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12/1 回想からの、緊急事態?

ストックある分だけ上げます


桜月りま様の

12月1日『アリス奪還戦』を暫く追います


昨日とはうって変わって、、、




 昨日の(わたる)(つかさ)の結婚式は、盛大に祝われ穏やかな賑わいの中幕を閉じた。

 危惧していた刺客の類は向けられる事なく、無事にその日を終えられた。

 その事に、そっとフィルは息を吐く。


 ホテル〈ブルー・スカイ〉の屋上。

 大量に干された洗濯物が風になびくのと同じに、自身の白髪を風に揺らしながら、手摺りの上に立って、目を閉じ柔らかに流れる風を感じる。

 そんなフィルの目蓋の裏に映るのは、探索と警戒に出している、己が使役する白き鳥達の情報(えいぞう)

 二度仕掛けて来て二度失敗している事から、暫くは安全だろうと踏んではいるものの。

 人だけでなく、多様な者達が集う場所であるこの「うろな町」では、何かと用心しておいた方がいいだろうと、調べに出した。


 自分たち内輪の事だけでなく、その他の要因により引き起こされる事態に、全く心当たりがない、という訳でもない。


 死者への手紙を届け返事を返し、こちらの事情に巻き込む形にはなったが、ニ夜に渡る戦場を共に駆け抜けた事。

 ここ最近は耳の訓練をしたり、あっちの事情を聞き齧ったりと、関わりは多く。

 何より、(うしお)自ら所在(ありか)の代より受け継がれている夜輝石を手渡した事に、何某かの縁が深い事を感じ取り。


 白髪赤瞳の少女雪姫(ゆき)を守る者、賀川の事をちらりと思うフィル。


 賀川と名乗る、賀川運送の一番賀川。

 本名を時貞(ときさだ) (あきら)という。

 TOKISADAの御曹司ではあるが、幼少時に攫われ、数奇な運命を辿っている。

 常は人畜無害な優男だが、成長期に闇を流れたが故か、その身に戦う術を持つ。

 一部、危うい所があるものの、長年培われたその技術は確かなもので。

 二度の戦場を駆け抜けたのは、まだ記憶に新しく。

 誰かを守る術を持ち、それを友の為に振るえる心の持ち主。

 ーー愛する者の為なら、それこそ厭わぬ程に。

 その血の繋がりも、全くの無関係ではないのだろう。

 高馬の言葉を借りるなら、巫女の分家筋、刀森である者の血を継ぎ、その身に火の神の加護を受ける者。

 火の神かぐつちは、水の神水羽の兄にあたる。


「……同質のモノは、時に惹かれ合う性質を持つ。質は違うが、〈狙われる者〉なのは一緒だかんなぁ」


 巫女である雪姫、創詠・継承者である汐。

 用途はどうあれ、その価値を利用されかねない、という点では同じ二人。


 宵乃宮(よいのみや) 雪姫。

 赤い瞳に、白の長髪。緩くふんわりとした見た目もさる事ながら。

 古くより連なる巫女の家系、その正統なる血筋。

 巫女、にして神。だが同時に贄であり人柱でもある者。

 その血の力が、森羅万象をも引き起こす。

 水の神水羽の庇護にあり、雨を降らせて大地に恵みをもたらし、また洪水を起こし生命を葬る事が出来る程。

 それも、数ある内の力の一欠片だろうが。

 その事は、そのテの者には知られている為、明らかに何らかの有事になり得る存在。

 自身に身を守る術はなく、また緩いその性格が、自らの希少性と価値を鈍らせ、危機感は皆無だろうという認識。

 何より巫女や如何にというよりは、賀川との事の方に、思考が割かれているようにも思う。


 賀川も賀川だから、仕方ねぇんだろーなぁ、と呟くが。

 非常に危うい存在だと、フィルは懸念を募らせる。


 何も知らず〈綺麗なまま〉で、いて欲しいと思うのは、守る者からすれば当然とも言える事だが。

 それは、自分が護る少女汐にも、当てはめる事が出来る。


 青空 汐。

 フィルが護る、創詠・継承者の少女。

 栗色のふわふわの髪、同じ色の瞳。

 汐の祖母、救済者である永遠の生き写しであるかのような、その容姿の為か。

 継いだその力は強いだろう、と言われている。

 幼少期の〈騒動〉が、汐の持つ力により、引き起こされたと思っている者達は、多い。

 〈七の七〉である継承者、様々なモノを視る眼を持つ者。

 ここ最近はそれだけでなく、自ら行使する術を、何処かから編み出したようで。

 賀川に〈導き〉を施したり、フィルの知らない所で、何かあっただろう事がその態度で知れていた。

 残念ながら、見張りにと付けていた豆鳥は役に立たず、元老院が付けている監視の目すら掻い潜っていた為に、何があったかは未だ判明していない。


 〈知らないまま〉でいる事。

 それが、戦う術を持たない汐の、自身と家族を守る為の、最大の武器。

 他家族に対しては、その守りはそれこそ堅牢な程。

 それは汐の身を盾に、というのと同意であるが。

 その〈約束〉がある限り、表立って事を起こす事は出来ない規則(ルール)

 しかし。


 〈何も知らない〉筈である汐は。

 ある意味で言えば、聡すぎる。


 一人でいる、という事はほぼ無いに等しく、常に誰かと共に居たがる。

 まるでそうする事が、最善である事を知っているかのように。

 護る側からすれば、非常に守りやすい存在。


 〈視る目〉を持つその力が、そうさせているのは間違いないだろう。

 用途を知らず、ただ、それが視えるのが汐には当たり前なのだから、止めろとは言い難い。息をするのが当たり前の人間(ものたち)に、息をするなと言えないのと同じに。


 一夜だけとはいえ、攫われかけるという、その体験を身をもってした事は、汐に何かのきっかけを与えてしまったのだろう、とフィルは思う。

 あの時、力で眠らせる事だって出来た筈なのに、そうしなかった事を今更ながらに後悔する。


 所在と共に消えた時の事は、たぶん覚えていないと思う。

 幼すぎる汐に、理解は出来なかった筈だ。

 〈その事〉が起こるべくして起こった事だと、直感しているのは〈当事者〉と〈守護り〉だけ。

 他の者達に幾ら言葉を並べても、理解を得るのは難しい。

 

 小さな歪み。しかしそれは着実に広がっていく。

 成長するにつれて、違和感が出てくる。

 事を公に出来ない分、家族が互いにケアするしか、道はない。

 その過程で僅かにでも、耳にしている可能性は高い。

 自身もそうだが、家族共々少々、いやかなり汐に甘い節がある。

 彼女がせがめば、断るのは至難の業だ。

 少しくらい、仔細を話していると見ていいだろう。


 加えて、〈視る〉事が出来るその力ーー。

 そこが全く作用していない、なんて事は有り得ないと考える。

 永遠様のように、その瞳で視、経験から得た知識を駆使して、困窮していた地域を救う、などと齢十歳となったばかりの汐に、出来るなどとは思ってはいないが。

 その容姿が、幼少期より備えているその力が、否応なく他の者達の期待値を底上げしているのは言うまでもないだろう。

 加えて自分達の出会いも、それに拍車を掛けているだろう事は、嫌でも思い知っている。


 フィルが今まで知っている中で、継承者の方が先に守護者を見つける、など前代未聞な事なのだから。

 生まれた時から〈視る〉事が出来る者は、確かにいる。

 しかし、様々なモノを視る事が出来るからなのか、はたまた自身を継承者だと認識する前に、守護りが継承者を見つけてしまう為か。

 継承者が守護りを守護りだと認識す(みえ)るのは、出会ったその瞬間なのだと言われているからだ。



 その日確かに、互いを引き合わせる為に所在と太陽(ひかり) 、そして三歳になったばかりの汐が神殿に来る事になってはいた。

 その時はまだ、汐の守護りは誰になるかわかっていなかったが、その時いた者達は皆、神殿に集まっていた筈で。

 フィルも勿論呼ばれていたが、なんとなくそんな(あう)気になれなくて、一人外に出ていた。

 カルサムとアプリ、ジョウイとラルヴァ、チェーイールーに、フィル。

 それらの者達と汐を引き合わせる為、ラタリアと話をしながら、部屋で待っていた筈だったのに。


 その部屋から、いつの間にか汐が消えていた。

 久々に訪れた為か、話に夢中になってしまっていたのだろう。

 汐がいなくなった事に、その時まで誰も気付きはしなかった。

 三歳児の足で、そんな遠くに行けるとも思えなかったため、皆で神殿内を探したが見つからず。

 その時には既に、汐は神殿の外に出ていたのだ。


 どうやって探り当てたのか、永遠やフィルがちょくちょく使っている、町まで最短でいける隠し通路。

 そこを通って来た汐は、出口となっている木の幹に出来た虚から、その下で惰眠を貪っていたフィルの上に落下して来た。


 キラキラしたその瞳を向けて。

 両手をこれでもかと広げて、とても嬉しそうに笑みながら。

 ぎょっとした表情をしているフィルの腕の中に、落ちてきたのだ。


「あっぶね……っ!」


 咄嗟に跳ね起き、その小さな体を抱き止める。

 会ったのは汐が生まれたばかりの頃で、その時はまだその幼児が汐だなんて、思ってはいなかった。

 自分と永遠、もしかしたらラタリアくらいは知っているだろう隠し通路から、見ず知らずの、しかも幼児が降って来た事に驚いているフィルを他所に。

 にこにこしたままの汐は、胸に飛び込んだままの状態で、フィルをきゅうと抱きしめて。


「しゃいちょのしとだぁ」

「……っ!?」


 確かに、そう、言ったのだ。

 〈最初の人〉だーー、と。



 この地一帯を救った永遠ですら、その事には気付かなかったというのに。



 ハッとして見上げた汐のその姿に。

 風に揺れる、ふわふわの栗色の髪に。

 向けられる栗色のその瞳に。

 見知った者、永遠の姿を重ね合わせて。


 この幼児が、自分の継承者だと、フィルは本能で理解する。

 同時に、初めて〈この世界〉に肯定されたのだと、身をもって知り。


「……いちゃいの? くゆしーの?」

「……っ」


 言われて初めて、その蒼の瞳から、涙が溢れていたんだと、フィルは自覚して。

 なんとも言えない想いと共に、隠すように。

 汐の小さな体を引き寄せ、抱き締める。


「らいりょーぶだよ、らいりょーぶ」


 そう繰り返えされながら、小さな手で頭を優しく撫でられて。

 溢れた涙は、止まる事を忘れたかのように、フィルの瞳から零れ続けたーー。



 暫くして。

 騒ぎになっている中、汐を連れて神殿に戻ったフィルを。

 一人出迎えたのは、穏やかな表情を向ける永遠で。

 永遠は、もしかしたら初めから、全てわかっていたかのように。

 栗色の髪を揺らして、柔らかに微笑んだのだった。



「るっくぅ!!」



 過去に浸っていた、フィルの意識を。

 ラザーー、賀川にドリーシャと名付けられた豆鳥の、警戒を示すその声が。

 現実へと引き戻した。

汐ちゃんとフィルくんの出会い


うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話

http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/

賀川さん、雪姫ちゃん



お借りしております

継続お借り中です

お気付きの点等ありましたらお気軽に

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