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12/1 幸せになって




 ーーあの、ね


 ポツリと呟かれたそれに、耳を傾ける。


 …………

 ……………………

 …………………………………………


「なんだよ?」


 待てども話出そうとしないティアに焦れて、フィルが声を返す。


 ーーだから、その…………っ


 「うん?」


 ーーえぇとーー


 ティアにしては、随分と歯切れが悪い。

 思った事をズバッと言ってしまう性分(タチ)の彼女しか知らないフィルは、言葉を詰まらせているティアに、怪訝そうな顔をする。

 そんなに、言いにくい事があるのだろうか。

 まるで本当の姉と弟のように過ごしていたし、お互いがそう思えるほどの間柄だったと、思っているのだが。


「なぁんだよ? 見ちゃいけないーー、誰かの秘密でもうっかり見ちまって、どうしよう? みてぇな時の表情(かお)だな?」


 な!? ば……っ、だ、誰がっ!?


「………………」


 カマをかけてみたのだが、抱きしめ合っていたのを振り解き、バックステップで数歩離れたティアの態度に、蒼瞳をぱちくりと瞬き。

 ため息を一つすると、ガリガリと頭を掻いて。


「冗談のつもりだったんだが…………。んで? 俺に『共犯者』になれ、って話か?」


 ーー違うわよっ! そんなコトじゃ、なくて…………


 やれやれと告げたフィルに憤慨するも、最後は尻すぼみに囁くだけ。

 夜の闇に、溶けて消えてしまいそうな声。

 何かを言いたげにしているが、なかなか言えない。

 珍しい素振りだし、可愛くもあるが、そんな状態は手持ち無沙汰で少々、居心地が悪い。

 どうすっかなぁ、と悩んでいると。

 漸く、ティアが口を開いた。


 ーーフィル


 「なんだよ」


 ぴたり、と目を合わせてきたから、こっちもちゃんと聞く為にティアに向き直る。


 ーー今、言わなきゃいけないと思ったから、きっと。この〈奇跡〉が起きたんだと思うから


 すーはー、息を吸って吐く。そんな間があって


 ーーもう、「あの頃のティア」ではないけれどーー。私が言わなくちゃいけないと思うから、言うよ


 そっと近付いてきたティアが、「見られたくないから」という理由でフィルを抱きしめ包み込み。




 ーーずっとずっと…………、謝りたかった。フィルに

 過去(あのとき)の私はーー、弱くて、愚かで、脆くて




 ーー貴方(フィル)を責める事でしか、恨む事でしか、私自身を保つ事が出来なくて

 ごめんなさい

 フィルのせいじゃないのに

 フィルのせいな訳ないのに

 …………わかっていたのに

 私の心が、そしてグラートの心が

 互いの心が弱かったから

 二人で貴方を責めて、恨んで




 港町(まち)一つ滅させてーー

 貴方一人に、全て背負わせてしまった




 ごめんなさい。謝って済む話じゃないし

 許してくれ、とは言わないけれど

 どうか、貴方がーー




 私の弟が……

 『小さなフィル』が

 過去に囚われたままで、いて欲しくなかったから




 貴方自身を

 もう許してあげて欲しかったからーー

 私たちに、もう囚われてなくていいから

 もう、自分自身を責めてなくていいから




 お願いよ

 幸せになって、フィルド

 私たちが、嫉妬しちゃうくらいにーー




 温かいモノが、頬を濡らす。

 それはティアのものなのかーー自分の瞳から溢れるものなのか。

 ふんわり、不意に頭を撫でられて、いつの間にか泣いていたそれを隠す為に、ティアを抱き込む。




 あんな終わり方になったけど

 私はーー、ティアは。ティアリアニィは……

 グラートと、フィルと、みんなと

 居る事が出来て




 幸せだったから




 幸せだったの。あの温かな日々を

 あなた達と共に過ごせて

 わたしーー幸せだったのよ? だから






 あなたも幸せになって

ティアの想い


書けたら上げるのですが、連投はここまでのようですー

のんびり更新をお待ちくださいませ〜

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