11/26 訓練最終日4
桜月様宅、11月26日交渉中です(謎の配達人)とリンクしてます
「それにしてもストーカーとは心外だよぉ。この浜の者でARIKAの娘と聞いて知らない者はいなかったし。ああ、お店のあった夏に来ればよかったと何度後悔したか」
「やっぱ、聞き込みしたんかよ、子馬……海の事本気なのかぁ?」
「ああ。少しでも俺の事を気にしてくれていると良いなぁと思ってるんだけど……今日は海さんいないのか、残念だよぉ」
フィルが凄く、悪い顔して笑ってる。
海お姉ちゃんと一緒で、面白いモノを見る時の目だ。
汐だって、何がどうなってそうなったのか分からなかったから、驚いたけど。
海お姉ちゃんが好きって思ってるのは、分かるから。
「海お姉ちゃんならホテルに居るよ?」
「こないだ送って行った時に見たけど、素晴らしいホテルのようだったなぁ。やっぱりあんなところに住めると良いだろうって思うよ。カプセルホテルは俺には狭い」
「ええ?! それって入れるの?」
すっごく大っきい子馬お兄ちゃん。
一人でも狭いって、出張に行ってた滸お兄ちゃんが言ってたくらいだから、滸お兄ちゃんより何倍も大っきい子馬お兄ちゃんが、カプセルホテルに泊まってる事に驚くと、子馬お兄ちゃんは笑って『ちょっとはみ出てるかな』って言ってる。
ちょっと……、なのかなぁ??
「カプセルなんか、何で。公務員ならもっと良い所に……」
「それなんか良い方。路上に段ボールって日もあるんだ。体が伸ばせる点ではそっちが良いけれど」
「普段は何やってるんだぁ? 子馬は?」
「今は……日雇い労働者に紛れている。路上で寝るなんて普通だよ。そう言う所で不自由している『ヒト』に声をかけてる。そう言う自由を気に入ってる『ヒト』も多いけれども。あんまり口外はしないでくれ、紛れる事に意味があるからさ。とにかくこれで賀川は音から身を守れるようでよかったよ」
「ん? 一応は良いけどなぁ」
暫く三人で話してたみたいだったのに。
音の話題が出たからか、フィルが唐突に笛を吹く。
それを顔を顰めながら、なんとか堪えてる賀川のお兄ちゃん。
倒れたり、とかはしなかったから少し、調子は戻って来たのかな?
でも……やっぱりまだ、フィルの笛音を聞かされるのは、嫌みたいで。
「ま〜ぁ。ここからしっかり、身に付けてくんだな。カガワッ。間違いなく、タイミングはもう掴めてる。だがまだ、一回の防音でか〜なり体力使うみてぇだから、体調には気ぃつけろよ〜?」
「だからもう疲れていたあの日は一度しか成功せず、今日も体調が戻った途端に出来たって事だよな……?」
鳥笛の音に、鳥さん達が、行ったり来たりしてる。
たぶん、大っきい子馬お兄ちゃんが、怖いのかも。
いつものメンバーだけじゃないから、警戒してるのもあるんだと思う。
小型の動物は、防衛本能が強いから。
何でかは分からないけど、汐に寄ってくる鳥さん達がこないから、たぶんそう。
とりあえず、四散させる為の音をフィルが吹いて、鳥さん達が各々飛び立って行ったのを見送ってから、フィルが鳥笛から口を離して、
「基本はな? でも、それだけじゃねぇ~だろ? 子馬ぁ~???」
〈添木〉をくるりとさせながら、ニンヤリと笑う。子馬お兄ちゃんは溜息をついて、頭をガリガリと掻くと、
「寿々樹兄に仕込んでもらったんだけど、まさか君が気付くとは思わなかったよ」
「な?」
「正確にゃ、俺様じゃあなくルドとラザが、教えてくれたんだがな?」
所々、焦げてる添木を、賀川のお兄ちゃんに向けるフィル。
「おっ前、コイツ仕込まれてたんに、気ぃ付かなかったのかぁ?」
「……徐々に気力を奪って行くくらいしか出来ないんだけれども、『呪い』の御札を巻いておいたんだよ。見破られたんで焼けちゃったけどね」
「おま……それも寿々樹兄って……」
「俺、五歳までは裾野の家が俺の自宅だったんだ。八雲先生もその親戚の寿々樹兄も、賀川以上に知り合いに決まってるだろう?」
汐は知らないけど。
賀川のお兄ちゃんの怪我を見てくれている八雲医院のお医者さんの一人に、頭がリーゼントの寿々樹ってお兄ちゃんがいるんだって。
アプリちゃんは、面識があるみたい。
賀川のお兄ちゃんが怪我の経過を見せに行くのを見つけて、そこで知り合ったんだって。
子馬お兄ちゃんも知ってるなんて、すごい偶然だよね。
「こんな事をやるのは最初で最後だけど、思ったよりテキメンだったなぁ。この系統の守りは俺かやっぱり香取の小父貴だね」
お兄ちゃんの腕に添えられていた木には、〈良くないモノ〉がかけられてた。
お呪いとか、奇跡とか。
賀川のお兄ちゃんは、あまり信じていないみたいだから、妙な感じみたいだけど。
自分だけじゃどうしようも出来ないモノがあるんだって、理解して顔を引き締める。
そんな賀川のお兄ちゃんを見て、フィルがにやっと笑う。
「やあっと、イ〜イ顔になりやがったなぁ、カガワぁ〜? ま、俺っ様のおかげだぁなぁ〜♪」
「っ……ってぇーよ! レディフィルド!」
思いっきりフィルの手が、怪我してる方の肩を叩く。痛みに声を上げるお兄ちゃんだけど、いつもの応酬が始まったのに安心して。笑みが溢れる。
ドリーシャを柔らかに見つめてたお兄ちゃんが、子馬お兄ちゃんに視線を投げて。
真剣な表情で、宣言する。
「音に対する耐性はどうにか上げて行く。その点は問題ない。左の負傷も何かを殴るくらいには問題ない。だから子馬、このうろなで、頼む。そしてユキさんを守る時は協力してほしい。それも今回お前が仕掛けたような『根拠のない攻撃』は俺達じゃ防げない、ユキさんにそんな攻撃が向かない様に、ぜひとも、頼む」
不可思議な力に。
対応出来ないと思っている賀川のお兄ちゃんは、協力を得る為、言って子馬お兄ちゃんに頭を下げた。
「そんなに深々頭下げなくても、巫女の警護それは一応任務には入っているし、水羽様からお声もいただいたし……俺的にはうろなに居られれば良いんだよ、うん」
「そうだな、ココには海さんもいるから。ユキさんが居れば、うろなに来る理由になるんだろ?」
賀川のお兄ちゃんの言葉に、子馬お兄ちゃんが頬を赤くする。
本当に、海お姉ちゃんの事好きなんだ。
「ね、汐ちゃん。電話で頼んだ物、くれる?」
「これ?」
汐の前にしゃがんだ賀川のお兄ちゃんが、「約束のもの」の事を告げる。
それにポシェットの中から封筒を取り出して、差し出しながら訊ねる。
「えーっとぉ、確かにね、汐、お願い事聞くって言ったけど。これでユキお姉ちゃんの為になるの?」
「うん。ありがとうね。ほい、子馬!」
汐が渡した封筒を、賀川のお兄ちゃんは子馬お兄ちゃんに渡す。
不思議そうな顔をしながら、封筒を開けた子馬お兄ちゃんが。
固まった。
その隙を逃さず、子馬お兄ちゃんの手から一枚抜き取ったフィルが、
「これ、海の……」
「賀川のお兄ちゃんに、海お姉ちゃんらしいの選んで、って言われたから……」
呟いて、汐の説明にへぇ〜っと、面白そうな顔をする。
封筒に入ってるのは、海お姉ちゃんの写真。仕事してる時のとか、家族でいる時のとか。あとは、悪戯中の所とか、汐じゃ殆んど見れないけど、ソファーでうたた寝してる所とか。……渚お姉ちゃんがチョイスした、「レア物」も入ってたと思う。
こんな事に使うとは思ってなかったから、驚いたけど。
「それ、あげるから。ユキさんの事、頼むな子馬」
「ああ、……うん」
なんていうか。
雪姫お姉ちゃんも賀川のお兄ちゃんも、なんか大変そうだから。
手を貸してくれる味方が、仲間が増えるのはきっと、良い事だと思うから。
子馬お兄ちゃんの協力を得られた事を確認したお兄ちゃんに、
「ま、これで俺様が鍛えてやった訓練は、終わったとみて良いと思うが……おめぇ、忘れてねぇよなぁ?」
「あ? ……ああ」
訓練をした事の見返りをにんやり悪戯に笑って、賀川のお兄ちゃんに要求するフィルがいた。
やっと訓練終わった感じですが…
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
高馬くん、賀川さん、雪姫ちゃん
お借りしてます
お気付きの点等ありましたら、お気軽に




