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桜月りま様の
12月1日『アリス奪還戦』とリンク♪
「あら、素早い白ねずみさん」
小さく上がる煙の向こうから、届く声。
此方に近付いてくるその足音を、耳にしながら。
「おー、こわ。ここいらの最近の挨拶は、いきなりなんが主流なのかぁ?」
茶化した口調で呟きながら、煙の中から出てきた女をフィルは余談なく見据える。
こんな所に、ただの女がいるはずはない。
大人の女性らしく品の良いタイトスカート姿に、合わせているのは赤色の高いヒール。おおよそ、戦闘に向いているとは思えない。
交渉役か近戦ではなく、後中衛型なのかもしれない。
適当に放られたように見えてその実、正確に対象物を破壊した手並みは見事だった。
大きさはピンポン玉程度、だがそのサイズに似合わず、爆発の範囲を絞っているせいか、威力は高い。
身体に触れれば、簡単に穴くらい開きそうだった。
加えて、至近距離に来るまで全く気配を感じさせなかった事も、警戒を強める材料になりうる。
賀川ではないが、フィルもそれなりに耳は良い。
風を操る鳥を使役しているのだ。
人が動けば風が、空気が動く。
それを感じられない程、気を緩めていたつもりもない。
隠密系ーー、自身と同種かそれに類する、遠距離暗殺型の者だとアタリを付ける。
日本人形を思わせる前髪を揃えた髪型がよく似合う、可憐さをその身に纏った女。場所が場所でなければ一目では誰も、彼女が敵だとは思わないだろう。
先程、機械を爆破した手並みを見ていなければ、会えば必ず口説いている太陽同様、彼女を口説いていたかもしれない。
女を視界に捉えたまま。フィルが口を開く。
「んで、お前はこの建物を、処理しに来たってワケか?」
小型の爆弾を所持しているのだ。
ピンポン玉では到底建物を破壊するのは無理だろうが、フィルは先程この建物に爆薬が仕掛けられた形跡がある図面を、この目で見ている。
起爆する為のスイッチを、持っていてもおかしくはない。
「貴方は『レディフィルド』さんね。ちょっと彼の回りを調べたので……神殿関係ですってね。私は撫子です。データは見ちゃいましたね。もうすぐ解体予定ですの」
言いながら、まるで見せつけるかのように。その手から現れる、小さなリモコンが一つ。
指先をつっ……、とボタンに触れさせながら女、撫子は言葉を紡ぐ。
「これを押すと五分おきにブロックごとに爆破されるみたい。一回で爆破するにはこの建物頑丈で……。一番初めに爆破されるのは、この部屋なんですけれど」
撫子が告げた事を反芻しながら、〈やっぱりな〉と心の隅でフィルは思う。
侵入前、賀川にルーンを施したが〈何も関わりがない〉のに術があんなに簡単に、発動する訳がないのだ。
創詠・継承者を〈守る〉為にしか振るえない力。
創詠・継承者が関わっていなければ、フィルに扱えるのは長針を使った攻撃と、鳥を使役出来る術だけだ。
子供の見た目に関わらず、身体能力が高くずば抜けた格闘センスによって、複数人とやり合えるくらいの技術を身につけてはいるが。
生前の彼は髪が白く瞳が蒼いだけの、本当にただの少年で。
〈守護り〉になる前から気を操る事が出来たカルサムや、ルーンを扱えるチェーイールー、悪魔をその身に宿しているアプリ達とは、違う。
直接にしろ間接にしろ、〈創詠・継承者〉が関わっていなければ、フィルにはルーンの奇跡を起こす事も、〈シヴァ〉を喚び出す事すら出来ない(命を削る、というのならばまた話が変わってくるが)。
〈嵌められた枷〉によって、その名を呼ぶ事にすら、代償を支払わなければならない身の上なのだから。
目の前の女撫子は、彼の回りを調べたと言っていた。
彼、とは言うまでもなく賀川の事だろう。
その過程で何処の誰がーー、いや十中八九元老院の爺婆共か金髪女辺りだろうが(ラタリアは知られたくないと思っている為、当事者やそれに近しい者にしかその類の話はしない)、創詠・継承者の事が撫子の耳に入っている。
守り守られる者たちが、この世界に存在している。
その事実を目の前の女、撫子は〈知って〉いる。
それならば、〈守る為の力〉を振るうための〈制限〉は、無くなったと見ていいだろう。
「…………」
撫子を鋭く見やりながら、フィルは微かに口角を上げる。
向ける意識は周囲。書斎として使っている為か、普通の部屋に比べて窓は少ない。
それも、全て鉄格子が嵌まっている窓だ。
幾らフィルの身体が子供並みでも、流石に格子の幅では抜けられない。
〈力〉を使えば造作もないが、外で派手に暴れた後だ。
混乱に乗じて敵をすり抜け、アリスに少しでも早く辿り着きたい。
その為には、目の前の女をやり過ごす必要がある。
この場で〈力〉を使えないなら。
この部屋の出入り口は。
彼女の背後に一つだけ。
退路はない。
ならば、前に進むしかない。
スイッチを押されれば。
命がないのは自分だ。
隙のない女を見返すフィルが、そっと足に力を込めたその時。
「ねぇ貴方、バイトいたしません?」
まるで、世間話でもするかの様に。
撫子が、そんな言葉を紡ぎ落とした。
この女の真意は
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
賀川さん
悪魔で、天使ですから。inうろな町
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
リズちゃん
悪役企画より色々
お借りしております
継続お借り中です
お気付きの点等ありましたらお気軽に




