12/1 なかったコトに
流れ込んでくるのはーー。
〈想い〉。
みんなを笑顔にしたい。
守りたい。
そんな真白の優しく温かな想いは。
一瞬で転じてどす黒い憎悪疑心悲哀に変わる。
あなたが。わたしが。彼が。君が。
ーーオマエが。
オマエさえ、いなければーー!!
なんで私が。なんで俺が。
あなたのせいじゃない。きみのせいじゃない。
あなたを信じていたのに。君を信じていたのに。
どうして。どうしてどうして。どうしてどうしてどうして。
なんで。なんでなんで。なんでなんでなんでなんで??
血の涙を流しながら、叫び声が響く。
偽りが疑心になり、負の感情が渦巻いて。やがて自己すらも。
信じられなくなっていくーー。
〈聖女〉を襲わせたのは、子供。
〈聖女〉を穢し奪ったのは、少年。
そんなこと、あるはずもないのに。
しかし、不安定な心の中。繰り返し繰り返し囁かれればーー。
いつしか疑心は確信に変わり。
『嘘』は『真実』になる。
涙が一筋溢れ落ちる。
〈触れられない炎〉が、それを天へと攫っていく。
その時の俺には、何故二人に責められるのか。
わからなかったから。
いや、二人の為に何も出来なかったからーー。
だから、責められているんだと思うから。
そのせいで死んだとしても。それも仕方ないんじゃないかと、思えた。
手紙を届けるだけじゃなくて。
もっと、二人が会う事が出来るように働きかけるとか。
嫌がるだろうけど、ティアを〈神殿〉に連れて行っていれば、もっと違う方法で。
港町の人たちも、ティアも、サヴァナグラートも。
幸せにすることが、出来たんじゃないかって。
悲しみが、怒りが、後悔が、痛みが。
流れ込んできては、容赦なく精神をガリガリと削っていく。
死ぬのは、こんな感覚なのか、と。
ぼんやり思って。
俺の存在すら消したいのか。
それ程までに、憎まれているならーー。
全て、なかった事にするために。
この港町ごと消滅させよ(けそ)う。
願ったことも。
想ったことも。
出会ったことすら。
残していても、悲しいだけだから。
なかった事に、してしまう為に。
そこでブッツリと、意識が切れてーー……
燃え盛る炎が、黒く澱み。
更に大きく燃え上がった。
二人を思えばこそ、、、




