11/28 デート2回目(海と高馬くん)2
11月28日
言訳中です(海さんと)とリンクしてますー
子供達に惜しまれながら。
洞南園を後にする二人。
「あー汗かいたっ!」
うーん、と腕を伸ばしながら晴れ晴れ言う海に、にっこり笑って高馬。
「今日は皆と遊んでくれてありがとう」
「あんなに期待に満ちた目で見られたら、そりゃあ遊ぶってーの。子馬は砂場でおままごととか、遊戯室で読み聞かせとか、なんか楽そーなの選んでたみたいだけど〜?」
「そ、そんな事はないよ?」
「まーいーや! それより晩飯ぐらい奢ってくれるんだろ♪」
「あ、ごめん。今日はあんまり金がないんだよ。商店街に行ってコロッケかハンバーガーとかの買い食いで許してくれないかな?」
すまなさそうに呟く高馬に、気を利かせる海だが。
「んじゃ、特別にこの海ちゃんがおごってやるか。何食いたい?」
「え」
「あたしのおごりじゃ食べられないって~の?」
「そんな事は……」
「じゃ、何なんだよ?」
「えっと……」
歯切れの悪い高馬に、訝しむような視線を向ける。
高馬は強引に来るくせに、逆に強引に出られると引け腰になるのか? などという考えは海にはないが。
感がいい所為か、違和感を感じた時の映像が鮮明に脳裏を過り。
「お前! 服脱げよ」
「え? それって何か、期待していいのかな?」
「ばっ、ち、ちっげぇよっ! はぐらかすなっ、右腕っ! 子馬、右腕上げてみろ!」
逃げる隙を与えず、側のベンチに投げ込むように座らせると、高馬の右手を握り、海は思い切り持ち上げる。
呻く事はしなかったが、顰められたその顔が、痛みを堪えているのは明白だった。
かぁっと頭に血が昇って、早口でまくし立てる。
「お前、見せろっ!」
「いや、わかったから。どこでも食事に付き合うから。勘弁して」
「食事しようにも、箸持てないんだろ? だから手で持てる物にしたかったんだろ? 見せてみろって」
「ね、やめとこうよ、海さん。気持ちのいいもんじゃないよ」
「何だよ、あたしがそんな怖がりだとか、怯えるとか考えてんのかっ!」
「そんなに怒らないで海さん」
「怒らせてんのは誰だよ!」
「怒らせてないよ、ただ……」
「なあ。何で子馬の腕、上がらない? 何があった? あんな硬い球が当たっても平気なのに、ココ、どうなってんだよ?」
「すぐ治るんだよ、すぐ! あ……」
「………………怪我してんだ」
沈黙が、降りる。
海は知らずと拳を握りしめた。
今日、会った時から。
何となく、違和感はあった。
いつもの強引さに流されて、その時は気付けなかった。
高馬の利き手は右なのに。
引っ張って連れて行った時も。
園の子達に紹介した時も。
扉を閉めた時も。
全部。
ーー逆手だったのに。
決定的だったのは、子供を硬球から庇った時。
図体がデカい割に、身のこなしは良い。
そんな高馬が飛んできた球を、手で掴めないなんて筈、ないのに。
「あたしには、言えないんだ……」
違う。
こんな事がいいたいんじゃない、と思う。
「………………」
「へぇ〜、ふぅん、ほぉ〜? べっつにぃ〜。いいよ、あたしはアンタの事、好きじゃないしっ」
しかし。
気付けなかった自分が悪いのに。
大事な事を聞かされなかった事に。
悔しさが込み上げて、言葉が止まらない。
「ぅ………………」
駄目だ。
このままここに居たら、もっと酷い事を言ってしまいそうだ。
好きだなんだと、強引に誘って来るくせに。
肝心な事は教えてもらえず、知らずに無理をさせている。
そんな風に隠されても、ちっとも嬉しくはない。
ーー自分を大事にしないヤツは、嫌いだ。
それは海の感覚で、公暗なんて所に身を置く高馬は、そう思っていないだろう。
だから、これ以上嫌な思いをしない為、させない為。
海はその場を去ろうとするが。
「待って、見せるから」
そう言って、高馬は右腕を服から抜くと、怪我を見せた。
息を飲む。
右腕は血の滲んだ包帯で巻かれていて、その腕は。
色が変色して、酷い状態なのは言うまでもなかった。
「何だよ、コレ……あ」
「昨日、仕事でヘマしてね。刺された」
「ただ刺されただけで、こんなに色が変わるかっ」
「……毒が塗ってあったんだ」
「刃物に毒って……そんなゲームじゃないんだから……ニュースになるはずだろっ」
「事件にはならないよ。特殊二課の件だからね」
「で、捕まえたのか? 犯人」
「捕まえた、っていうか、保護出来たよ。俺を傷つけたのは驚いただけで悪意はなかったんだ」
「お前、どんな仕事してるんだよ……」
暫く逡巡していたが。
何かを発動させた高馬が、海を隣に座らせて語り始める。
勿論、他言無用との条件で。
「俺の家、土御門は昔から国や組織の暗部を支える一族の一つなんだ。陰陽鬼道に端を発した不思議な力を代々持っている。そして俺の所属する、警視庁公暗部特殊二課は一般市民でも特殊能力故に、犯罪に巻き込まれる可能性のある善良な市民を守る事が目的なんだ」
「ふしぎな、ちから?」
「そう、君の友達の『ユキっち』は本人の意思はなくても、その力が悪用されかねないから警護に来た、ああ、この辺は聞いたよね?」
賀川の訓練で前田家に行っていた時の話をしているんだと気付いて、頷く。
「俺達は警察や政府に手を貸す事で、特殊な自分自身も守っているんだ。存在意義があるから俺達は排除されない。今回は巫女の警護のついでに、この辺りの『夜』の治安維持協力、報告などが職務に含まれていて。今回、ある事件に巻き込まれて、隠れ住んでいたヒトを見付けて接触したんだけど……」
「警戒されて、そんな怪我をしたって事か」
「ははは……そんな所……」
怪我をしたなんて、恥ずかしくて言えなかったなどという事は言わず、曖昧に笑う。
「毒消しは飲んだし、明日には治るよ。丈夫さが取り柄なんだ、鬼の血を引くなんて言われているほどだよ」
そういう、問題じゃないだろ!
治りが早いから?
身体が丈夫なのが取り柄だから?
人だけでなく鬼の血を引いてるから?
だからって!
痛いものは痛いし、怖いものは怖いんだよ!
どんなに強くたって。
身体だけじゃなく、心も傷付く。
相手も。
勿論、高馬も。
言ってしまいそうになるのを、必死に抑えて。
「もっと、自分の身体を大事にしろっ! デートとか言ってる場合じゃないだろっ」
「だから……今日は仕事を手伝ってくれて助かったんだよ。海さんが居ないまま、あそこに行ったら無理でも野球とかしてただろうから……あの子達に誘われたら俺、断れないよ」
「頼ってくれたって事か?」
「ごめんね、怒った? でもどうしても急ぎの案件だったし」
「ああ、怒ったさ! 初めに怪我してる事くらいちゃんと、話してくれればいいのに。……いや、本当は、今のも話せない内容なんだろうなって事くらい、わかるけど」
「危険な事に首を突っ込む事が仕事だから」
危険な仕事に首を突っ込むのが一族の役目。
確かに、ただの人でしかない者に、解決出来ない事なんて、山のようにあるんだろう。
不思議な力を持つ、と言い切るくらいなら。
妹の事なのに、手を出せない領域が、あるのを知っているから。
一つ、息を吐く。
とりあえず意識を切り替える。
考えるのは、海の領分ではない。
身体と心のおもむくままにしか、行動は出来ない。
とりあえず今。
必要なのは。
電話をかけて、海は個室を予約する。
「美味しい鶏を仕入れてやってる水炊き屋に行こう! あれなら体にいいハズだ。栄養付ければ傷も治るさ」
「え? でも俺、箸が……」
「雑炊ならスプーンで行けるし、鳥のから揚げとかなら手でも食えるだろ? それに個室予約したから。鍋の骨付き肉や野菜、おすすめのほろほろ煮は、あたしが……箸で食わしてやるよ!」
言ってさっさとお店に行こうとする海の背中に、声。
「え? あーん……してくれるって事?」
「…………っ」
「水炊きは熱いから、フウフウもしてくれるかな?」
「ちょ、調子に乗んなっ! それくらい自分でやれっての! ほらっ、もたもたしてっと置いてくぞっ」
小っ恥ずかしい事を言うヤツなんて、置いていこうかと思ったが。
高馬がいないとわざわざ店を予約した意味がないから。
いつもとは逆に。
海は座ったまま呆けている高馬を引きずって、店まで歩いて行くのだった。
高馬くんを心配する海
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
高馬くん
お借りしてます
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