12/1 重なる過去(げんえい)
ストックある分だけ上げます
桜月りま様の
12月1日『アリス奪還戦』とリンク♪
小麦色の肌。金の瞳。
黒の長髪が、ふわり。
舞うその様に合わせ、空に踊る。
キラキラと輝く燐光が、彩鮮やかで。
綺麗だーー、と。
思ったのは、いったい何時の事だったろう。
一時間半で一周出来る、地図にも載っていないような、小さな港町。
側に大きな都市の漁港があるからか、その港町の生活は、決して裕福なものではなかった。
家族が食べていくだけで、精一杯。それでもその町には笑顔が溢れ、皆穏やかだった。
戦火は何処からでものびて来て、いつ、その命が潰えるかもしれない、そんな世でも。
いや、そんな世の中だったからこそ。
なんでもない一日を、皆大切に大切にして過ごしていた。
その港町に来たのは、〈予感〉があったからだった。
〈継承者が現れる〉。
数日前にそう告げたのは、守護りの一人。
守護りの〈予感〉は外れない。
心で〈そう〉だと感じるのだから、そもそも外れようがない。
守護りが見つけた事で、〈継承者〉として目覚める者がいるくらいなのだ。
自分の〈継承者〉に出会った守護り達が、「見たら分かる」と口を揃えてそう言うのは、そういった由縁があるからだった。
「ーーホントに、ここにいんのかよ?」
申し訳なさ程度に造られた、古びた外壁の上。木陰になっている場所に腰掛けて。
うんざりした顔で立てた片膝に頬杖をつき、片足をブラブラさせながら、眼下にへたり込んでいる男に問う。
「…………ぜ」
「ぜ?」
聞き取れなかった声に、目線だけ向けると。
「ぜえぇっっ、たいに! いるっっ!!」
声を大にして言うその男ーー、サヴァナグラートは吠えた。
渾身のその叫びは、しかしフィルを更に呆れさせる。
なんせその宣言は既に六回目で、〈継承者〉探しは五日目を迎えていたからだ。
「今回はハズレなんじゃねぇの? 五日も探して見つかんねーとか、初めてじゃね? いー加減面倒だし、俺は帰るからな」
「見たら分かる」なんて言ってやがるが、やっぱ眉唾じゃねーかよ。
やれやれ、と言った感じに。
その時まだ自分の〈継承者〉を持った事がなかったフィルは、その話を全く信じていなかった。
人の心こそ不確かなものはなく、信用ならないものはない。
絶対なんてモノはない。
間違う事も、裏切る事も、また裏切られる事だって、あるのだから。
「フィ〜〜ル〜〜っ! そんな冷たい事ゆうなよ〜〜。あともうちょっとなんだ。こう、近付いてる気はするんだよーー」
「だぁーーっ、涙目で縋り付いてくんな、うっとおしい! デカイ図体して暑苦しいんだよ、お前はっ!!」
「〈子供〉の見た目なのはどうも、居心地悪くてなぁ。イルみたいに利用出来るモンでもないし。まぁ、フィルとかアプリっ子はちっさくて可愛いよな〜〜♪」
「うわっ!? ーーて、抱き付くなあぁっ!! 俺だって、好きでこの見た目でいるんじゃねーよっ!」
郵便配達屋に扮している〈守護り〉は、皆総じて〈子供の見た目〉であるのが常だ。
既に〈死んだはず〉の魂を、生前の後悔を糧に甦らせ、現世に留め置いているその代償。
また、世界の均衡を崩さない為の、子供の身丈なのだという。
それが常の状態だが、目の前の男サヴァナグラートは、いつも、二十歳手前の見た目だった。
本人も言っているが、居心地が悪い。そんな理由で、死んだ時の姿のまま、今に至る。
サヴァナグラートのように、子供の見た目に違和感を感じる者がいる一方、カルサムやイルは特に動じた様子もなく、アプリも最初こそ戸惑っていたみたいだが、「子供時代をやり直せるなんて素敵!」と、殆どの守護りが見た目の変化をすんなり受け入れていた。
しっかりと制限されている訳でもなく、〈力〉を使えば〈成長〉出来る。
だから〈大人〉の見た目でいる事は、出来ると言えば出来る。
ーー〈代償〉さえ支払えば。
〈何を〉、とまでは知らないが、自身の〈何か〉を代償にして、サヴァナグラートは大人の姿のまま過ごしていた。
ずっと。
そういえば、もう一人の守護り、ミハ・セレントスも大人の見た目だ。
その代償は、声。
大人の見た目の時は、声を発する事が出来ない謳い手。
ハーブを爪弾く様は美しいが、艶やかな歌声を届ける事は叶わない。
歌と音楽を愛する、〈音〉を武器とする守護り。
〈代償〉を払ってまで、何故〈大人〉でい続けるのか。
わからなかったし、その時のフィルには興味もなかった。
それにーー。
「いい加減、腕を……っ! アウリが花畑で、手招きしてるのが見えーー」
堅い胸板に押し付けられた状態で、これでもかと熱い抱擁を受ければ、意識なんて簡単に飛びそうだった。
「ええっ?? 悪いっ!?」
弱々しく呟いたフィルに驚いて、慌てて手を離すサヴァナグラート。
そこは空中。あとは重力に任せて、落下するしかない。
「ふぎゃっ」
べしゃり。
顔から落下したフィルは、妙な声を上げて地に伏した。
それに焦ったサヴァナグラートが、慌ててフィルを抱き起こそうとした、その時。
「ーーあっははははっ!」
頭上から少女の笑い声が、いきなり耳に飛び込んで来た。
「「!?」」
こんな側に来るまで、気付かなかっただと?
その事に驚く、フィルとサヴァナグラート。
〈継承者〉を〈守る〉為に、守護り達は多かれ少なかれ、戦闘訓練を積んでいる。
サヴァナグラートは近戦型である為そうでもないが、フィルは後衛タイプの為、カルサムやイルに劣るものの、気配を読むのには長けている。
直前までふざけ合っていたとはいえ、気を抜いていた訳でもないのに。
驚いて二人が、声のした方を振り仰ぐと。
「貴方達、旅芸人に興味はない? 良い線イケると思うんだけど」
言いながら。
丁度腰掛けていた枝から、ふわり。
少女が舞い降りて来た所だった。
木漏れ日から注ぐ光に浮かび上がる、小麦色の肌、大きな金の瞳。
つやりと光をはじく黒の長髪が、ふわり。
舞うその様に合わせ、空に踊る。
付けられた装飾具が、キラキラと輝く燐光が、彩鮮やかで。
綺麗だーー、と。
知らず呟いたフィルは、その蒼の瞳を瞬いて。
笑みを浮かべていた少女のその顔が、驚きに変わったのを見て取り。
少女が見つめる視線を追って、顔を巡らすと。
同じような驚きの表情で、少女を見返す、サヴァナグラートに行き着いた。
ああ、そうか。
その時になって、ようやく。
フィルにも分かった。
継承者と守護り(サヴァナグラート)の出会いは、まるでーー。
恋に、堕ちたかのようだった。
フィルくんの過去
悪役企画より色々
お借りしております
継続お借り中です
お気付きの点等ありましたらお気軽に
とりあえずここまで。間に合えば続けて上げます〜




