12/1 最も脆弱
七守護りとは、、、
願ったのは。描いたのは。
皆の幸せ溢れる笑顔。
たった、それだけだったのにーー。
「見つけ次第、〈神殿〉で、保護するべきだったよね」
衰える事なく燃え続ける炎を、教会のその上、十字架の上に佇み見回しながら。
イルがぽつりと呟く。
「〈継承者〉の想いを、無下には出来ぬ。港町は、ティアリアニィの故郷でもあるのだから」
イルと同じく、教会の屋根の上から。町を見下ろし、告げるカルサム。
旅芸人の一座に身を寄せていたティア。踊り子である母と、座長で魔術師でもある父との間に生を受けた。
ティアを産むためにこの港町に立ち寄り、2年の月日を過ごし。
また世界を巡る旅へと、立ったのだという。
サヴァナグラートがティアを見つけたのは、各地を巡り、数十年ぶりに、故郷に帰ってきた時の事だった。
「でも、長くここに留まらせた所為でーー、こんな事態になったんだよねぇ?」
「そうとも言えるが、それだけ、とは言いきれぬ。〈継承者〉の意思は尊重されるべきもので、制限をかけていいものではない」
一つ、息を吐き。
「本来朕らは、〈見守る者〉。〈継承者〉がそうしたいと望むのであれば、それをそっと見守るのが役目。原因が如何にせよ、身に起こる事柄に、極力手出しはせぬのが道理」
「次代を継げずに死んだとしても?」
「左様。そうなるのならば、それがその者の運命なのだ。〈継承者〉としての力を持っていても、その力をどうするか、は。〈継承者〉自身に委ねられているのだから」
実際力を有していても、何も変わる事なく次代を継ぎ、ただ人として生をまっとうした者もおるのだから。
ただ……とカルサムは続け。
「ティアとグラート、フィルは。互いが互いに近付きすぎた。それ故に起こった此度の事態。なればーー朕らで結するより他はあるまい」
「当事者である三人は。どう見たって使い物には、ならないと思うけど〜?」
やれやれ。と続けるイルに。
そうでもない、とカルサムが続ける。
「フィル(あやつ)が、二人の想いを一身に受けている内にーー。此度の主犯格を確実に仕留める。自らを壊してまでして、大元をし損じるなどという事になれば。二人とも浮かばれぬであろう?」
「…………もしかしてキミ、怒ってるの?」
真剣の柄を握り告げるカルサムに、ひゅ〜っと口笛を吹きつつイルが、その薔薇の瞳を瞬きして問う。
「……付いてきたのならば。お主とて、暴れる気でおるのだろう?」
「言っておくけど、僕は戦闘狂じゃないからね? 『貸し』を作っておくのも、悪くないかなぁって思っただけだよ☆」
答えないカルサムに。薔薇色の瞳を三日月にして。くすくすとイルが楽しげに呟く。
笑いながらパチン、指を鳴らしただけで。港町全体を覆う結界が出来上がる。イルの力。
「逃げられないようにはしてあげたよ? 術師が側にいるだろうから、ミハの〈音〉は効かないだろうし。キミなら、兄の居場所がわかるでしょ?」
ヒラヒラ、手を振るイルに目線だけ投げ。カルサムは地を蹴り空に飛んだ。
「まさか〈闇堕ち〉するなんて、ね」
炎に彩られた眼下を、見るとはなしに見ながら。イルが呟く。
自分の分の仕事はしたし、アプリを側に置いてきたとはいえ、二人の〈想い〉に灼かれ続けるフィルを、どうこうしてやる事は出来ない。
領主の兄が色々と、手を回していたり。
ティアやグラートを閉じ込めて、『嘘』を植え付け心を操ろうとしていたり。
〈聖女〉と「恋人」の側をうろちょろしている、罪をなすりつけるには丁度良い子供としてフィルが選ばれた事も。
もちろん、イルは知っていた。
ただ、手を貸さなかっただけだ。そんな義理はイルにはなかったし、二人も手を借りる事を拒んだ。
だけど、どうなるのか、には興味があった。
互いを想い合う二人が、打ち勝つのか。
権力に抗えず、屈するのか。
結果としては、〈闇堕ち〉なんていうつまらないモノになったが。
ティアは最後まで兄のモノになる事を拒んでいたし、グラートもティアを信じていた。
もちろんフィル君も。
だけどーー、一度でも疑ってしまったから。
疑心と自責の呵責に、耐えきれなくなった。
だからこそ、〈堕ちた〉。
人は、そんなに強くない。
自然界の中で最も、脆弱な生き物。それが人間。
社会性を重んじるが故に、そこから外れたら、生きていけない。
「関わりすぎず、近付きすぎず。〈見守る〉だけの者ーー、か。それだけでいいなら。どうして〈人〉にしたんだろうね。〈継承者〉も〈七守護り〉も」
いや、きっと人だからこそ、なのだろう。
自分で言って、苦笑する。
見ればわかる事なのに。
何処かで悲鳴が上がる。
きっとカルサムが、事を終えたのだろう。
炎はまだ、燃え盛っている。
「後始末、大変そうだなぁ〜♪ この『貸し』は大きいよ? フィル君♪」
くすくす囁いて。後始末のため、イルが漸くそこから動き出した。
イル君が思うのは




