12/1 永遠の旋律
暴走
灼かれるフィル
会えない事が、互いへの疑心を生みーー。
『嘘』を刷り込まれて、相手を、自身すらも信じられなくなった二人は。
思わぬモノに穢された悲しみと。
大切なものを穢された怒りで。
闇に堕ちた〈継承者〉と〈七守護り〉の力が、合わさり混ざって暴走する。
悲しみの火が。怒りの業火が。
向かうのはーー。
「っーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「フィル!!」
投獄された牢の中。
〈触れられない筈の炎〉が、じわじわとフィルを灼く。
まるで。
「お前の所為だ!」と責めているかのように。
「どうなっているのです!? フィル! 一体何がーー」
「あああああぁああああぁぁああぁ!!!」
騒ぎに乗じて牢内に侵入した、七守護りの一人が叫ぶが。
「あれじゃ、聞こえてないよ。それに、ここの〈継承者〉も〈七守護り〉も、もう。〈使いモノにならない〉」
薔薇色の髪と目を持つスーツ姿の少年が、叫び続けるフィルから目を離さずに告げる。
「ーー〈堕ちた〉、か」
薔薇色の少年の後ろから、静かにフィルを見やり呟くのは、頭上高くで結えた三つ編みを風に流す、袴姿の少年。
「っ! ーーならば、上の騒ぎを止めないと。このままでは無関係な民たちを、巻き込む事になります」
一番最初にフィルに声をかけた、盲目の音使いである少女が、地上への階段を上がりかけながら告げる。
「何言ってるのさ、ミハ。この港町の民たちが、〈無関係〉な訳ないじゃない☆」
ミハの呟きに、キャハ☆ と微笑んで薔薇色の少年、イルが呟く。
薔薇色の目をニヤリと細め、その口角を引き上げながら。
「知っていて、わかっていて。領主の息子、兄のその過ちを、見て見ぬふりしてたんだから。ーー同罪だよ☆」
「〈継承者〉と〈七守護り〉の、最初の想いが強すぎる。ーー選り分けるのは、最早不可能であろう」
「そんな…………」
誰だって、自分の身が一番可愛い。
何かがおかしいと、気付いてはいても。
権力者にたてついてまで、他人の為に自分の命を散らそうなどと思う酔狂な者は、この町にはいない。
壊れていく歯車の、その崩壊を。
止める事は、誰にも出来ないーー。
「この町だけで、事を収める。よいな、ミハ」
「王!? ですが……っ」
「町一つで済むなら、安いものだと思うけどなぁ〜♪」
「イル! 貴方と言う人はーー!」
何処までも、他人事のように告げるイルに怒りを覚え。ミハが詰め寄って襟首を掴む。
そんなミハに、薔薇色の瞳を向けて。
「全てのものを、君一人だけで。助ける事が出来るの? ねぇ? ミハ。継承者と七守護り(サヴァナグラート)の二人を鎮めて、悲しみと怒りの業火に灼かれ続けるフィル君を、救い出す事が出来るって?」
「それ、は…………」
イルの薔薇色の瞳に射抜かれて。
知らず襟首から手を離し、後ずさるミハ。
「助けたいって。口で言うのは簡単だよね。でも、最悪の事態が起こってしまっているこの状況で。まだ、他を救える手立てが君にあるって?」
ぐっと、喉を詰まらせ、イルを睨むミハ。
残念ながら、自分一人の力だけでは、全てを救うのは難しい。
だけれども。
ティアリアニィが守りたいと思っていたものを。
サヴァナグラートが願っていたものを。
フィルが想っていたものをーー、知っているから。
彼らの思いを、願いを。
出来れば叶えてやりたいと思う。
だがーー。
「お主は、この事態を収束させる為、此処に来た。その見た目は、その表れであろう。ーー己が成すべき事は何か。お主自身、わかっておるだろう?」
「………………」
常は、力を使えない代わりに、大人の見た目でい続けているミハ。
しかし今は、力が使える子供の、少女の見た目に戻っている。
それが意味するのは、この事態を収束させるため。
その為に来たのだという事実。
「………………わかり、ました…………………」
ミハは、力無く呟くと、石畳の階段を上がっていく。
フィルを灼き続けている炎は、今や町全体に広がっている。
この町を、民を。根絶やしにするかのように、地を這う。
守りたい想いと。
赦せないほどの怒りが。
町一つ呑み込む業火となった。
逃げても、ヒタヒタと何処までも追い縋り、家を、町を、民を呑み込む。
逃れられないのなら、せめて。
安らかに、苦しむ事なく逝けるよう。
音を奏でる。
永遠の眠りにつけるよう……
炎燃え盛る港町に、ミハの悲しい旋律が響き渡るーー。
全部喰わせて満足させた方が、封印するにしても葬るにしても、楽だと思うよ☆
って、イルなら言ってそうだなぁ




