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8/8 二回戦・その1




 仕切り直して、二回戦。


『…………』


 じりじり、間合いを詰めていく者達。


「…………」


 それを、香我見は気だるげに見つめた。

 背中に、〈放水ランチャー〉を背負ったまま。


 しかしそれも、仕方がないというもの。


 個人戦である筈の水鉄砲ロワイヤルで、まさか一致団結して、〈ランチャー〉を狙ってくるとは、誰も思いはしないだろう。


 しかも、脱落した筈の自分が、何故再びロワイヤルに参加する事になったのかを考えると、ため息を付きたくなってしまう。


 ちらり、目線を周囲に走らせる。

 参加者ならびに周囲からも、見事に視線が集まっていた。

 それをただただ見つめる香我見。


(……お客さんら楽しませられるんやったら、まぁえぇかな……?)


 胸中で呟いて、でもやっぱ陽射しがキツいなぁ、と香我見がため息を付いたのを見逃さず。


「今や!」


 佐々木のかけ声により、じりじりと距離を詰めていた者達が、一斉にランチャーの傍にある給水場へと走り出す。

 各々、扇状に広がっての状態から、二つしかない給水場へと走る。


 (あみ)、ノワールと芹香。

 佐々木、渚と千秋、涼維。

 カラスマント、隆維と天音、鈴音。


 因みに、この回限定でインカムの使用が許可されており、香我見以外の皆の耳には、スラリとしたインカムが装着されていた。


 先に到着したのは、一足先に走り出していた海の所。


「ほいよ、芹香。ちゃちゃっと入れちまいな」

「私の方が、海ねぇ達より風船多いのに〜」

「レディファースト、ですよ。それに、芹香ちゃんが先に入れてくれれば、僕達は安心して後ろを任せられますからね」


 にっこり告げるノワールに、仕方ないわねっと呟いて、給水を開始する芹香。

 芹香が所有している水鉄砲は(うしお)に貰った分も含めて三つだが、給水争奪戦の為に予めまとめていたので、一つの水鉄砲に補給すれば完了だ。

 先のやり取りに、芹香を見やって海とノワールが苦笑を浮かべていると、もう一組も給水場へとたどり着いたようで。


「ほら、鈴音」

「うん」


 次にたどり着いたのは、カラスマント、隆維と天音、鈴音達だ。

 まとめているのはどこも同じなので、芹香同様鈴音も水鉄砲を三つ持っているが、此方も給水は早そうだ。

 給水する鈴音を守るように囲み並立つ、カラスマント、隆維、天音。


「(風船)二個組に、守られる……とかじゃなくてよかったぜ」

「……お望みなら、守ってあげるけど?」

「男として、流石にそれはちょっとなー」


 共闘中でも容赦ないのに、カラスマントが苦笑する。

 両組共、着々と補給していっている。


(……このままやと、間に合わんかな……? それに――)


 かなりのハイペースで補水完了していく二組を見つつ、胸中で呟く香我見。呟きながら、未だ動く気配を見せない三組目を盗み見る。


 三組目、佐々木、渚、千秋、涼維達の四人を。


 扇状に広がっていた各々の内、香我見(ランチャー)と対峙するかのように真ん中に陣取っていたのが、この三組目。しかし、一向に動く気配を見せないでいた。


(……なんかある、思といた方がええやろな……)


 側の二組にも気を配りつつ、三組目を警戒しながら見据える香我見なのだった。




 ランチャーからは、少し離れた所。

 静かに目を閉じ佇んでいる渚の後ろで、ひそひそと声をかわす涼維と千秋。


「千秋兄、なんで風船割れてるの?」

「え? いや、うん。ちょっとね」


 首を傾げて訊ねてくる涼維に、苦笑を浮かべて答える千秋。そこに声を滑り込ませる佐々木。


「ところで、渚ちゃんはさっきから何しとるんやと思う? 説明受けたけどさっぱりわからんし」


 佐々木のその声に、えぇっと、と呟きながら千秋と涼維が渚を見やり、佐々木もちらりと、微動だにしない渚を見やった所で。

 〈ランチャーが攻撃体勢に切り替わる音〉を聞いていた渚が、


「…………合図、きた」


 すっと目を開け、ポツリと呟く。その言葉に三人がはっと反応し、インカムに向かって声を投げる。


『〈ランチャー〉から放水来よるで!』

『気をつけて!』

『二個組は援護に!』


『了解っ!』


 それに各々が声を返したと同時に。サアァッと視界が悪くなり、観客らからざわざわとしたどよめきが響く。


「…………霧」


 呟かれたそれを聞き漏らさず、またもや指示を飛ばす佐々木達。


『断続放水やっ!』

『回避行動っ』


 その声が、聞こえているのかいないのか。


 ドドドドドッ! と、重く勢いのある音が聞こえ。


 暫ししてから、パパンと数個の風船が割れる音が響き。


「おぉ、意外に涼しい」


 などという香我見の、のん気な声が聞こえたと共に。


『いっけぇ――――っ!!』


 ある一点から、そんな声が上がり。


 バシュウウゥッ!!


 下方から上方へ。

 周囲に満ちた霧を切り裂き吹き飛ばして、スクリューを描く水線が、一直線に飛んでいく。……と、同時にべしゃっという音と、風船の割れる音が響く。


「っと!」


 そんな中飛んできたスクリュー線を、身体を微妙にズラしただけで回避した香我見だったが、目の前の光景に驚き目を瞬く。


 完全に、霧が晴れていた。


『おおっと――! 霧に視界を奪われ、その間にほぼ全滅するかと思いきや、挑戦者達の見事な采配により、そう被害を出す事なく厄介な霧を撃破――っ! さぁ、ここからどう出るのでしょうか!』


 すかさず声を上げる太陽(ひかり)。観客席からも歓声が上がる。


「ちっ」


 舌打ちして暗視ゴーグルを外し、体勢を立て直す香我見。ちょっとは熱が入ったらしい。

 しかしその時には動揺からは立ち直り、各々臨戦態勢に入っている。


 暗視ゴーグルを付けてセンサー追尾で正確に、二個持ちの参加者の風船を貫いた為、ランチャーの攻撃での脱落者的には、今の所ゼロである。

 芹香と鈴音は、最後の風船を付けてもらう為、一旦ここで退場する。

 それにより、若干安堵した表情を浮かべるお兄ちゃん組にお姉ちゃん組。


 しかし一度起動した〈ランチャー〉は、出し尽くすまで止まらない。


「あーあ、割れちゃった。千秋兄、後よろしくね」


 次の攻撃が来る前に、佐々木が脱落した香我見から貰った水鉄砲を使って、掛けられていたリミッターを外し更に高出力、高威力で発射させた水により破損した水鉄砲を携え、千秋に自分の分の水鉄砲とカートリッジ×三を渡して、芹香と鈴音と一緒にステージを後にする涼維。尻餅をついた時に、事故割れしていたのだった。


『奮闘したようですが、どうやら涼維君が脱落です! 残り後十名! さくさくいきましょう〜♪』


 太陽のその声に観客席から笑いが溢れ、それを吹き飛ばすかのような、接戦が再開されるのだった。



センサーはオート設定なので、二個持ちを狙ったのは香我見君のせいじゃないですよ〜


リミッター解除は、もっと後に太陽から追加注意事項として発表される筈でした(笑)


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