12/1 良かった
いつの間にか暗闇の中に一人、座り込んでいて。
腕の中に黒炎はいなくて、苦笑する。
「言い逃げかよ…………」
呟く言葉に答えはない。
胡座をかいて、そこに座ったまま。虚空を見上げて。
「全く囚われてないーー、って言ったら嘘になるけど。もっと他に、何か良い手があったんじゃないかって、考えない訳じゃない」
一つ、息を吐く。
「だけど、それはもう。終わった事でーー。ごちゃごちゃ考えんのは、結局後からしか出来なくて、さ。あの時の俺は……俺たちは、あの時出来る最善を尽くしたんだ」
ぱたり、そのまま後ろに倒れる。
「あの時の世界がそうだったから仕方ないーー。で、終わらせたくはねーけど。あれ以上に最良な方法はなかったし、あれ以外に、俺たちに打てる手立てはなかった」
だからーー、と続けて。まるで自分自身にも言い聞かせるかのように、続ける。
「誰かが何かに、囚われ続けている必要もーー、何かを背負い続ける必要も、ないんだ。誰の所為でもない。確かに、悲しい事があったけどーー」
虚空に、手を伸ばす。
「あの事がなければ、今の俺はここにいなかっただろーし、今みたいな想いじゃ、ここにいる事は出来なかっただろうから」
「それに、ティアが幸せだったんなら。結末はどうあれ、たぶん、きっと。良かったんだ。幸せなひと時があって。ティアが幸せだった事だけ、抱いていられるなら」
翳していた手を下ろして、そっと握り。
「お前もそうだろーー? なぁ、グラート」
ティアの代わりとでもいうのか、傍らにそっと現れた黒炎に声をかける。
今までの感覚から、その黒炎がグラートなんだという事は、分かっている。
今まで一番側に、一番長く一緒にいたのは、傍にいたのは、グラートだったから。
「…………かった…………」
「ん?」
グラートの言葉が聞き取れなくて、顔を向けるフィルの目に。
ボロボロ涙を溢しながら泣き笑う、グラートの姿が映り込んだ。
「……よかった…………良かった。ーーあんな事があったけど……ティアが…………、ティアが、幸せだったなら……。よかっーーぅ、うぐ……うぅー。よ……、よがっだなぁ、ティアああぁあーー!!」
「………………」
ぎょっとしたのも束の間、大の男が声を上げて、涙をボロボロ溢しながら泣き叫んでいる姿に、ぽかんとして。
ぱちぱちと目を瞬きながら、グラートを見つめるフィル。
なんで、こんなーー
人の為に、涙を流せる男が
『闇堕ち』なんて、しなきゃいけなかったんだろうーー
そこまで考えて、違うか、と一人微笑する。
優しいから
優しすぎるから
誰かを責めるとか、疑うとか、そーゆーのが出来なくて
自分の所為にしてしまって
バランスを取ることが出来なくなって
耐え切れなくなって
壊れて堕ちるんだーー
グラート(こいつ)が優しいのは長所だけど
体力馬鹿なのにメンタル硝子だから
短所なんだよなぁ……
ガリガリ、白髪の頭を掻く。
もう少し
ほんのひと匙だけでいい
自身と他人を切り離せたら
こいつが堕ちる事は、なかったんじゃないかと思う
「そーだな。良かったよな。ティアも、グラート、お前も幸せで。みんながーー、……幸せだったあの頃が……懐かしいよ」
「そう……だ、な……」
同じタイミングで虚空を見上げてーー
いや、はるか昔の「あの時」に、二人して思いを馳せる。
暫し静かな時が流れ。
その沈黙を破ったのは、グラートだった。
「…………なぁ、フィル」
「ん?」
「お前、さ」
「うん?」
頬を掻くグラートを、首を傾げて見上げると。
意を決したように息を吸い込んだグラートが。
爆弾を投下した。
「お前、好きだったろ。…………ティアのこと」
「ーーは?」
オフ会記念であげー




