8/8 始まりは突然に
「……なんで、こんな事になったんや……」
「なんでだろ〜ね〜?」
午後三時を回ったとはいえ、まだまだ暑い夏の盛り。照りつける太陽から避難するべく張られたビーチパラソルの下で、企画課の片割れ、香我見遥真は呟いた。
全身、ずぶ濡れの格好で。
しかしそれも暑い夏の陽射しにより、幾分乾きかけていたが。
その隣で、同じくずぶ濡れの汐が、にこにこと香我見に声を返す。
二人がいるのは、海の家ARIKAのすぐ側。ブルーのビニールシートが敷かれ、ビーチパラソルが広げられた、『脱落者』と書かれたプレートが立てられている所だった。
始まりは、今よりほんの少し前。
「あっつー。なんもこんな太陽の一番強い時間帯に、駆り出さんでもええやろに」
「文句言わんと、はよ行くで」
暑さで早くも気だるげさ満載の香我見とは対照的に、書類作成作業から(一時的に)解放されたのを喜ぶ佐々木達也の足取りは軽く。
公共施設の節電実地状況、その改善策の提示やら、二十四日に開催される納涼肝試し大会の準備やらで多忙な筈の企画課の二人が、今向かっているのはうろなの海。
お盆前の、防犯強化との名目で駆り出されていたのだった。
「やっぱ、夏といったら海やんなぁ〜」
「先月来たばっかやろ。……はよ終わらして帰りたいわ。暑い」
海水浴客でごった返すビーチを警戒しながら、進む。
お盆前だから、という訳ではないが、海水浴客でごった返す夏の時期は確かに水難事故やらナンパ被害やらが多発しやすく、雑用までをもこなす企画課の二人が、防犯強化要員として駆り出されるのも頷けるといえば、頷けるのだが……
「可愛い子がいっぱいやなぁ〜。目移りしますわ」
周りは水着姿の美女ばかり。そうそうに仕事を忘れ物色をしだす佐々木に、
「仮にも役所の人間が、取締り始めたその日に、犯罪者第一号で捕まるんはやめてぇな。この後もまだまだ、忙しいねんから。俺の仕事増やすなや」
ぱたぱた、持ってきていたうちわで顔を扇ぎながら香我見が言うが、
「女性数人だけで来とんのに、ボク等が話とったらそれだけでアホな奴らの牽制にもなるし、ボク等は可愛い子〜らと御近づきになれて、一石二鳥やないか〜」
などと宣う佐々木は聞いているのやらいないのやら。
確かに、こんな所でスーツ姿の二人組になんか話しかけられていたら、お近付きにはなりたくないと思うのが普通だろう。
しかし、それとこれとは別ではないかと、隣を歩く佐々木を横目で見つつ、人選、間違ぉとると思います……と香我見は胸中で静かに呟いた。
暫し他愛ないお喋りをしながら、周囲に気を配りつつ浜を進む二人。
「やっ、やめてください!」
と、そんな二人の耳に、まるで当然であるかのようにその声は届いた。
声のした方を二人が見やると、海水浴客らしい三人の男性に、一人の黒髪少女が取り囲まれているのが見えた。
「キミ、かぁ〜わい〜ねぇ〜」
「俺等と一緒に遊ばない?」
等という会話も聞こえてくる。
「……お決まりやなぁ」
「そないな事ゆーとらんと! 出番でっせ!」
その声に気だるげさ満載に香我見は呟き、佐々木はそんな香我見を急かす。
「こっ、困ります! 私っ」
「い〜じゃんい〜じゃ〜ん。ちょーっとくらい、大丈夫だって」
「あっ!」
そうこうしている間に、黒髪の少女は三人の内の一人に手を取られ、無理矢理連れていかれそうになる。
「はいは〜い、あんさん等ちょおタンマ」
「現行犯で、逮捕やな」
が、それを待っていたかのように、三人の男共と少女の間に割り込む二人。
狙っていたのはコレだったらしい。
香我見の携帯画面にはばっちり、その瞬間をとらえた映像が、鮮明に写し出されていた。
「あぁ? んだよテメェら!」
「邪魔すんじゃねーよ」
「やんのか、コラぁ!」
しかし、物的証拠が撮られたくらいで諦めるような、ヤワな奴らではなかったらしい。三対二という、数にものを言わせてヤッちまおう、という結論に行き着いたようだった。
ふいに、三人男の内の一人の拳が飛び。それに続くように、他の二人も拳やら蹴りやらを繰り出す。
「きゃっ!」
それに、黒髪少女が小さく叫ぶが。
「せやぁっ!」
「ぐぇっ!?」
自分めがけて飛んできた拳をやんわり掴み、軸足を払うと共にその勢いを利用して、佐々木が一人目の男を背負い投げ。
「おっと」
追尾の二撃目にとして繰り出された二人の拳と蹴りを、最小の動きで香我見がひょいっとかわし。
ついでにとばかりに、飛んできた拳に片手を添えて、二人目を手の捻りと反動でクルンと回して沈め落とし。
蹴りを放ってきた三人目の男の方は、避けると同時にさり気なく背後に回り込み、膝カックンしてバランスを崩した所を、すかさず引き摺り倒す。
それはまさに、あっという間の出来事で。
倒された三人の男達は何が起きたのか、よくわかっていないというような顔をしていた。
程なくして、やって来たライフセイバーの方々や警察の方々に三人の男共を引き渡した所で、
「助けてくださって、どうもありがとうございました」
ペコリとお辞儀しながら礼を述べてくる少女に、へらっと笑って佐々木は言った。
「えぇてえぇて。それより、空ちゃんに怪我なくてよかったわ〜」
その言葉に驚く香我見と少女、空。
お互いを見やり、あっと小さく声をもらす。
「君はこないだの」
「この前のお二人だったんですね。今日も海でお仕事ですか?」
後ろ姿だけでわかったらしい。流石佐々木といった所か。
いきなり名前を呼ばれて若干警戒心を抱いた空だったが、この前海の家ARIKAに来た二人組だとわかると、警戒を解いてにっこりした笑みを向ける。
「そーなんや。今日は盆前の防犯強化要員に駆り出されとってなぁ。って、空ちゃん。手ぇんトコ赤なっとるやん!」
それにへらっと返した佐々木だったが、空の手首が赤くなっているのに気付いて、慌ててその手を取る。
「え? あ。さっき、結構強く掴まれちゃって。でも大丈夫ですよ、これくらい」
それに、今気付いたといった感じで苦笑する空。
そんな空の手首を見つつ、痕残らんかったらえぇけどなぁ、と佐々木が呟いていると。
「空を離しやがれ! このナンパ野郎っ!」
と、聞き覚えのある声が聞こえ。
「この間の変態っ!? よくもまぁ、性懲りもなく来れたものね。空を離しなさいっ!」
「…………変質者、再び。現行犯で、逮捕」
更に更に、聞き覚えのある声が聞こえ。
嫌な予感にそろ〜っと佐々木と香我見の二人が後ろを振り返ると。
ARIKAの姉妹、陸、海、渚の三人がそこに立っていた。
並び立つ渚の傍らには小さな物体が飛行しており、それがカメラの如き形状をしているのに気付いて、佐々木はボソっと香我見に訊ねる。
「ボクさっき、これと同じ光景見た気ぃするんやけど」
「奇遇やな、俺もや。……さっきは立場、逆やった筈なんやけどな」
「事情説明したら、許してくれるやろか……」
「無理やないか」
苦笑いする佐々木に、ため息して香我見。
そんな二人に、あ、あのっ、と空が声をかけ。
それに、ボクらにはちゃあんと証人がおる! と、
「ちょお待ってぇな、お姉さんら。ボクらのこれは誤解なんや!」
佐々木が素敵笑顔でそう告げるが。
『――問答無用っ!!』
幾度となく空に群がるナンパ共を薙ぎ倒してきた姉妹達には、皆初めはそう言うんだと、聞く耳持たなかった。
そのまま、騒ぎになるのかと思われたのだが、
「夏の海とは、気持ち良く遊ぶ為にあるものであって、乱闘して海水浴客(お客様)に迷惑をかけるような所ではない」
と、意外と側にあった海の家ARIKAから出てきた太陽に、皆仲良くお説教され、
「――どうせなら、もっと平和的に解決なさい」
と、満全の微笑みと共にそう言われ。
双方弁解する余地すら与えられず、なし崩し的に始まる事になりました、この大会(?)。
『水鉄砲ロワイヤル』
水鉄砲王に輝くのは誰か。
強引すぎるにも程がある(笑)
先に謝っときます、すみませんっ
お遊び話、開幕です
弥塚泉様のばかばっかり!より、佐々木くんと香我見くんのお二人お借りしてます
多忙な中駆り出させてしまってすみません
暫くレンタルいたします〜
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ
後は強制的に(笑)とにあ様のトコの両兄弟妹ズお借りする予定です☆
合間にって感じになるかと思うので、これはのんびり更新予定です〜




