8/8 海、どきまぎする
随分ちっこい女の子と、まるでその兄貴みたいな二人組が来店して来た。
(兄妹か?)
などと思いつつ調理しながら、なんとなく海がその二人を目で追っていると、
「〈カレーうどん〉と〈たらこスパゲッティ〉頂きました」
その二人から注文をとってきた空が、調理場に戻って来ながらそう言う。
それにあいよ、と声を返し調理に取りかかる海。
その耳に、彼の二人の会話が届く。
「今の店員はな、セイレーンなんだ」
その言葉に、ちょっと驚く。
(あの二人組、初めて見る顔の筈なんだけど……。セイレーン、定着してるなぁ。この前の美女コン効果かねぇ? これだとホントに、『うろなの歌姫』とかって空を売り出せちまいそうだなぁ……。滅多に歌わないってのに)
なんの因果かねぇ、と海が苦笑を浮かべていると。
「男達を惑わせて迷い込ませてるんだ」
とか、
「有り金全部巻き上げては、骨抜きならぬ金抜きにして海に放り投げるんだ」
とか、
「帰れずに途方に暮れている男どもは死んだように項垂れるだろう」
とかが、ちっこい子の方から聞こえてきて、地味にダメージを受けることとなった。
「……何してるの」
三度挙動不審さを演出した海に、陸が訝しげに訊ねると、
「いや……ちっこい子に、大人(現実の裏的)な話をされると……ちょっと、クるなぁ……って思って」
あはは〜と苦笑いを浮かべる海に、そう? と陸は首を傾げる。
「今時、小さい子供達の方が、かなり現実的だと思うけど。海の家なんて夏場だけなんだから、稼げる時に稼いどかないと経済的に困る訳だし、そーなるように仕向ける為に、空を接客担当に仕立てたのは海でしょうに」
恥ずかしがり屋なのを治す為〜とかって唆したのに、ちょっとでも良心があったなんて意外、という顔で陸。
「ま、たまには海にもお灸を据えないとね〜。成人だっていうのに、ちっとも落ち着かないし、悪戯はなくならないし」
良い機会だわ、とばかりに微笑む陸。
それをこのやろう、と海は睨むが、出来上がった料理を持って、配膳へと行ってしまう陸。
暫し、そんな陸を恨めしげに睨んでいた海だったが、
(……いやいやいや。このあたしに、何も後ろめたい事なんかないっ! これはアレだ、アレ。正当な、経営者としてのちゃんとした戦略だ、戦略っ! 決して空がおとなしくて可愛いから、それ目当てにナニソレしよーとして寄ってくる客から、有り金全部巻き上げて骨抜きならぬ金抜きにして海にぶち込んでやろーとか、初めから思っててやった訳じゃねぇっ! だから、子供の何気ない一言に、ダメージ受ける事でもねぇはずだっ!)
などと、一人胸中でぐるぐる考えるハメになり。
それは、一緒に来ていた兄貴っぽい方が、「部長」と呼ぶまで続いたのだとか。
たぶん、海はおとなしくもならないし、悪戯もなくならない…(苦笑)
お灸据えは失敗っぽい…
シュウ様の文芸部へようこそより、部長と綾瀬君お借りしてます
海へ行こうとリンクしてます
ちっこい子ってばっか言っててすみませんっ(はっ!ここでも…(苦笑)
部長、怒らないでくださいね〜
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ




