8/8 一回戦・その2
芹香、鈴音、汐。
企画課の二人、佐々木と香我見。
それに、カラスマントとノワール達が各々戦いを繰り広げている一方で。
階段状に積まれた四角い土管の一番上に立って、渚は上方から静かに、戦場を見つめていた。
「…………やる事は、ひとつ」
ボソリ、呟いて眼下を見据える。
ステージ全体を隈無く見つめながらも、視線が多く注がれているのは、企画課の二人佐々木と香我見だ。
海と渚の思いは同じ。
変態に成敗を、という点では。
最も、海は既にそんな事はさっぱりと忘れて、楽しむ方に傾きまくっているが。
それに小さくため息を吐きつつ、一言。
「…………千秋兄。そこから出て来なかったら、射抜く」
「っ!?」
視線だけ向ける。その耳に、驚いた時に知らずと後退ったせいで体重の移動した足元からざり、という砂音が届く。
それに観念したかのように、土管の側に置かれたマットの影から、千秋が両手を挙げた状態でそろりと出てくる。
「な、なにもしない。なにもしないから攻撃しないで。……流石は渚ちゃんだね。いつから気付いてたの?」
「…………最初から」
それにボソリ、告げる。
その言葉に苦笑しつつ、そろそろと階段を上って、渚の隣にちょこんと座る千秋。ふと訊ねる。
「参加しないの?」
「…………今はまだ、その時じゃない。機を待ってる。それに、分析は大事だから」
「確かに、それはそうだね。それに此処からなら、全体が良く見えるしね」
「…………千秋兄も、分析対象だけど」
「えっ!? ……えぇっと、それはつまり……此処には居させてもらえない、ってことかな?」
苦笑しながらそういう千秋の顔をじっ、と渚は見つめ。
「…………代償」
言うが早いか、最小の動きで素早く腰の水鉄砲を引き抜き、割れ音が響かないようにして、千秋の腰の風船に射撃で小さな穴を開ける。
見る間に萎んでいく風船。
「ひどいっ!」
それに千秋が声を上げるが、視線を投げつつ静かに渚が告げる。
「…………敵同士。本来なら情け無用。それでも安全と情報を求めるなら、この対価は正当」
「……うっ……」
喉を詰まらせつつそれでも尚、不満げにじっと此方を見上げてくる千秋に、更に渚は告げる。
「…………今すぐ沈めていいなら、そうする」
「…………はぁ。わかったよ」
水鉄砲ロワイヤルには、ただ巻き込まれただけだ。なら、このまま脱落してバイトに戻ろうかとも考えた千秋だったが――……
こんな負け方は、なんだか嫌だった。
ため息して両手を挙げ、降参ポーズの千秋。
それを見やり、水鉄砲を戻して眼前へと視線を戻す渚。
こうして、風船一つを代償に、千秋は暫しの安全と情報共有の権利を得られる事となった。
結局の所、千秋のその判断は正しかった。
〈放水ランチャー〉ならびにこの水鉄砲を製作したのは渚であり、性能を熟知している相手は厄介だろう、という他の者達の暗黙の上での判断により、一回戦中は誰からの攻撃も受ける事はなかったのだから。
「さぁ〜ってと♪ あたしの獲物はど〜こかな〜っと」
子供達のじゃれ合いをたっぷり堪能してから、うーんと伸びをしつつ呟く海。
きょろりと辺りを見回す。
芹香、鈴音、汐の三人、企画課の二人、カラスマントとノワールは交戦中。
渚……と、あれは千秋か? は此処からじゃ遠い。
なら、と海が的を定めたのは。
隆維、涼維、天音の三人だった。
出来れば手強そうな企画課の二人を先に潰したい所だったが、二人で戦っているなら、それにわざわざ水を差したりする必要はないだろう。
同士討ちにでもなって、どっちも潰れてくれればラッキーだが、どちらか一人だけでも脱落してくれるのなら上々だ。
手練れのようだし、討ち損じる等という事はたぶん、ないと思う。
それなら、数を減らす事に専念した方が良さそうだ、と海は判断した。
(う〜ん。しっかし、どうすっかなぁ〜。ここは無難に、天音に加勢しとくべきかね〜?)
向き合っている三人を見やりつつ、ふぅむと考える素振りを見せる海だが、
「天音、加勢するぜぃ♪」
考えるより先に身体が動いたらしい。ひょいと飛び込み、言いざま隆維、涼維に向けて連射する。
「げ、海ねぇ……ってあぶなっ!?」
「わわっ」
それをなんとか回避する二人。
「よっと♪」
その間に天音の隣に並び立つ海。
「海さん、お願いします」
「あいよ〜♪」
天音の言葉に頷いて、海はニヤリと隆維涼維の二人を見つめ。天音も水鉄砲を持つ手に力を込めて二人を見やる。
これで状況的には互角な二対二。
『…………』
女子二人(一応)に阻まれ、目配せし合う隆維涼維がどうしたものかと悩んでいる内に。
「先手必勝ぉ〜♪」
ぴこっと黒髪をハネさせて、嬉々として海が先陣を切った。
海&天音 VS 隆維&涼維
四人の戦闘が今、始まった――
「初手は涼維からだよな〜♪」
「なんでっ!?」
追いかけられつつ、ニヤリと告げられた海の言葉に、驚きの声を返す涼維。
それにケロリと海。
「隆維よりは体力なさ気」
「うっ……」
グサリ言われて詰まる涼維。そんな涼維に声をかける隆維。
「止まるな涼維、ヤられる」
「わ、わかってるっ」
迫る水線。走る速度を上げて回避。
「逃げてばっかじゃ、やっぱダメか」
涼維の体力を考え、逃げるのを止めて向き直る隆維。その後ろにそっと涼維を庇う。
ちょっと開けた感じの広場。
側に跳ね台やらマットやら、四角い土管やらがあるのが見える。
そこに一足遅く辿り着いた海が、ニヤリと告げる。
「観念したってか〜?」
「この二人が、そう簡単に引き下がるとは思えない」
そんな海に、隆維涼維を見つめ水鉄砲を構えつつ天音が告げる。
「逃げてばっかも芸がないしねー。ここらで第二ラウンドといこうかと」
ニヤリと告げる隆維に、同じくニヤリとして海。
「ふぅ〜ん? でも、涼維守りながらじゃ、あたし等には勝てないぜ〜?」
「それはどうかなー」
「隆維がやるなら、やるよ」
ニッとして呟く隆維の横に、そっと涼維が水鉄砲を構えて立つ。
二人の瞳には光。それを見て海は口角を上げる。
(――良い目をする)
四つの視線が交錯する中、始まる戦闘。
バババッ!
間隔無しの三連撃。
それを左右に分かれて避ける涼維と隆維。
左に避けた隆維を、天音の追撃が襲う。
「わ、ちょ、ちょっと待ってって、天音」
「待たないっ」
天音の手から放たれる水射を、ステップを駆使してなんとか回避。
その間に二射程見舞うが、さっと身体を引かれて回避される。
それを特に気にせず、隆維が次の行動を起こそうとした所で、
「うおっ!?」
間一髪、後ろ斜めから放たれた海の攻撃を、チッと髪を掠めるだけに留めて回避する。
涼維と対峙している筈の海に視線を向ける間もなく、バランスが崩れた所に天音からの攻撃。身を捻る。
なかなかに、天音の相手は骨が折れそうだった。
「ふふ〜んっと。おらおらど〜したぁ? んなヘナちょこじゃ、この海ちゃんには当たらねぇぜ〜?」
「くっ」
涼維から放たれた攻撃をひょひょいとかわして、迎撃の為涼維に一射。それを涼維が回避している合間に、隆維にも一射見舞う海。
ととんっと、軽やかにステップを踏む。
「……ほんとバケモンだよね、海ねぇって……」
ぼそりと呟いて、回避行動を取りつつ、じりじりと距離を取る涼維。
一人じゃ海の相手はキツい。さっき走り回った分もあるし、夏の暑さが、容赦なく体力を奪っていく。
時間制限もある。
終了まで逃げ切るという手もあるが、どうせなら一矢報いたい。
時間、体力、水の残量。
制限のある中、海に勝利する為には。
一瞬の隙を突くより他ない。
身を捻って避ける、後方に飛んでかわす、手で防いだり等しながら、なんとか海の攻撃をやり過ごし。
意外と近くで交戦していた隆維と響き合うようにして、互いに一気に間合いを詰める。
調度、一直線に並び立つ形になっていた、天音と海目掛けて。
バシュッと、海を目掛けての涼維からの攻撃。
そこから少々遅れて、隆維からの天音への攻撃。
それを、難なくかわす海と天音の二人だが。
最大出力で放たれた隆維からの攻撃が、時間差で海へと伸ばされ。
「おわっ!?」
なんとか寸前で回避に成功する海だが、不意を突いたそれは十二分にその効力を発揮し、海の体勢を崩させた。
その間に距離を詰めた涼維が水鉄砲を構え直し、カートリッジを差し込んだ隆維が、ひたりと海に標準を合わせる。
『もらったぁっ!』
二人の声が重なり。
一瞬の元に放たれる、前後からの鋭い射撃。
バランスを崩した海に、この射撃の回避は不可能。
二本の水線が、海の〈頭〉の風船を、前後から正確に貫いた。
パァン! 割れる風船。
それと同時に、ダンッという踏み切り音。次いでバシュバシュッという射撃音。
暫ししてから、パパンッと二つの乾いた音が響き。
ジャッと白砂を鳴らして、〈空中〉から着地する天音。
『――えっ?』
それに、ポカンとした顔をする隆維と涼維。
「油断大敵」
そんな二人を見つめ、ふっと笑う天音に、すっくと立ち上がってニヤリとした笑みを向ける海から声。
「流石天音、ナイ〜スっ!」
「こちらこそ、ありがとうございました。海さんでなければ、たぶん成功しませんでした」
海に向かって、ペコリとお辞儀する天音。
『ええぇぇぇっ!?』
それに、驚いた声を上げる隆維と涼維。
なんと海は『二個同時撃破』の為の、囮だったのだ。
自分から率先していく海が囮だったなんて信じられない、といった顔で萎んだ風船が視界を半分隠す中、海と天音を二人が呆然と見つめていると、
『……カラスマント、ノワール両名が残すは頭上の風船一つのみ! 死ぬ気で死守しないと、最初に脱落決定よ〜? 頑張りなさいね〜』
という太陽の声が響き。
「お前ら、このあたしから逃げられると思うなよっ!」
目散、カラスマントとノワール目掛けてダッシュしていく海。
「これは乗るべき?」
「かも〜?」
それに小首を傾げて告げて、
「ほら、天音も行こうぜ」
「えっ? あ、ちょっちょっと!?」
海と(若干へばった感じの)涼維が先を行く中、隆維は天音の手を引いて走り出したのだった。
「……なんか、凄い接戦だったなぁ……」
土管に座ったまま間近で行われていた戦闘を、静かに見ていた千秋が呟く。
そんな千秋の横で渚は、
「…………いいデータが取れた」
と一人呟き、小さく笑みを浮かべるのだった。
ある事に悩んでいたら、その2を上げるのが遅くなってしまいました…
一回戦・結果
脱落者
香我見、汐
風船一個
海、カラスマント、千秋、ノワール、隆維、涼維
風船二個
佐々木、渚、天音、芹香、鈴音
※ポール撤去
といった結果になりました☆
一回戦なんとか終了です〜
弥塚泉様のばかばっかり!より、佐々木くんと香我見くん
とにあ様のURONA・あ・らかるとより、日生兄弟妹、山辺兄弟妹
お借りしております
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ
つ、次は二回戦だ……っ
さて、どこまでいくかなぁ?




