12/1 侵入前4
ストックある分だけ上げます
桜月りま様の
12月1日『アリス奪還戦』とリンク♪
「ちっ、寄せすぎた!」
舌打ちしながら、ルドに回避行動を取らせ。
間髪いれず手を閃かせて、他の攻撃を牽制すべく長針を見舞う。
リズが居なくなった事で火炎の攻撃が止んだからか、手薄になったと踏んで巨大なホースの先がルドに向けられる。
強い水圧に押されて流されかけるが下は地雷の路ではなく、建物正面。
瞬時にルドを小型化させたフィルは、空中でくるりと落下の威力を殺すと、程よく舗装されたそこにスタンッと着地して走り出した。
一瞬、動揺した声が所々から上がる。
だが、それを払拭するかのように。
「一発、当ててあげなさい!」
フィルの耳に届く、長髪ロリっ娘、奈保の声。
先程リズが敵共を建物外に投げ飛ばしたのと同じく、水圧で押し流す気なんだろう。
しかし、そのテの訓練を受けた訳でもない者達に、巨大なホースを操るのは難しい。
数人がかりでなんとかホースを固定し、フィルの背を追うようにその先を向ける。
「ルドッ!」
敵共がホースを操るのに苦戦している内に、フィルが声を上げる。
フィルの意を汲んだルドがその身体を巨大化させると、ホースを『鷲掴み』一気に上昇した。
「…………え」
「うわっ!?」
「わああぁぁっ!!」
「ーーは、離せ!」
「手だ! 手を離すんだっ」
騒然となる周囲。
すぐにホースから手を離した者達は難を逃れたようだが、判断が遅れ、巨大な鷲の鉤爪にがっつりと掴まれたホースは、空高くに吊り下げられる形となり。
手を離しそびれた者達は、見上げるほどの高さまで、吊り上げられる羽目になった。
必死にホースにしがみついているが、耐え切れずに手を離し、落下していく者達がちらほらと出てくる。
屋上内に落下した者達は仲間に助けられたり、少々身体を打ち付けたりしたくらいで済んでいるようだが、運悪く地に落下してしまった者達の命の保障は出来ない。
燃え残っている草が、クッションにでもなっていればいいが。
ともあれ、死の恐怖に直面した者達は、戦力外と見ていいだろう。
ホースを壊さないよう、空中を旋回しているルドを撃ち落とそうとしている者もいるようだが、仲間が宙吊りになっている事から銃での迎撃をする事はなかった。
少しくらいは、仲間意識があるのかもしれない。
ルドに気を取られている間に、フィルは手近にいたヤツを手刀で昏倒させ、持っていた銃は手の届かない所に放っておく。
リズがまだ屋上で暴れているらしく、上がる声と銃声が聞こえる。
「行くのよ! 早く。相手は小さな子供じゃないのっ」
長髪ロリっ娘、奈保がフィルを指差し指示を出す。
「お前もじゃねー?」
つい、その見た目に引きずられて呟くが、ルドの鷲掴み攻撃から逃れた敵達が、奈保の指示を受けハッと我に返ると、勢い良く向かってきた。
それを迎撃するべく、駆け出し同じ速度で突っ込んでいくフィル。
一斉に上げられた声が、聴覚を満たす。
「るっせ〜よっ!」
数で押せばイケると、踏んでいるのだろう。
四方八方から向かってくる為、味方に当たる危険を避ける為か、銃は撃ってこない。
ニヤリ、フィルの口角が上がる。
蜂の巣にした方が、仕留めるのは容易い。
〈力〉を使っていないのだから、そっちの方が確実に殺傷率は上がる。
もしも、の時はすぐに引き出せる準備はしているが。
子供の見た目である事も、引き金を引く手を鈍らせているのかも知れない。
もしくは、捕らえて情報か何かを聞き出すつもりなのだろうか。
どちらでもいいが、向かってくるというのなら、と。
長針を逆手に握り、手を閃かせる。
「……ん? ぎゃっ!?」
拳を繰り出してきた者を、半歩早めに踏み込んでタイミングをずらし、腰を屈めすれ違い様に脇を狙いその腹に蹴りを入れる。
衝撃により後方に素っ飛んで行く男に代わり、飛びついて来た奴の顎に長針の柄を突き出したまま握っている拳を叩きこみ、昏倒した所を勢い良く背負い投げる。投げた奴の軌道上にいた者達が巻き添えを食らって、一緒に後倒しに折り重なる。
後続の者達も、いきなり出来た人垣にその場でたたらを踏んだ。
「こ、こいつっ!?」
「見た目に騙されるなっ」
「ただのガキじゃないぞっ!」
「押さえ込め!」
一瞬虚をつかれたものの、再びわっと集まってくる敵達に臆する事なく、フィルはニヤリとした笑みをその口に浮かべたままだ。
走りながら、長針を持った手を振り抜き引き戻して。痛覚を訴えるツボへと、正確に投てきしていく。
向かってきていた敵達は、針を突き立てられ苦悶の声を上げて痛みを訴え、道半端で地に這いつくばりのたうち回る。
身体に触れさせるまでもない。
距離がある内にあらかた針で仕留めようと、フィルがその小さな手を翻す。
そんな中確実に数を減らされ、倒れた仲間によって妨害される事に焦れた誰かが吠える。
「ちょこまかとっ!」
「文句があんなら、捕まえてみな」
フィルは笑ったまま安く挑発して、肉薄してきた者共を、するりと回避する。
全方向から縺れ既に混戦状態の為、同士討ちさせるのは簡単だ。
風を繰り、敵達の足音、呼吸、空を切る音を寸分違わず、研ぎ澄ました感覚と耳で捉える。
此方は子供体型なのに対して、襲い来る敵は大人のそれ。
同等の者ならば組み易いが、体格差があり過ぎ、敵側からすれば組みにくい相手。
その利を活かして踊るように、空に揺らめく蜃気楼のように、ゆらりとステップを踏み。
踏み込み、翻し。後退して跳躍し、回り込んで。
避け、躱し、流れるように攻撃を仕掛け、敵の戦力を削いでいく。
「ちっ! ーー使えないわね」
眼前で行われている、一向に終わらない乱闘に、業を煮やしたのか。
自ら散弾銃を手にし、スライドアクションを起こして排きょう、装填すると、そのまま眼前にピタリと照準を合わせる。
ふわり、軽くウェーブした髪を風に揺らし、冷たく囁く。
「殺れないなら、一緒に死になさいね」
「正気かよ……」
柔らかいが、冷たさを纏う声。浮かぶ穏やかな笑みはまるで、レクイエムに導く天使のようで。
慈悲の産物である天使のような見た目をしていながら、敵味方関係なく無慈悲に散弾銃を構える長髪ロリっ娘、奈保。
善の塊である天使こそ、むしろ残忍なのだとでも言いた気に。
「こっちだ!」
声を発し、ワザとに撃ち出す寸前の銃口を自身に引き付ける。
トリガーが引かれ、無差別発砲を始める瞬間、走る戦慄。
誰も、味方に銃口を向けられるとは、思ってもいなかったのだろう。
強張った表情が、周囲に波のように広がりきった、瞬間。
「きゃああああああああっ」
洪水が、奈保を襲う。
それはすぐ様周囲に広がり、その場にいた者達は皆、瞬く間に水流にのまれる。
フィルが引き付けたのは、奈保の銃口だけではなかったのだ。
ホースを鷲掴みにしたまま、空を漂っていたルド。
蛇口は閉められていない為、勢いを保ったままの水は、ホース内で強流となり。
フィルの声に反応して、溜まりに溜まった水をぶち撒けたのだった。
「サンキュー、ルド」
耳を占める水流の音と、上がる悲鳴を聞きながら。
自身に群がっていた敵共を振り払い、来てくれたルドの足に助けられ、難を逃れるフィル。
舞い上がった上空から、ダムの排出口から噴き出したかのような水が、山を下って行くのが見える。
勢いが収まる中、水圧に押し流されたらしい長髪ロリっ娘奈保は、岩と樹の間でどうやら気を失っているらしかった。
容赦のない奈保は、この先障害にしかならない。
トドメを刺そうかと。一瞬フィルは考えるが。
「…………」
気を失っている少女を、同じ目に合いながらも意識を失わなかった者達が、取り囲み見下ろしているのが見えた。
その表情は窺い知る事は出来なかったが、彼らはつい先程、その少女に敵諸共殺されかける、という体験をしている。
裏切り行為は、いつ如何なる時であれ、重罪だと決まっている。
悲惨な末路を、想像するに難くない。
何とか襲われる寸前に意識を取り戻した奈保が、走り出すのを目に捉えて。
未だ凄惨たる状態のその場所に、フィルはふわりと降り立つと。
転がっている者共に、反撃する意思がないのを確認して。
降り際、散々たる屋上をちらと確認した時には、動いている者はおらず、銃口を向けられる余力のある奴はいそうになかった。
あらかた、リズが片付けて行ったのだろう。
既に姿はなかった事から、もう建物内に侵入したんだなと考え。
濡れ髪を掻き上げると、
「水も滴る良い男ってかぁ〜。にしてもあーさむっ! 誰かの服、頂戴してから次行くとすっかぁ〜」
呟きながら、肩乗りサイズのルドを定位置に携え。
鼻歌交じりに、笛を吹きながら。
まるで、自分の家だとでも言うかの様に。
建物正面からフィルは堂々、その内部
へと入って行くのだった。
ロリッ子と戦闘
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
賀川さん
悪魔で、天使ですから。inうろな町
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
リズちゃん
悪役企画より色々
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