12/1 踊り子の〈聖女〉
フィルくんの過去
ティアリアニィは、旅芸人の一座で、剣舞を披露する踊り子だった。
しかし、七守護りサヴァナグラートによって、〈継承者〉として覚醒したからか。
〈聖女〉として祭り上げられ、一座から離れ教会に、修道院に身を置く事になった。
神に祈りを捧げ。
院の開放日には、ティアの力の恩恵を得ようと、教会にたくさんの人の長蛇の列が出来るほどだった。
〈探しもの〉が得意だったティア。
迷子の猫がいる場所から。
財宝が眠る隠し場所まで。
その時のティアに、探し出せないものはなかった。
ティアのおかげで教会は潤ったし、港町の民からはもちろん、町外にもティアのその名を知らぬ者はいないほど。
ティアの名は知れ渡った。
ティアと、サヴァナグラートの想いを他所に。
最初は良かったんだ。
ティアとサヴァナグラートの二人で、港町を歩いて回って。
困っている人の願いを叶える。
〈探しもの〉限定だったけれど。
それでも感謝と笑顔を向けられる事に、二人は嬉しそうだった。
出来れば、二人きりで歩かせてあげたかったが。
『約束』を交わした年若い男女が、互いだけで会う事は、古の風習により禁じられていて。
目付役兼護衛役として、数歩離れた所から、付いていってはいたんだ。
小さな港町。
ゆっくり歩いたって、2時間とかからずに一周出来てしまう。
だけど、人の悩みは尽きなくて。
ティアが〈探しもの〉をすればするほど。
人々の悩みは、更に増えていくかのようで。
それに、噂を聞き付けた者たちが、町を訪れるようになって。
最初は良かったんだ。
教会も潤って、町も活気を取り戻して。
みんなの笑顔が、たくさん増えて。
二人も楽しそうに微笑んでいて。
だけど、ある時。
〈大きな探しもの〉をティアがやってみせた時からーー。
何かが、何処からか、崩れ始めた。
ティアが、教会に閉じ籠る日が増えるようになって。
七守護り、などとは口が裂けても言えるわけはなかったから、『恋仲』の男であるサヴァナグラートは領主が寄越した〈聖女〉付きの護衛に門前払いされ、ティアに会うのが難しくなり。最後には、全く会えなくなった。
だからーー。
そんな二人を不憫に思って。
手紙を届けてやっていたんだ。
ティアに。サヴァナグラートに。
どうあったって、姉と弟。兄と弟にしか見えなかった。
間違いなんて、起こるはずもなかったのに。
だけど。
その時の俺たちの想いなんて、関係なく。
それまで脅威ですらなかった、小さな港町が力を付け始めている事に。
中立である教会、修道院の力が増すことに。
〈大きな探しもの〉によって、世界が一変した者たちにとっては。
それは喜ばしくもありーー
また、嫉ましくもあったんだろう。
ある者は〈聖女〉を囲い込もうとし。
力が1箇所に集まるのを危惧した修道女の長は、断固として中立の立場を変えず。
ある者は内から。またある者は外から。
懐柔しようとし。
暗殺しようとし。
他を巻き込み、居る場所さえ奪おうとしてきていた。
不穏な噂が流れ出し、ますますティアは教会から出る事が出来なくなり。
サヴァナグラートは、唆されて問題を起こし一人牢に囚われた。
そして俺は。
片足を折られ疼くまる中。
赤い絨毯の上。
神の座で、誰かに雇われたのであろう者共に。
ティアが、穢されていくのをただ。
見ているだけしか出来なかったーー。
その時ティアがいたその教会は。
何者かに手を回され、物資を止められ、奉仕活動も出来ぬよう上から圧をかけられていた。
故に、困窮していた。
孤児を養う食事すら、まともに出せなくなってしまうほどに。
そんな状態で、子を守るために。
女たちが何をしたかーー、など。
言わずと知れている。
町に流れる〈聖女〉の悪い噂。
手紙を「何処か」に届ける白髪の子供。
要人を襲った、〈聖女〉の恋人だと名乗る男。
神に身を捧げている女たちが。
身売りするよう手引きした。
それは。
俺たち三人の策略だと。
噂は瞬時に、町を駆けたーー。
悲しい過去




