12/1 遭遇
ストックある分だけ上げます
桜月りま様の
12月1日『アリス奪還戦』とリンク♪
「悪りぃけどちょーっとの間、大人しく寝ててくれ、よっと!」
「!? ーーーー」
侵入後、フィルはこの非常時に単独行動していた巡回兵に、音もなく近付いて小部屋に引き込み。
一瞬で昏倒させると、そいつが着ていた服を躊躇なく頂戴した。
此方はこの冬の最中にずぶ濡れもいい所で、ルーンで瞬間的に乾かしたとはいえ、濡れた事にかわりはなく。濡れたままでは凍えてしまう可能性があった。
加えて、体温の低下による体力の消耗を避ける為、着替えは急務だったからだ。
まだ初戦を切り抜けただけに過ぎず、この先幾つの戦場を切り抜けなければならないのか、わからない。
少しでも体力を温存しておきたかった。
身丈がかなり違うが、しのごの言っていられない。
縛り上げ、袖と裾を折り曲げて着ても、まだぶかぶかである。
ため息を一つして、ターバンを巻くと。
昏倒させた男を簀巻きにし、適当に部屋に転がしておく。
暖房が付いているから、凍え死ぬ事はないだろう。
「さて、と」
周囲を見回しながら、廊下を歩くフィル。
大きな入り口を抜けた先は広々としたホールとなっていたようで、受付だったような場所や、壁に掛けられた館内図を見る事が出来た。
ざっと目を通し、めぼしい所を頭の中に叩き込む。ついでに、ブレーカーでも見つかればいいな、と思いながら。
ここは敵地。内部の把握をしておくに越した事はない。
知らない場所を闇雲に歩くのは、得策だとはいえない。
用心し過ぎるくらいが、丁度いいだろう。
「!」
廊下を曲がった先に聞こえてきた足音に、影に身を潜めてやり過ごしたり。伸して拘束し、空いている部屋に放りんだりしながら、先を行く。
元は病院か何かの施設だった、と言っていた通り、縄の代わりになるものはそこら辺に転がっていた。
ーーククッ
「お」
暫し歩いた所で、ブレーカーがある部屋を発見し、ニヤリとする。
ラッキーと思いながら、手早く電気が生きている箇所を調べ上げる。
実験室、処置室、館内プール……。無数にある小部屋のような場所は、患者か何かを収容しておく為の部屋だろう。
建物は三階建てで、電気系等は各階毎ではなく一箇所だけで、一括管理されているのは有り難い。
ブレーカーがある部屋の扉を隔てた隣の部屋には、ボイラー室があり配管が壁を這うように張り巡らされていて、電気だけではなく水やお湯もまだ生きている事に、フィルは訝しげに眉を寄せる。
メーターが動いている。それも、ちょっとやそっとの量じゃない。
「館内プールにでも、使ってんのか?」
呟きながら、思案する。
そういえば、機械人形の『アリス』は、水を得ると傷を修復して回復すると言っていた。
かなりのダメージを受けていたようだし、その修復に使っているのだろう。
本来なら摘発された住処からは、撤退するのがセオリーだ。
そこからアシが付く事もあるのだから。
話を聞くに、完全に裏の世界に生きているだろう者達にとって、追跡者ほどやっかいなモノはない。
自分達が侵入した事は、既に知られている。
先に出発した車があるようだが、意外にも守りが堅い事から考えると、迎え撃つ気なのだろう。
賀川を欲しがっているようだし、出来れば捕らえるつもりなのかも知れない。
という事は、その為の餌が必要なはずで。
その役を担えるのは今回のメンバーの内、一人しかいない。
ならば。
賀川の仲間であるアリスは、生きてまだ、この建物内にいる可能性が高い。
「ブロックが分かれてんのが面倒だな。すぐ合流出来そうにねーし……。ルドで二階に上がる方がいい、か?」
三階の屋上から侵入したリズ。表と裏の違いこそあれ、一階から侵入しているフィルと賀川。出来れば合流したい所だが、館内は意外と複雑で、同じ階にいても簡単に合流する事は無理そうだ。それなら三手に分かれて各々、一フロアずつ捜索した方がいいだろうと考える。
事前の打ち合わせでは、リズとフィルは上空から、賀川は地上から侵入するという事と。
建物に侵入して賀川の仲間である攫われたアリスを救うことを第一に、第二に機械の『アリス』より目を取り戻すという事に加えて。
自分の身や立場を最優先に、という事くらいしか決めていない。
予定が狂う事も範疇に入れてはいるが、時間を無駄にする訳にはいかない。
さっさと賀川と合流してアリスを救い出し、三人がかりで『アリス』をどうにかした方が早そうだとも考えるが。
今、誰も手を入れていない二階に、アリスがいる可能性もある。
二階を調べる事に決め、鳥笛を吹いてマメ鳥を数羽、建物の側に待機させておく。
部屋を出ると、先程みた館内図を頭の中に広げながら、フィルは階段がある方へと足を向ける。
あらかた先程の戦闘で倒したのか、それ以降敵の姿を見る事はなかった。
暫く廊下を進んだフィルは、『書斎』を思わせる部屋を見つけ。
目端に捉えた室内の状態につい、声がもれる。
「おーおー……こりゃまた、引っ越し前か夜逃げした後かぁ〜?」
床一面に散乱している無数の本に、畳まれたまま、また箱の状態で積み上げられた段ボールの数々。所々が歯抜けなジグソーパズル然とした本棚。
埃の積もり具合から、何かが置かれていたようだが、それが無くなっているのを見て取り。
「ちょっとばかし、調べてみっか」
書斎だと思しきそこに、足を踏み入れる。
一応、散乱している本を踏まないように室内を進む。ちらりと見やった一冊の本は何か、機械関連の書物らしく。渚なんかが喜びそうだな、と思うフィル。
室内に、他に人の気配は感じられない。
ディスクの側までたどり着き、静かに鎮座していた機械を立ち上げてみた所、まだデータが生きているようだ。
手早く操作し、ファイルを開いていく。
「…………」
覚えておいて損はないよ、と。既に逝ってしまった守護りの一人が、言っていた事を思い出す。
本来、そんな事をする必要はなかった筈なのに。
朝、きちんと起きる事。身支度をする事。食事を取る事。話す事。文字を書く事。夜、ベッドで眠る事。仕事の為の鳥の世話。様々な戦い方。力を繰り、術を行使する方法。見る事。聞く事。感じる事。楽しむ事。笑顔の作り方ーー……等々。
心に穴が空いて、止まっていた時間が、また動き始めたその時。
側に居てくれた守護り達が代わるがわる、色んな事を教えてくれた。
使わなければ、忘れてしまうような事もあるが。
触れていれば、覚えている身体が意図して動く。
聞き齧った程度だが、施設内に爆薬が仕掛けられた形跡がある事まで見取った時。
「っ!」
気配を感じて即座に飛び退く。
「あら、素早い白ねずみさん」
フィルの耳にしっとりとした女声が届いた時には、先程までフィルがいた場所は、綺麗に爆破された後だった。
出会ったのは
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
賀川さん
悪魔で、天使ですから。inうろな町
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
リズちゃん
悪役企画より色々
お借りしております
継続お借り中です
お気付きの点等ありましたらお気軽に




