7/31 星空の下で
嘘つきました、すみませんっ
お母さんは、寝つきが良い。
渚お姉ちゃん以外の皆も凄く寝つきが良いけど、お母さん程はいかないと思う。
お母さんは、お布団に入るとものの三秒で安らかな寝息をたて始める。
人の倍忙しく動いてるから、きっと疲れてるんだよね。
お母さんいつもお疲れさま。
そう胸中で呟いて、汐はそっと寝室を抜け出す。
そろりそろり、音をたてないようにカニさん歩きで移動。
二階の隅の部屋から屋根裏へ。
更にそこの天窓から、隠し階段を登って屋根の上へと出る。
「うわぁ……っ」
つい、感嘆の声を上げてしまい、慌てて口元を押さえ、背後を確認。
暫し待ち、誰も来なさそうだと安心してため息。
しかし、思わず感嘆のため息が出てしまう程、夏の夜空は美しかった。
だが汐は何も、星空を見に来た訳ではない。
星空を見るなら一人じゃなくて、皆とがいい。
今此所に来ているのは、たんにこの場所が一番、〈うるさい〉からだ。
「……ふぅ」
ひとつ息を吐いて、目を閉じる。
そうすると、それ以外は何も聞こえなくなる。
〈キラキラ〉は、人にも、物にも、色々なモノに、宿っている。
それは思いだったり、何かの力だったり、色々だ。
一番良く視えるのは人で。
感情が良く動くのは、やっぱり人だから。
それは直接じゃなくても、何かを媒介にして、触れてしまう事があって。
〈声〉は、空気を〈振動〉させて伝わる。
その空気の振動は、〈壁〉にあたって、その壁を〈震わせる〉。
そうすると、その〈声〉が、〈壁〉を媒介にして〈キラキラ〉を伝えてくる。
只でさえ、血の繋がりがあるせいか母親や姉妹のは視えやすいのに、感じる側の自分が、寝室なんて静かな所にいては筒抜けなのもいい所だ。
全てのものが、視える訳じゃないけど。
視えないものも、あるけれど。
コントロール出来る訳じゃないから、ちょっとでも触れてしまえば、途端に流れてきてしまう。
自分から視たいと思って視たモノなんて、数える程もない。
〈力〉を制御出来ない自分が取れる対処法は、今の所これしかなくて。
「……お父さんなら……もっと上手く出来たのかなぁ……?」
呟いて、立てた膝に顔を埋める。
お父さんなら、きっと色々教えてくれただろう。
力についての事も勿論だが、それ以外の事だってたくさん。
会いたい――……けど会えない。
星達が、痛いくらいに、うるさいくらいに〈キラキラ〉を投げてくる。
星の瞬きは、過去からの、そして未来からの光。
何光年っていう年を渡って、現代の夜空に届くもの。
その間に色んなものにぶつかってぶつかって――……たくさんたくさん瞬きを送り届ける。
キラキラ、シャラシャラ。
それはまるで、歌っているみたいで。
星達の大合唱を聞きながら、何故か涙が溢れた。
汐ちゃんに、盗み聞きさせる訳にはいかなかったので……(苦笑)
次こそいきます、七年前っ!




