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12/1 選択肢はない

ストックある分だけ上げます


桜月りま様の

12月1日『アリス奪還戦』とリンク♪




 目的地に到着する間際。

 ルドの背に埋もれたままの賀川が、口を開く。


「五分くらいで歩ける所におろしてくれ」

「生きてたかぁ? どーせだから建物まで運ぶぜ?」


 歩けもしなさそーな賀川(ヤツ)に向かってそう言うが、否定的に首を振る。

 その様を見やってしゃーねーなと呟くと、木が疎らな茂みにルドを舞い降ろさせる。


 「〈Z〉 アルジズ」保護の効果は既に切れ、たまに無意識に呻きながら、死んだように羽根に埋もれていた賀川が体を起こし。

 次いで滑る様に、ルドの足元に崩れ落ちる。

 まともに着地すら出来ない、そんな状態でも行くと言う男に、半分呆れて言い放った。


「おいおい、そんなで歩けんのかよ?」

「ああ『調整』する。だから、ここでいい」


 自分の拳を膝に叩きつけ、やっとの事で立ち上がる賀川。

 ちゃんと戦える状態だとは、お世辞にも言えない。

 それでも平静を装う賀川を目に捉えながら、息を吐く。


(……何に、そんな『必死』なのかは知らねぇが。もしお前がここで倒れても、誰も文句は言わねぇだろーに)


 話の感じからして、今回攫われたアリスと賀川が守る巫女、雪姫との接点は無いに等しい。

 雪姫が攫われた時と同じ機械人形がいる事から、雪姫自体に手を出すのは難しいと踏んで、賀川の方に揺さぶりをかけに来たのだろう。

 機械人形のマスターだという男は、賀川や賀川の元恋人であったアリサに執着している。

 しかし、アリサは既に死しており、手に入らないと見るや、妹のアリスで手を打とうとしている事や、賀川の目や髪を欲している所をみるとそれは明白だ。

 出来れば、賀川(こいつ)にも大人しくしててもらいたいモンだとは思うが、無理なのは分かっている。


 守る者が増えれば、それだけ危険が増し、隙が生まれる。

 人一人の力など、たかが知れているのだから。


 だからこそ、自身の分を弁え、本当に大切な者だけに絞って。

 ーー他を切り捨ててくれれば。


 そうすれば、そんなに『必死』になって、自分を壊す事もないだろうに。



 そこまで考えて、苦笑する。

 攫われかけた(とも)の為に、戦場に身を投じられる心を持つこのお人好し(カガワ)に、他を切り捨てる(そんな)ことなど、無理な話だ。


「特別、褒賞もない仕事だ。でも来てくれるなら二人は上空から、後十分程したら向かってくれ。俺は地上から行く」

「私は……物欲しさに動いてるんじゃないっス」


 怒った様に告げるリズに、賀川は微かに笑い、


「ありがとう、でも良く考えて来てくれ。……目的は建物に侵入してアリスを救うことを第一に、二番目に機械の『アリス』より目を取り戻す事。ただ何より自分の身や立場を最優先に頼む」


 それだけを告げ、『来てくれたら嬉しい』と付け加えて。

 一人、有無を言わさず山の木々の間に消えていく。

 そんな賀川を先導するのは、奴を慕う一匹の小さな鳩、ラザ。

 ドリーシャと名付けられたのが余程嬉しかったらしい。

 付き添うように側を飛び、その頭の上に収まった。


 『すきなモノはスキ〜』、そう答えたラザの言葉を聞かせたら、一体どんな表情をするやら。

 考えただけで笑みが込み上げて、なんとか笑いを噛み殺しつつ、リズと共にその背中を見送る。


「……っかし、可っ愛くねぇの〜。ここまで引っ張って来たくせによ。素直に『来い』って、言やぁいーのに。なぁ?」


 賀川とは共に、戦場を駆け抜けた仲。

 有事の際『来い』と言えるくらいには、信頼されてると思ったんだが。

 賀川の昔の仲間、また元恋人であった者の妹。

 あいつの事だからそれだけでは、手を貸すに至らないと、思っているのかも知れない。

 だからこそ、言えない。

 間接でしか関わってない俺達には確かに、その通りだが。


「そうっス。『来てくれたら嬉しい』って、私達が来なくてもどうにかできるつもりっスかね?」


 リズは鼻でふんふんと息巻いたが、すぐ反省したようにシュンとして、


「でも恋人なんて持った事はない私にだって、恋人が自分のせいで死んだとか辛くって仕方ないのくらいわかるっス。その妹さんが目を……って、考えるだけで完全に鬱っスよ。そう言う現実を前に、気軽に『来い』って死地に誘える人なんていないと思うっス。考えた事もなかったっスけど、賀川さんの『臭い』は彼女の『死』を魂に刻み込んでいるからかもしれないっス……」


 そう言うリズの鼻は、賀川の何某かを捉える事が出来るらしい。

 アプリが「おっきいワンちゃん」と言っていたから、その辺によるものなのかもしれないが。


 今回、このうろなの地に来た時、俺様直々に手紙の返事として花を二本届けてやった。

 許しの証であるという、その花。


 『それは……『完璧ではないけど愛してる』って言う意味で、俺のせいで死んだ元彼女と……喧嘩した時に『許してあげる』と言ってくれた花……それと同じなんです』


 側にいた渉にそう説明したヤツの姿は、そんなに遠い日の事じゃない。

 黒曜の宝石から、決壊したかのように零した涙の結晶は美しく、綺麗だった……


「……『完璧ではないけど愛してる』って言ってくれた『(じぶん)のせいで死んだ元彼女』……かよ」


 死が二人を別っても。

 互いを想い合う心は、強い。

 手紙を書き、その返事が返って来た事からもそれは明らかで。

 生きていたならば、共に道を歩んでいたかもしれない。


 縁と縁は結ばれる。

 時に解け、千切れても。

 より集まって、また繋がり関わりを持つ。


 これもきっと、何かの縁だ。


 起こる具象に偶然はなく、そうなるというなら、それは最早必然。


 手紙の事も。

 雪姫の事も。

 アリスの今の状況も。

 賀川の死にかけ状態も。


 そこに、うっかり足を突っ込んでしまった、自分も。


 全て繋がった上で、引き起こされた事態ならーー。


 手助けしない、などという選択肢はない。


 汐を守る為と、先程力を使ったが。

 こじつけだけ、だとはどうしても思えなかった。


 親しい者のその目が抉られ、無機質な機械に嵌められた、など。

 考えただけで鳥肌が立つ。

 俺様が守るべき汐の、姉妹の誰かがそんな事をされたら、相手を何度、殺し尽くしても飽き足らない……置き換えればそう言う事だ。


 鳥肌モノのそれを、既に行使している者がいる。

 その手が汐に伸びる事はないと、どうして言い切る事が出来る?

 情報は、何処から漏れるか分からない。

 ここ最近は共にいる事が多かったから、記憶している者もいるかもしれない。

 賀川と汐に、接点がある事を。

 そしてーー雪姫と汐にも、接点があるのだという事を。


「ちっ、面倒な奴だなぁ〜カガワぁ……」


 色々を考え、つい呟きを落とし。

 リズから受け取ったスポーツ飲料を飲み終われば、約束の時間になっていた。


「フィル、行くッスよね?」

「ああ。行かねぇ訳にはいかねぇだろうが。俺様達が居ねぇと、なんも出来ねぇだろ。アイツ」

「っスよね!」


 行く事を決意した俺達に気付いたのか、ルドが甲高く嘶いた。



連鎖


うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話

http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/

賀川さん、雪姫ちゃん


悪魔で、天使ですから。inうろな町

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

リズちゃん


悪役企画より色々


お借りしております

継続お借り中です

お気付きの点等ありましたらお気軽に

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