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12/1 俺と一緒に生きてくれ




「……………………」


 声がする。


「…………ル」


 誰かが誰かを呼んでいる。声が。


「ーーーーフィル!」

「!」


 名を呼ばれ、目を覚ますと。

 あたり一面はーー海。


「あれ?」


 右見て左見て。前見て後ろ見て。

 もう一度前を見るが、やはり、周りには海しかない。


「フィル! ちょっと、ちゃんと目、覚めてる!?」


 ばさり、上空から羽ばたき音と、女の声がする。

 見上げて見ると、旋回するデカい鳥の上、女がこちらに向かって叫んでいた。


「アプリ……? おっさんとチェーイールーまで。何がどうなって」


 仲間だと視認して、声を投げるが。


「あんた、まだ燃えてるわよ!?」

「ーーーーーーは?」


 アプリに燃えてる、なんて言われてその蒼瞳を瞬く。

 自分を見下ろしてみた。

 うっすら、身体を覆う炎。舌先がゆらゆら揺れている。

 うん、確かに燃えている。両の手を見てみる。こっちも確かに燃えていた。

 熱くはない。黒い玄い黒炎が、自分を覆っていた。


「あーーーー……」


 そうか。そうだった。

 思い出した。

 ティアリアニィとサヴァナグラートが〈堕ち〉て。二人の〈想い〉に飲み込まれて。

 暴走させた〈力〉で。

 港町(まち)一つ消滅(けし)させた。


「………………」


 燃える手を見る。

 ミハは、殆どのモノを持っていってくれたけど。

 まだ、残ってしまったものがあったらしい。


「ちょっと! フィルドレジティース!! 聞いてる!?」

「…………聞いてる。アプライトゥリス」


 声だけ返して、ぐっと拳を握る。


「御せねば切り捨てる。ーーわかっておるな?」

「ミハが、折角助けてくれたんだから。僕はどっちでも構わないけどーー。早くしないと、足場がなくなるよ?」


 カルサムと、イルの声が告げてくる。

 生かーー、死か。

 それに苦笑する。

 そんなの、最初から決まってるのに。

 空を見上げて呟く。


「殺した所で、俺ってどーやら、神様に嫌われてるっぽいから、さ」


 拳を固めて声を張る。


「俺は! お前の……、お前らの望みを知ってる! ーーお前らがどんな、想いだったのかも。お前らが死んで…………俺だけ生き残るつもりなんか、なかったけど……。お前らが見たかった世界を、必ず見せるからーー」


 天高く、青い蒼い空が霞む。


「だから…………。俺と一緒に、『この先に』行ってくれ。俺は、まだーー〈そっち〉には、行けない。約束が、あるんだ。その約束を叶えるまでは。どうあっても、死ねない」


 いつも、いつもは忘れているその約束。

 思い出させてくれたのはお前らだったよ、と囁いて。


「だからさ。せめてそれまでーー。俺と一緒に生きてくれ」


 ザワリ、とフィルの身体を包む黒炎がうねり大きく燃え上がる。


「!」


 身構えるアプリ。手に細剣を握る。

 カルサムは静かに眼下を見やり。

 イルはサムニドの背に寝転がり、頬杖を付いたまま、にこにことしていた。


 手を差し伸べて、フィルが目を瞑ると。




 心に直接響く声。




 オマエが、我を、私を、俺を、我らを

 御するというのか


 幾重にも響く声が、身を震わせる。


「〈名〉も決めた。忘れない為に、じゃなくて。ティアとグラートと、俺と。港町(まち)のみんなの〈想い〉を、覚えておくために」


 ニヤリと口角を上げて、フィルが告げる。


七日七夜(シヴァランサート)。通称は〈シヴァ〉。世界(まち)を呑み込んで、それでも。その〈想い〉を遂げるために」


 良い名前だろ? なんて続けるフィルの耳に。


 ハーーッハッハッハッハッハ!!!


 笑い声が響き渡り。


 そんな小さな身体で、御せるとは到底思えんが

 面白い

 御せたなら、オマエに力を貸してやろう


 大きな指が、胸に触れる感触。

 

 我らの主として、オマエが真に相応しいか

 示してみろ

 


 お前の心が弱ければーー

 いつでも取って代わられる

 それを覚えておけ




 その言葉を聞いた瞬間。

 フィルの意識は混濁しーー


意識が途切れてー

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