻法では撃ち落とせない。それに、前からでも狙える頭上の風船とは違って、背後に回り込んでの射撃となる為、一動作余分に行動を起こさねばならず、自分の風船も狙われている事を考慮に入れつつの攻撃になるので、中々決定打には至らず。
一瞬距離が離れる。しかし止まらず、横走りしながら攻撃を繰り出す二人。
既に、カートリッジは二つめとなっている。
取って差し込むという動作すらもどかしく、一度水鉄砲を勢い良く振って空のカートリッジを弾き飛ばし、そこに次のをがしょっと差し込む。
常なら太陽に「浜を汚すんじゃないの!」と鉄拳をお見舞いされている所だが、そんな事に構っている暇はなかった。
一瞬の判断が勝敗を分ける。
それは、どちらも良く分かっているのだから。
食い入るように激戦を見守る観客達の視線を受けながら、右に左に、走り回り攻防を繰り返す佐々木と渚。
横走りしながらの攻防から、次第に互いの距離が近付き。
すれ違い様、互いの腰元に向けて射撃する。
しかしそれを、互いに後方に大きく飛んで回避。
図らずしもステージの真ん中で、佐々木と渚、両者の動きがピタリと止まる。
はぁ、はぁ。荒い息を整えながら、互いに差し込むのは、最後の一つであるカートリッジ。
空の水鉄砲の中に、カートリッジから緩かに水が流れ込む。それが満たされるまでの、僅かな時。
佐々木はニッと笑って渚を見つめ。渚も微かにその口元に微笑を浮かべ、佐々木を見つめる。
「予定よりちょこーっと早いねんけど、ここらで終盤といきましょか」
「…………そろそろ、良い頃合い。決着を着けるには」
各々呟き合い。カートリッジから、一滴残らず水鉄砲に水が行き渡った所で。
カートリッジを弾き飛ばして、互いに駆け出す佐々木と渚。 相手のバランスを崩させる為、各々に向けて二射程見舞うが、それをそのまま駆け抜ける二人。
最後の一射を残すなら、後三射。
腰の風船を狙った攻撃。互いに避ける。後二射。
足元を狙ってみる。双方ステップでヒラリと回避。
捨て弾として使えるのは、後一射。
これは、佐々木の方が撃つのが早かった。
視界を奪う為の攻撃。
佐々木の走る速度は変わらない。
渚の顔面に水線が迫る。
それを、焦る事なくひたと見据えて――。
渚は、きっちりと標準を合わせて、迫る水線を綺麗に総裁してみせた。
激突し、盛大に弾け飛ぶ飛沫たち。
「なんやてぇっ!?」
予想外の事に驚き、声を上げる佐々木の動きが、一瞬止まる。
渚には、その一瞬で十分だった。
流れるように佐々木の背後に回り込み。
ゼロ距離で最後の一射を見舞う。
「させへんっ!」
しかし、佐々木もそのままヤられる、などという訳ではなく。
一瞬の元に覚醒し、自然と、流れるままに手を差し出し、その引き金を引く。
パァンッ! と風船の割れる音が響く。それと共に、バッ! っと互いの位置を入れ替える二人。
盛大に砂埃が巻き上がる。
「………………」
砂埃の舞う中、シンッ……とした静寂だけが周囲を満たし。
観客達が固唾を飲んでステージを見守る中、(秘密裏に飛ばしていた)自動飛翔型小型カメラの映像によって詳細を確認した太陽から、視界が晴れたと同時に声が上がる。
『なな、なんと! なんと相討ち! 相討ちですっ!』
その声にはっとして、観客らがステージ中央に立つ二人の腰元を交互に見やる。
互いの風船は、どちらも割れてしぼんでいた。
『今回のロワイヤル、残念ながら水鉄砲王(勝者)は出ませんでしたが、奮闘した二人に、そして全ての参加者達に、どうか皆様、盛大な拍手をお願い致しますっ!』
太陽のその声に、一瞬にして沸く周囲。
割れんばかりの拍手と共に、「燃えたぞー!」とか「お疲れー!」とか「楽しかったよー」などの声が添えられる。
それを聞きながら、その場にどさりと腰を下ろす佐々木。
「イケる思たんやけどなぁ〜。ちょーっと身の引きが甘かったわ。ほんま強いなぁ渚ちゃん。楽しかったで。ありがとうな」
ため息と共に呟いて、ニッと笑って渚を見上げる。それを正面から見つめて、ポツリと呟く渚。
「…………楽しかった。でもまさか、海女の能力〈標合わせ〉を使わさせられるとは思わなかったけど……お兄さん、本当に強い」
見つめ合う二人の間に、好敵手という思いが芽生えたかどうかはわからないが――……
戦後の余韻に浸る二人のすぐ側で。
「〈一回目〉の決着も着いた事だし、次戦といくとすっか♪ おらいっくぞぉガキ共っ!」
そんな海の声が響き。
「次は負けないわ! ね、べるべるっ」
「うん、セリちゃん!」
「今度は陸お姉ちゃんと空お姉ちゃんも、一緒にやろ?」
「えっ? ちょ、ちょっとっ!?」
「うーん、勝てるかなぁ?」
「ほら。公も一緒にやろうぜ」
「えー?」
「一緒にやったら楽しいよ?」
「まだやるんですか?」
「乗りかかった船だしね」
「今度こそ、きっちり決着つけてやるからな!」
「望む所です♪」
海の声に続くようにして各々から声が上がり、オレンジの光の中、ステージにわーっと広がり散らばっていく子供達。
それを穏やかに見つめ、各々が配置についた所で。
マイク越しに、太陽の声が響き渡る。
「皆準備は良いわね? それじゃ……、よーい、始めっ!」
夕焼けに彩られる海辺に、子供達のはしゃぐ楽しそうな声が響くのだった。
変態疑惑がとけてない(笑)でも、渚の中では(佐々木くんに対してかな?)ちょっとは何かが変わったハズ…
これにてロワイヤル、終了です〜(あと一話ありますが(苦笑)
結果は相討ちでしたが、楽しく書くことが出来たので満足です♪
皆様お疲れ様でございました☆
そしてありがとうございました!
弥塚泉様のばかばっかり!より、佐々木くん
とにあ様のURONA・あ・らかるとより、日生兄弟妹、山辺兄弟妹
お借りしております
長々お借りしててすみませんでした〜
本当にありがとうございました!
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ




