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12/1 目的とするその場所へ

ストックある分だけ上げます


桜月りま様の

12月1日『アリス奪還戦』とリンク♪





「くるっく〜」


 そこに立っている事が、余程嬉しいのか。

 何やら言い合いをしているらしい二人の内、黒髪の男の頭の上へと、舞い降りていく豆鳥、ラザ。

 黒髪の男は、死にかけてると思われていた賀川で、その男の目の前にいるのは、いつぞやうろなの海でアプリと戦闘を共にした少女、堕天使のリズだった。


「ああ、もう、ドリーシャ。お前って奴は……」


 脱力したような声を出す賀川の頭上を、巨大な鳥影が通り過ぎ。

 賀川の側へと、相棒のルドを舞い降ろさせながら、いつものように飄々とフィルが言い放つ。


「意外に元気そうじゃねぇかよ、カガワ。ラザが『死にかけてる』なんてゆーから、わざわざ来てやったってのに」

「レディフィルド!」


 言って賀川は、ラザを乗せたままのその頭を抱えた。


「ああ……もう今日は自分やアリサに似たアンドロイドに三つ首の獣、それだけでお腹一杯なのに。人を乗せて飛ぶ鳥とかありえな…………」


 そこまで言って言葉を切ると、地面に崩折れるように膝を付いた賀川が、懇願するかのように叫ぶ。


「頼む! 俺を、連れて行って欲しい所があるんだ。その鳥に乗せてくれ!」


 鳥に乗って空を行くなど、非常識だと言っていた者の台詞とは、思えない。

 それが賀川の口から出た事に、フィルは青い瞳を見開き、手にした笛をクルリと回しながらニヤリ。


「乗せてくれ、ねぇ。お前がんな事言い出すなんざ、明日は槍でも降るんじゃね〜の? んで隣のポニテ女は、この前アプリと一緒にいたヤツ、かぁ?」


 言いながら、ラザの意識に潜っていた時は気付かなかった、リズの姿を捉えて付け足す。

 汐を取り戻す為に疾った空の上から、見下ろした時アプリと共にいた、その少女に間違いはなかった。

 トレードマークとでも言うべきポニテを、フィルはちゃんと記憶していたのだ。


「ポニテ女って私のことっスか? んで、アプ……そう言えばこのデカい鳥どっかで見たっス……」


 対するリズも、どうやらルドの事を覚えていたらしい。

 暗い夜の中、白い、それも巨大な鳥は嫌でも目に付くだろう。

 すると、二人のやり取りに焦れたのか、賀川がリズの手を取って。


「行かせてくれ。無理はしない……今は何より時間が惜しい……」

「何か知んねぇ〜けど、そいつが無理しねぇなんて、ありえねぇ〜けどなぁ? ま、いいぜ? 乗せてやる。ルド(こいつ)の使用料は高いけどな〜」


 真摯な目を向けてそう言う賀川に、口角を引き上げて、からかうようにフィルが告げる。

 勿論、賀川が睨んできている事など気にした風もなく。



 何か、「面倒くさい事」になっているのは、ラザの意識を見て知った。

 直に見て、見た目的にはどうやら槍で貫かれたらしい傷は、治っているようには見える。

 しかし破れた服、変色したズボンを見れば、夥しいまでの血が流れたのは言うまでもなく。

 それでも、賀川にとって大切な誰か、の為に行くというのだから、それを止める事はフィルには出来ない。


 その誰かはきっと、雪姫へと繋がっているのだと、分かるからだ。


 ただ……、と思考しかけたのを打ち切り、尚も渋るリズに、


「どーせ賀川(コイツ)の事だから、うろなに引きずってった所で、ベッドにおとなしく、なぁんて寝ちゃいねぇだろ〜よ?」


 一言そう告げて。

 黙った所を見計らって一先ず、二人を乗せて空に飛び立つ。




「もしかして俺を追って来てくれた? なら、さっき俺が居た廃れた建物の位置がわかるか?」

「くるっつ、くるっくぅ~」


 賀川の問いに、『任せて!』と嬉しげに答え。

 ラザが目的とするその場所へと、導くため先を行く。

 

「頭いい、な。ドリーシャ」

「ん〜。こんなもんだっての。ま、悪くねぇ方だろ。なんたって郵便配達人おれさまたち手足(モン)なワケだしな。何でお前を気に入ってんのか謎だけどなぁ」

「るっくぅ~」

「はぁ? 何だそりゃ?」


 何気なく賀川に返したフィルに、ラザが答える。

 好きなモノはスキ〜。そうストレートに答えるラザに苦笑するしかないフィル。


 ルドの背に乗り空を行きながら、平気そうな表情で賀川がこれまでの経緯を語る。

 どうやら、今回だけの事ではなく、先駆けの事態があったようだ。

 

 フィルは知らない事だが十月末週の日曜、天狗仮面と共にラザの案内の下、攫われた雪姫を賀川は助け出した。

 その時倒した、金剛という機械人形(アンドロイド)の様子を告げる。

 頭をすっ飛ばし、腕も片方折れたというのに、体だけで動いていたというのだから驚きだ。

 それも、腕だけが器用に指を使い、迫ってきたのだともいう。

 渚辺りが知ったら、喜んでバラしにいくだろう事が容易に想像できる内容だった。

 

 その日、ラッシュまで使って、徹底的に破壊した機械人形、金剛。

 しかし、その人形は再び賀川の目の前に現れた。

 まるで鏡かと思うほど、賀川とそっくりな見た目を与えられて。


 それだけでなく、今日空港に迎えに行く筈だった海外での仕事仲間である、アリスは攫われ。

 賀川が空港に行った時、出迎えてくれたのはアリスの姉、かつての恋人アリサの声と姿形を持つ、機械人形だった。


 攫われたアリスを助ける為、乗り込んだ車内。

 目的の場所を聞いた途端、悲痛な思いで拳を振るい。

 揉み合う中落下する車。

 爆発し上がる黒煙。

 下着姿なのを惜しげもなく晒し、本来機械には天敵であるはずの水によって、自己修復したその身体で。

 槍を持ち、逃げる賀川を追ってくる。

 昔、愛した女の声と姿を持つモノ。


 そんなものを相手に、冷静でいられる筈がない。

 躊躇わない訳がない。


 また間の悪い事に、人形とはいえ女を押し倒したその場面でリズと出会し、誤解を生み。

 躊躇なく貫かれる身体。

 運ばれた建物で、二体の機械人形のマスターであるスーツの男から出迎えを受けるが。

 会話は成立せず、賀川は開いた腹傷をかき回され、混乱しながらもリズはアリスと戦闘を繰り広げる。


 その後、なんとか賀川を奪取したリズは山を駆け。

 雪姫を慕う二人の者の力により、表面上傷を塞ぐ事は出来たが。

 それ故に攫われたアリスを助けに行くという賀川と、雪姫の為に賀川を医者に見せたいリズと口論になり。

 そこにラザの先導の下、やって来たのがフィルだったのだ。




「……っと、言う感じだ。見たのはアンドロイド二体と、指揮者だけだ。でもたぶん中にはそれなりに居ると思う」

「窓から逃げんのはムリって事か。ま、ともかく。カガワの知り合い、アリスってのを助けりゃいーんだな」


 元は病院だったと思われる、今は廃墟である建物。鉄格子で塞がれた窓。

 二体の機械人形に、マスター。

 攫われたアリス。

 掻い摘んで語られたそれらを聞きながら、どうやって助け出すか考えるフィル。


「できれば……それだけじゃなくアリスの目を奪い返したい……再移植して見えるようになるかはわからないけれど」

「機械ん中でも生きてんなら、使える可能性のが高いんじゃね。けどアンドロイドに目ぇ移植って、エグイ事すんなぁ……ま、それについちゃ、頭を奪えばいい、か?」

「だけど頭には記憶やらのチップがあるんじゃないかと思う。遠隔でそれを操作で爆破されても困るからそれもどうにか……後、目は低温で持ち帰りたい」

「条っ件、多いじゃねぇかよ〜。一端目ぇ摘出して保管してたんなら、入れとく容器があったんじゃねーの?」


 そこに付け足される条件に、嫌な気分になるが。

 現実的に考えて、言葉を告げていく。

 どれほどなのかはわからないが、時間は少ないと見ていいだろう。

 ならば、最短最善でいきたい。

 いるだけで辛そうな賀川(ヤツ)がいるんだ、もとより長期戦には向いていない。

 

 行ってみない事にはどれだけの者が居るかわからないが、ある程度の戦略は必要だろうと頭の中で構想しかけ。

 横目で捉えた賀川が、今にも死にそうな表情をしていたのが目に入って。

 

「そんな顔すんな」


 一応気合いを入れる為、その肩を叩く。

 すると開き直ったらしいリズが深い息を吐いてから、


「賀川さんを早くうろなやお医者に連れて行くには、ここを早く片付ければいいんス」


 なんとか己を納得させて、それまで黙っていた分を取り戻すかのように、言葉を紡ぐ。


「あのアリスってアンドロイド、自己修復能力を削ぐには熱を加えて水分を蒸発させればいいっス」

「自己修復機能付きってのに、簡単に言ってくれんなぁ〜。出来たとしてんな事すりゃあ、目まで煮えんぞ?」

「先に頭を捥いじゃえばいいんスよ」

「意外に……容赦ねぇな。ポニテ女」


 可愛らしい見た目に反して、容赦のないその口ぶりに驚くが、汐を追ったあの日、戦いがあったのは言うまでもなく。そのしなやかな肢体から場慣れしているのを読み取るフィル。


「ポ二……さっきから酷いっス! 私の名前は緋辺・A・エリザベスっス! リズって皆には呼ばれてるっスよ! 私は悪いと思ったやつは全力でぶっ潰すっス! レディフィルド君」


 ポニテ女、リズにニッコリと爽やかに笑顔を向けられ、なんともむず痒いモノを感じながら。

 心の中で笑っているらしい、賀川を睨んで告げる。


「君、だぁ? フィルでいいっつーの、リズ」

「じゃ、……問題はその後っスよ、フィル。遠隔で爆破とかされないためにどうしたら良いんっスかね?」

「金剛は頭がなくても動いていたから、体の方にも最低一枚は予備チップがあると思う。かなり粉微塵にしたのに残っていたみたいだ。手だけで自立して動いたし、頭がどこかにすっ飛んだから、そこから回収したのかも……」

「うーん。ともかく体と頭、最低でも二人は人が要るって事っスか?」


 頷く賀川に、考えるのは向いてないのか、腕組みしだしたリズに笑って。


「ま、どうにかなるんじゃねー?」


 告げると、ラザを笛音で呼び寄せて指示を出す。


 フィルが「名付け」た訳ではないが、賀川にドリーシャと、配達屋の中だけの呼び名で呼ばれていない時がある為か、仲間たちの間でラザのランクが一つ上がっている。

 それ故に三羽と数は少ないが、ラザ自身が指示を出せるモノが据えられていた。

 あまり周囲に、気取られるのはまずい。

 なら、少数で事に当たるしかないのだから、試運転も兼ねて使ってみるのに丁度良かった。


「ちょっとだけ休ませてくれ」

「か、賀川さん」

「大丈夫だ。今は体力を温存したい。それ、だけ……」


 そうこうしていると誰にともなく断って、ルドの白い羽毛にその身体を沈み込ませる賀川。

 心配するリズに言ったように、体力を温存したいのは本当だろう。

 平静を装っていたようだが、その表情や声から、疲弊し消耗しているだろう事は、モロバレだった。


 せめて、夢の中だけでも穏やかでいられるように、と。

 「ひいては汐を守る為」だと無理矢理こじ付けて。

 自分の耳と、賀川の胸に下がる夜輝石を媒介に、ごくごく僅かに「〈Z〉 アルジズ」保護のルーンをかけてやるフィル。

 目的地に着くまでの、僅かな間でしかないが。何もしないよりは少しはマジだろう、と思いながら。

 簡単に付与しているように見える(コレ)にすら、代償が支払われているとはいえ。

 今回の件の要は賀川(こいつ)なのだから、使いモノにならなければ意味はない。


「……はぁ。ほんっと、面倒なヤツだよなぁ、あきらちゃんはよーー」


 やれやれ、といった感じで。

 フィルは知らずと呟くと、その顔に微苦笑を浮かべるのだった。



既にズタボロの賀川さん、、、


うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話

http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/

賀川さん、アリス


悪魔で、天使ですから。inうろな町

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

リズちゃん


悪役企画から色々


お借りしております

継続お借り中です

お気付きの点等ありましたらお気軽に

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