8/8 一回戦・その1
「いっくわよべるべる! 汐ねえぇっ! 覚悟――っっ!!」
「か、覚悟――っ!」
「え、わわっ!? 狙われるの汐なの〜〜? きゃはははっ、にっげるぅ〜〜♪」
「あっ、こら待て――っ!」
「まてぇ〜〜!」
開始早々。
嬉々とした声を上げ、芹香、鈴音、汐の三人が水鉄砲を手にきゃあきゃあとじゃれ合う。
その様子を、微笑ましく見つめる大人組。
そのまま暫し、温かく見守るのかと思いきや、それにはどうやら個人差があったようで。
バシュッ!
水鉄砲から、水の放たれる音が響く。
「うわ、あっぶなっ!?」
それを、間一髪の所でかわす佐々木。
水の放たれた方を見やって声を上げる。
「ひどいやないか、香我見クン! ボクら二人しかおらん企画課の、仲間同士やのにっ!」
それに、しれっと香我見。
「俺は、早よ終わらして帰りたいんや。暑いし。それに元々、これは佐々木君のせいなんやし。なら、原因潰すんがいっちゃん早い」
「ボクかて、ちょっと誤解されとるだけやのに〜〜っ! あんまりやわ――っ!!」
そんな話をしながらも、二射三射と放たれる攻撃を、寸前の所で器用にかわす佐々木。それにちっ、と舌打ちする香我見。
佐々木もなにも、やられっぱなしという訳ではなく勇んで攻撃に転じる。
「状況はどうあれ、こーゆーんは楽しんだモン勝ちなんやで、香我見クン?」
「おっと」
言いながら、続けざまに連射する佐々木。
しかし、中高と陸上部で鍛えた体力に、大学時代、様々なサークルを転々としていた香我見には、それらは難なくかわされてしまう。
しかし、それが逆に佐々木に火をつけた。
「絶っ対最初に脱落させたるっ!」
「あーもーあっついわ。無駄に気温上げんといて」
企画課の二人がそんなバトルを繰り広げている中、ステージ隅に立てられたポールの間を、縫うようにして駆けるノワール(猫)。
攻撃を繰り出しつつその後を追うのは、バサリとマントを翻すカラスマント。
「流石はノワール(猫)。逃げるのは一級だな。だけど……、逃げてばっかじゃ勝てないぜ?」
バシュバシュッ! と、言いながら連射するカラスマント。しかしそれを、うねるようにポールの間を抜けてかわすノワール。
カートリッジ三つ分の重さなど感じていないかのように、本当に猫のように、その動きはしなやかだ。
それに舌打ちしつつ、攻撃の手を止めずにその後を追うカラスマント。初めに入っていた分の水を消費し尽くし、カートリッジを一つ使用。がしょんと上部に差し込む。
その間にどんどん、奥に逃げていくノワール。
その口元が、ニヤリとしているのに、後を追うカラスマントは気付いていない。
暫くして最奥まで行き着いた所で、クルリと後方を振り返り、ノワールが告げる。
「僕が本当に、ただ逃げ回っていただけだと?」
「なにっ!?」
その声と共に、カラスマントから放たれた攻撃をスレスレの所でヒラリとかわし、互いが触れるか触れないかという微妙な合間を、ノワールはするりとすり抜ける。
「っ!」
それに、追撃を恐れてかカラスマントが後方に飛び、ふわり、広がるマント。
調度、二人の立ち位置が入れ替わった状態。
ノワールの笑みが深まる。
その微細な変化を敏感に感じ取って、カラスマントが次の行動を起こそうとして――、異変に気付いた。
「まさかっ!?」
しかし、それに気付いたのは少々遅かった。
ステージ隅に立てられているこのポール達は、奥に行けば行く程、段々間隔が狭まるように作られている。
その事に、逃げながらノワールは気付いたのだが、マントを捌くのが上手くなったとはいえ、演出的に大きく翻したりする事の多いカラスマントには、広がったマントがポールに絡め取られるその時まで、気付く事が出来なかったのだ。
身動きの取れないカラスマントに、水鉄砲を優雅に構え、ノワールが微笑と共に宣言する。
「――チェックメイト」
しかし。
「さ、せる、かあぁっ!」
ただでヤられるカラスマントではなかった。渾身の力を振り絞り、なんとかポールからマントを外そうと、その身をよじる。
するとそれが功をそうした。
このポール達はちょっと砂地に差し込んだだけの、神業的なバランスの元に直立しており、互いを支えているのは上の方に括り付けられたか細い釣糸のみ。
そんなモノが、ひとつでもバランスを崩せば――、倒れてくるのは当然である。
「なっ!?」
その事に、驚き目を見開くノワール。
思いもしなかった誤算に、動く事が出来ない。
「ノワールっ!」
声を上げ、そんなノワールの手を引き、庇うように覆い被さるカラスマント。
そんな二人目掛けて容赦なく、無数のポールが倒れてくる。
ポールは発泡スチロール製ゆえに、二人が怪我をする事はないが――……
風船を割るには、十分な威力があった。
パパンッ!
風船の割れる乾いた音が、ビーチ内に響き渡る。
『おおっと――! 若干のアクシデントがあったようですが、どうやら最初の犠牲者が出た模様です!』
それに審判の筈が、マイク片手に何故かアナウンサーに変じた太陽が、砂煙の舞う方を見やり声高に状況を報告する。
『随分派手に倒壊したようですが、二人は無事でしょうか? ノワール〜、カラスマント〜、大丈夫〜〜?』
「おー」
「なんとか無事です」
それに、砂煙の中からヒラヒラと手を振りながら出てきたカラスマントが笑って答え、後に続くノワールも笑みを向ける。
二人の無事な様子に周囲の観客達から歓声。それに大きく手を振ってカラスマントが応える中、
『二人共、頭の方は無事みたいね。割れたのはどうやら腰の風船だったようです! カラスマント、ノワール両名が残すは頭上の風船一つのみ! 死ぬ気で死守しないと、最初に脱落決定よ〜? 頑張りなさいね〜』
嬉々として太陽が告げる。その顔には人の悪い笑みが。思いっきり楽しんでいる。
そんな事を言われたら、他の者達が一網打尽にせんと向かってくるのは当然で。
「チャンスねっ!」
「お前ら、このあたしから逃げられると思うなよっ!」
「これは乗るべき?」
「かも〜?」
各々声を上げつつ迫ってくる団体から、カラスマントとノワールの二人は背を向けて逃げる羽目になった。
しかし、風船が一つになった事で若干冷静さを取り戻したカラスマントが、後方から放たれる水鉄砲の攻撃を避けつつ、隣を並走するノワールに訊ねる。
「なぁ、ノワール」
「なに?」
ヒラリ、華麗に三連撃をかわし、それに答えるノワール。
「この中で戦力的に厄介なのは?」
「ん〜、企画課の二人に、海さん、渚ちゃん……かな?」
「じゃあ、精神的にヤバそうなのは?」
カラスマントのその言葉に、苦笑してからノワールが答える。
「天音、鈴音、芹香ちゃんに汐ちゃん、かな? まぁ、女性陣とはあまり戦いたくはないけど」
「だよなー。じゃあ俺達の取るべき行動は……」
言いながら、後ろではなく前を見据えるカラスマント。
会話中も、追ってくる人数は減ったものの、攻撃はずっと続いていたのだが、かわしたり腕でガードしたりと、上手いこと最後の風船を守りつつ逃げる二人。
そんな二人の眼前には、激しい攻防を繰り広げている佐々木と香我見の姿。
今、攻撃に転じているのは茶髪の男性、香我見の方。
ならばと互いに頷き合い、カラスマントとノワールは企画課の二人に向かって突撃する。
「もらったぁっ!」
「――終わりです」
「おぉっ!?」
「なんやっ!?」
カラスマントとノワールの、突然の乱入に驚く二人。
しかし、ステージ上に作られた小山に隠れつつ防戦していた佐々木は、直ぐに回避行動に移る事が出来たが、攻撃していた香我見は、若干その反応が遅れた。
それに何よりその気だるさが、夏の陽の暑さが、彼の反応を鈍らせた。
元より、カラスマントとノワールが狙っていたのは香我見だった。
攻撃時こそ、最も隙が生まれやすいのだから。
自身以外皆敵などというこんな状況では、攻撃時にこそ、警戒を怠ってはならないのだ。
地を駆りつつ、カラスマントとノワールの手が閃き飛沫が上がる。
パァンと、風船の割れる音が響く。
「くっ!」
その音になんとか反応し、最後の一つ、頭上の風船が割られるのは回避する香我見。
しかし、逃げた場所が問題だった。
そこには、芹香、鈴音の風船を一つずつ割りながらも、二対一という状況故に最後の一つとなってしまった風船を守りつつ、二人から逃げてきていた汐がいたのだ。
「っと!」
「わっ!?」
とん、と。背中合わせに歩みを止める二人。
香我見の前には、佐々木、カラスマント、ノワールの三人が。
汐の前には、芹香、鈴音の二人が立ちはだかる。
前と後。両方に挟まれた状態であるが故に、迂闊に動く事が出来ない。
それを、周りの観客達が固唾を飲んで見守る。
ピリッとした緊張が走る――
そんな中、水鉄砲を構え。
「観念しぃや、香我見クン」
「これで終わりよっ!」
佐々木と芹香の声が響くのと、ほぼ同時に。
「みんな、ごめんねっ」
空の、すまなさそうな声が間近で聞こえ。
え、と。そこに居合わせた者達が思う間も無く。
空が背負うバックパックの〈放水ランチャー〉から、無数の水線が勢い良く放出発射された――……
「なんでなんや――っ!?」
「ひゃああぁぁ〜〜っ」
風船が割れる音と共に、発せられた香我見と汐の二つの声に重なるようにして、一回戦終了の笛が鳴り響いたのだった。
そして冒頭、みたいな(笑)
やっと書けた〜っ
でもまだこれだけだぁ〜(泣)
続き頑張って書かないとっ!
弥塚泉様のばかばっかり!より、佐々木くんと香我見くん
とにあ様のURONA・あ・らかるとより、日生兄弟、山辺兄弟妹
お借りしております
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ




