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12/1 燻る心

ストックある分だけ上げます


桜月りま様の

12月1日『アリス奪還戦』とリンク♪




「ねぇ貴方、バイトいたしません?」


 撫子のその言葉に。

 ぱちり、蒼の瞳を瞬き。


「あぁ? バイトだぁ? 突然、何だってんだよ?」


 入れていた力を緩め、調子を崩された事により、脱力気味に呟くフィル。


「たった一人の少女と、その側に居る男を殺すだけの簡単なお仕事ですわ。貴方の腕なら容易いでしょう?」


 しかし続けられた内容は、気を緩めていていいモノなどではなく。

 甘く誘うような目をしている撫子を、険を乗せた目を向けて、睨み返す。


 先程建物外で行った戦闘の一部始終を、何処かで見ていたんだろう。

 場慣れしている(その)事は、隠し立てするようなものでもないので、いい。

 しかし。


「……たった一人の少女と、その側に居る男を殺すだけ、ねぇ。雪姫(セツ)と賀川の事だろ、それ。んなバイトを、この俺様が受けると思ってんのか? 大体、俺様の腕は安くね〜んだぜ?」


 気がない風に告げる声に、乗せていないが。

 身の内に、燻るモノが芽生える。


 何故だかは、わからない。

 出会ったその瞬間から。

 胸が妙にざわついている。


「でもそれに見合う料金をあのボロボロの包帯の青年が払えるとは思いませんわ。何の魔法を使ったかはわからないですが、槍で突き刺されたそうですのに、今は彼、元気そうでしたけれど」

「あ~、あれには流石に俺様も呆れたぜぇ。まぁ〜、アイツにゃまだ、訓練の報酬も支払ってもらってねぇからな。それ済ますまで、死んでもらうわけにゃいかねぇなぁ」


 地雷原を走る賀川を思い出し、苦笑混じりにそう言うが。

 死んでもらう訳にはいかない。

 だから、ーー諦めろ。

 言外に含ませながら、苦笑混じりの表情のまま撫子を見据える。


「あら、そうなんですの。じゃ、ますます貴方、タダ働きになるんじゃありません?」

「どーだかな。ま、んなこたさせねーけど。それにありゃ、殺しても死にそうにねぇけどな」

「毒は利かないタイプ? 毒はカプセル式だった? 手塚って、そう言うのは言わないから」

「毒……?」


 軽い口調で告げ、顔に笑みを貼り付けたまま。

 額に汗が浮かぶのを、感じるフィル。

 手塚、というのは明らかに人の名だろうが。

 違う、その前だ。

 撫子はなんと言っていた?


「腹の中の毒よ、もう抜いたのかしら? それともまさか気付かないまま」


 フィルの耳が、探る答えを正確に捉える。

 腹の中の毒ーー。

 その言葉をきっかけに、ラザが見た映像と、賀川から告げられた情報が、嵐のように脳内を駆ける。


 貫かれた身体。

 瓜二つかと思う程に似せられた、機械人形に囚われた時。

 リズが賀川を奪取する前。

 賀川は何をされた?


 飛び散る赤と、上がる悲鳴。

 躊躇う事なく開いた腹に突っ込まれている、マスターと呼ばれる者のその手。


 ーーあの時か!

 痛みで意識を飛ばしかけている間に、賀川に気付かせる事なく、腹内に毒を仕込まれたんだ!


 そのやり口に。

 ぞわりとしたモノに意識を逆撫でられ、ゾクリとその身を震わせる。

 開いていた傷は、今は塞がっていると聞いている。

 だが、毒が仕込まれていたなどとは、聞いていない。

 誰も知らず、毒を腹に入れたまま、塞がっているのだとしたらーー。

 サァッ……と、血の気が引く音を聞く。


(なんでこんなに、間が悪りぃんだ!? 賀川(アイツ)はっ!)


 声には出さず、心の中で叫ぶフィル。

 血の気が引いた事によって戻ってきた冷静さで、思考を巡らす。


 侵入前から既に、死にかけ状態だったが。

 毒に犯されて、という感じには見えなかった。

 撫子も毒を仕込んだ事は知っているようだが、その形状まではどうやら、知らされていないようだ。

 仮に即効性の毒だったとしたら、体力もろくにないのに等しい状態で、効き始めていないのはおかしい。

 という事は、遅効性の毒である可能性は高い。


 依然、爆弾を抱えている事に変わりはないが、再び腹を割いて取り出す事など、出来はしない。

 ズボンを染める程流れた血の量に、消耗しきっているだろうその身体。

 体力が持つはずがない。


「…………」


 取り出す事が出来ないならば、解毒するしか方法はない。

 探る様に、撫子を見やるフィル。


 今、そんな話を持ち掛けてくる、この女の意図はなんだ?


 雪姫と賀川を殺す事が目的なら、片方は既に叶っていると言っていい。

 放っておいたら、誰かが手を下すまでもなく、毒に犯されその命を散らすのだから。

 雪姫を、というのならば少々骨は折れるかもしれないが、連れ出して捕らえ。

 ーー葬るのは、瞬きより簡単だろう。

 あの緩くホヤっとした白髪赤瞳の女が、警戒するとは思えない。

 自分が汐の家族だと言う事を雪姫は知っているし、半月前一緒に町案内をし、昨日は司と渉の結婚式で各々顔を合わせている。

 そんな相手が命を狙いに来るなど、思いもしないだろう。

 加えて自身の命は、既に撫子が握っている。

 手に持っているスイッチを、押せばいい。

 一番初めに爆破されるのは、今いるこの部屋なのだから。


 心に揺さぶりをかけるのが、目的なのか?


 賀川の回りを調べたのだから、此方の事もある程度は知っているだろう。

 仲間だと思っている賀川を、見捨てるという選択肢はない。

 見捨てるつもりなら、最初からこの場に来ていない。

 雪姫を友と慕う汐のため、雪姫を葬る事など、それこそ出来はしないだろう。


 (あいつ)が泣く顔はーー、もう。

 見たくないんだ。


 理性で事を起こせても。

 感情がそれの邪魔をする。


 思うだけで、こんなにも胸が痛むのに。


 目的は、雪姫と(たがい)なのか。

 考えても、全て仮定の話でしかない。

 情報が足りない。

 そっと、息を吐く。

 撫子から情報を引き出すため、ぴたりとその目を合わせて。フィルは吐き出す呼気に声をのせる。


「俺様がバイトしたとして、一体どんな報酬(みかえり)があるってんだよ?」



引き合いに出されたのは


うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話

http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/

賀川さん


悪魔で、天使ですから。inうろな町

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

リズちゃん


悪役企画より色々


お借りしております

継続お借り中です

お気付きの点等ありましたらお気軽に

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