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11/26 訓練最終日3

桜月様宅、11月26日夢見中です(月姫)・追求中です(謎の配達人)とリンクしてますー







 視てはいけないモノを、視てしまったような気がする。


 ヒラリ、飛び交うのは蝶。

 雪姫お姉ちゃん似の誰か。

 その人は赤い紅い刀で自らの首を断ち、滝に吸い込まれていくかのように、その身を投げ出した。


 これはーー

 お兄ちゃんが見てる「夢」だ。


 お兄ちゃんの身体を巡る〈キラキラ〉が、視せてくれた過去。

 そう思った時、お兄ちゃんをちゃんと眠らせる為に、フィルが笛を吹いたんだって気付いた。


 嬉しさと、怖さ。

 視てしまったモノへの罪悪感が、チクリと胸を刺す。


 溢れる涙は止められず、規則正しい呼吸を繰り返し、眠るお兄ちゃんを覗き込んだら。


 教えるように夜輝石が煌めいて。

 お兄ちゃんの目蓋が震えて、その黒の瞳と目が合った。

 でも、体調が良くないから、懸念する事はたくさんあって。


「よかった、フィルの笛で死んじゃったかと思ったの」

「だからほっときゃいいって言ったろ?」


 フィルの悪戯な声が届いたのか、賀川のお兄ちゃんが勢い良く起き上がる。

 身体に被せた『超軽量ほごーんシート』を跳ね飛ばしながら、


「ただ眠らせただけなんだから」

「死ぬかと思ったろーが」


 ニヤリと笑って告げたフィルの胸元を掴むと、ガクガクと揺する。

 それでもフィルはしたり顔で、肩に止まってるルドが、お兄ちゃんの額を狙う。

 それに気付いたお兄ちゃんは、そこから素早く飛び退って。

 パサリ、頭に降って来たフィルのマメ鳥、ドリーシャを手に止らせて。


「眠らせた?」


 フィルに問い返すお兄ちゃんに、必要だから用意しといてやれ、ってフィルに言われたものを差し出す。


「ほら、暖かいから飲んで? フィルが何も食べてないんじゃないかって」


 『ほごーん食料セット(超簡単:あたため機能付き)』の、スープとリゾット。災害時や衛生面を考慮された作りになっていて、吸い上げて食べるタイプの非常食パック。スプーンとかはいらなくてすごく便利。

 種類は他にもカレーとか、色々あるんだって。

 一〜四人用、三日分、五日分とか、個人から多数を想定したラインナップ。


(あみ)お姉ちゃんの特製だから美味しいでしょ?」


 食材セットの中身は、彼方おじちゃんと海お姉ちゃんが案を出し合って決めたもの。

 作ったのは勿論お姉ちゃんだけど。

 こういうのも作っておくといい経験になる、って彼方おじちゃんに薦められたんだって。


 なんとか落ち着いたみたいで、ほっとする。

 それからふと、気付いたようにお兄ちゃんが呟く。


「そうか、俺、ずっと吐いて、食べてなかった……か?」

「それもカガワァ~、殆ど寝てねぇ~んじゃないか?」

「いや、そんな事は……」

「んにゃ、自分はちゃんと寝たつもりでも、ずっと神経とがらせてたんじゃ、どんなに鍛えてる体でも、ダメになっちまって当然だ」


 汐が手渡したチョコを口に放り込みながら、フィルが続ける。


「いずれどんなに疲れてても、やんなきゃなんねー時もあんだろうが。まだ身についてねぇ特殊な防音(ワザ)をやろうってんだ。睡眠不足に食欲不振状態で、さらに追い打ちかけて音を聞いてたんじゃ、逆効果にも程があんだろ?」

「俺が出来なくなった理由って……」


 睡眠不足と食欲不信。

 それじゃ、倒れちゃっても仕方ないと思う。


 でも。

 不調なのが分からない程、無理をしてたのに気付かなかったなんて。


 お兄ちゃん……

 本当に。

 大丈夫、なのかな?


「…………」


 思案顔の、お兄ちゃんをじっと視る。

 お兄ちゃんから視えるそれは。

 色々な〈キラキラ〉が入り混じっていて。

 フィルがそうするまで、わからなかったけど。


 変な錠がかかって視えた。

 冷たい片腕に添えられた木が、ぐるぐるしてる。


「で、今はどうだ?」

「ああ? そう言えばすごくいい」


 ニヤリとフィルが尋ねると、『ほごーん水分セット』に入っていたスポーツドリンクを飲み切ったお兄ちゃんが、不思議そうに呟く。

 死んじゃうかと思ったその音は、賀川のお兄ちゃんに、しっかりとした休息を与えたみたいで。


「一歩間違うと安楽死なんだけどな」

「おまっ……」


 でも、フィルがなんて事ない感じでサラっと凄い事を言ったから、お兄ちゃんがフィルの胸元を掴んだその時。


 〈鋭利なキラキラ〉が、視界を横切る。


「えっ?」


 フィルの笛の〈キラキラ〉じゃない。

 もっと、洗礼された、攻撃(それ)だけに特化したような〈モノ〉。


 明らかに、お兄ちゃんを狙ったものだって思って。

 慌ててお兄ちゃんを見上げると。

 ちゃんと防音出来てるみたいで、でも。

 顔を顰めながら、堪えているのが見えた。

 そうして、背後を振り返る。


「形になったようだ、よかったよかった」

「あ、でっかい子馬じゃねぇ~かよ!」

「え? お馬さん? フィル? 何処にお馬さんが居るの? 大きなお兄さんが居るだけだよぅ」


 知らない声がかけられて、びっくりするけど。

 フィルがこうま、って言うから、お馬さんがいるのかと思ったんだけど。

 お兄ちゃんの背後から見なくても、すごく大きな身体の人がいるのが見えた。


「だからアレが『子馬』だってぇ~の」

「ええっ」

「オジサンって言わないんだ、良い子だね。海さんの妹さん……確か汐ちゃんかな?」


 フィルに教えられて驚く汐に、子馬って呼ばれたお兄ちゃんは、にっこり笑って。

 海お姉ちゃんと、汐の名を口にする。

 初めて会ったハズなのに、汐の名前を知ってる事にドキリとする。

 ちょっとだけ、声に力を込める。


「お兄さん、誰なの?」

「これは失礼したね、公安警察の者で土御門 高馬、高い馬って書いてこうまって読むんだけど。子馬って呼んでくれたらうれしいな。青空 汐ちゃん」

「どうして汐の名前知ってるの?」

「だって可愛い海さんの妹さんだからね、知っておくのが普通だよ」


 …………?

 可愛い海さん、って、聞こえたよね?

 お姉ちゃんの知ってる人?

 でも、なんか。

 子馬お兄ちゃんの〈キラキラ〉、海お姉ちゃんの所で、すっごく鮮やかに輝いて視えた。


 もしかして。

 海お姉ちゃんの事、好きなのかな……?


「それって職権乱用のストーカーじゃ……それよりその『耳障りだろう音』を切ってくれないか、子馬」

「ああ、済まない。うっかりしていたよ」


 汐が考えてたら。

 賀川のお兄ちゃんが、音を切るようお願いする。

 すると銀色の小さい小箱の更に小さいボタンを、その大きい指で器用に押して。

 ずっと汐達の周りを飛び回ってた、〈鋭利なキラキラ〉が視えなくなった。

ストーカーはやばいですよ?


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん、高馬くん、雪姫ちゃんお名前、そして誰か


お借りしてます

お気付きの点等ありましたら、お気軽に

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