12/1 天秤
ストックある分だけ上げます
桜月りま様の
12月1日『アリス奪還戦』とリンク♪
「俺様がバイトしたとして、一体どんな報酬があるってんだよ?」
小さなリモコンに付いている、ボタンを玩びながら。
髪を揺らし、笑みを描く唇から、撫子が言葉を紡ぎ出す。
「貴方達の守る者とは概ね質も力も違うけれど。彼女の力が手に入ったら『そちら』にも回してあげるっていうのはどう?」
「……なんだと?」
フィルの声が、瞳が。知らず鋭さを増す。
なにを、言っているのだろう、この女は?
「奇跡、なんて、基本、誰が起こすかはどうでもいいと思うのよ」
クスリ、と。撫子が笑う。
しゃなりと身体がくびれ、ふわりと髪が流れ。
一瞬、既視感に囚われる。
「象徴的にはあの地域では『その子』である事が大切だけれども、あの巫女はその子の『お友達』でしょう? 代わりに降臨したってすれば、貴方の『大切なその子』は特別に必要じゃなくなる。そうすれば普通に幸せになるのじゃなくて? 『犠牲』になるのは一人でいいのじゃない? お友達同士ですもの。『助け合い』って美談で……」
聞くに耐えず、フィルは素早く針を放った。怒りの余り、誰にも捉えられない程のスピードで。
汐の友達だから?
賀川が守る雪姫を?
身代わりにして?
汐がーー……
〈普通に幸せになれる〉、だと?
冷えた思考の裏で、炎が揺れ。
荒れ狂う嵐を受けて、大きく燃え上がる。
この女、賀川の側の巫女を、代わりに差し出せと言っている。
賀川の仲間であるアリスを攫ったのは、やはり雪姫を手に入れるため。
雪姫が持つ力を、私欲で使いたいが為に。
そのために賀川を殺し、雪姫を捕らえ引き渡せば。
そうすれば、人柱に昇華させた後、こちらに恵んでくれるという。
願ってもない事だろう。
あの爺婆共にとっては。
汐に簡単に手出し出来ない上、父親である所在は行方不明。
片方だけでは親の同意の元、汐をその座に座らせる事も叶わない。
ラタリアがその座に腰を据えているが、所詮お飾りの最高位神官。
元老院の爺婆にとって、神殿の王の座は未だ、空席のままだ。
そこにーー。
爺婆の「思い通り」に出来る、巫女が降臨したなら。
それも、水の神をその身に宿す巫女。
本物の神の力を振える依代。
〈力〉を求めてやまない奴らには、さぞ魅力的な情報だろう。
汐の代わりに雪姫を差し出せば、汐の身の安全が保証されるかもしれない。
仮にそうなれば汐や他の継承者が狙われる事は、それ以降無くなるだろう。
時を経れば、守り守られる者達がいた事は、次第に忘れ去られ。
守護り達も役目を終えて輪廻に還り、また世界に生を受ける事が出来る様になるだろう。
そんな者達がいたなんて事は、本当に。
お伽話の中だけのモノになる。
そうなればどんなにいいかーー。
考えなかった事が、ない訳じゃない。
何度も何度も願っては、打ち消してきたのだ。
そんな事、〈ありえる筈がない〉。
現にこうして、別の事態に巻き込まれ、取引の材料にされている。
人の欲に際限などなく、あわよくばどちらも手にしたい、と思う方が常だろう。
それに。
誰か、が『犠牲』になるよりも。
自分の身を差し出す事の方を選ぶ。
普通に幸せに、など。
望めないのを知っている。
そういう女だ、汐は。
だから。
「そんな事、汐もっ! 他の誰も望まねぇっ!」
フィルが叫ぶのを聞きながら、撫子はまるで踊るかのように、自身に迫る針をさらりと避けた。
撫子が針を躱した事で、その黒髪がふわりと広がり。
「!?」
撫子に、一瞬。
ティアの姿が重なる。
かつてこの力で守護り諸共葬ったーー、継承者の姿が。
吠える
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
賀川さん
悪魔で、天使ですから。inうろな町
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
リズちゃん
悪役企画より色々
お借りしております
継続お借り中です
お気付きの点等ありましたらお気軽に




