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11/26 訓練最終日1

桜月様宅、11月26日 不調中です(謎の配達人)とリンクしてます







 今日は、賀川のお兄ちゃんとの訓練最終日なんだって。

 だから、って訳じゃないけど。

 体調があまり良くなくて、学校を休みがちな(うしお)は、前回と同様に見学兼救護員としてフィルと一緒に浜に来てた。

 お兄ちゃんが心配なのもあって。それに、


 『お願い』されたものを渡したかったし、一つだけ、試してみたい事があったから。


 フィルは駄目って、言うと思う。

 だから、終わるまでは言えないんだけど。


「…………?」


 〈モヤモヤのキラキラ〉を振り撒きながら、賀川運送の車が汐達の側に止まる。

 フィルの笛の〈キラキラ〉よりは柔らかい感じだけど、ギザギザしてるそれは、あまり良いものじゃ無さそう。

 色も暗めの色をしているみたいだから。


 それに、なんだかお兄ちゃん自身も、元気が無さそうに見える。

 車から降りたお兄ちゃんは、こっちに向かって普通に歩いて来てるみたい、だけど。

 いつもの〈キラキラ〉じゃない気がして首を傾げた時、挨拶するようにお兄ちゃんが片手を上げたと思った瞬間。

 フィルの笛の〈ガビガビのキラキラ〉が見えてーー……


 お兄ちゃんが、そのまま倒れる。


「ーーお兄ちゃんっ!?」


 いきなりでびっくりしたけど、お兄ちゃんが完全に砂地に倒れる前に受け止めた、フィルの素早さにも驚きながら。お兄ちゃんの下へと急ぐ。

 勿論、渚お姉ちゃんが持たせてくれた、お姉ちゃんの発明品、『超安心:保護ほごーんセット』を持って。


 傍に行ってすぐ、脈がない、と。

 賀川のお兄ちゃんの胸に耳をくっつけたまま、そう零したフィルにドキリとする。


 どうして、なんで、なんで!?

 お兄ちゃん、どうしちゃったの??


 無理はしないって「約束」したのに!

 それに、まぐれだったけど、一回遮断出来たんだって、フィルが言ってたのにっ


 滲む視界と、震える指が、口を切る手を鈍らせる。

 それでもなんとか開いて。

 『超安心:保護ほごーんセット』の中から『ほごーんAED』を取り出してる間に、フィルがお兄ちゃんの服を剥ぐ。

『ほごーんAED』の力を借りて、心臓マッサージを施して。

一瞬躊躇ったけど、フィルは軌道を確保すると、休憩用に持ってきてたお茶で口を濯いでから、空気を送り込む為に、人工呼吸を繰り返す。

汐は、お兄ちゃんの身体を必死に擦って温める。

体温が低いままだと、致命的なダメージが出る事があるって、聞いた事があったから。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ! 目を開けて!」


フィルの笛音(しにがみ)の下に、いっちゃだめっ!!


暫く、一連の動作を繰り返し行った時。


キラリと、お兄ちゃんの胸で揺れる夜輝石が、微かに瞬いたのが視えて。


お兄ちゃんが、そっと目を覚ます。


嬉しさと安堵で、視界がゆがむ。

溢れる涙が止まらない。


 フィルの視線に、ぽつり、お兄ちゃんが口を開く。


「ダメなんだ、……『ツール』の音源でも吐くくらいで」

「おまっ、それいつからだよ?」

「お兄ちゃん体調が悪いの?」


 体調が良くないように視えたのは、やっぱり気のせいじゃなかった。


「そんな事はないよ。心配させて済まない」


 お兄ちゃんはそう言うけど。

 騙されてなんかあげない。

 本当に、本当に。


 死んじゃったのかと、思ったの。

 ばーばみたいに、(いな)く、なっちゃったんじゃ、ないかって。


 危険な、状態でしかなかった。


 渚お姉ちゃんの発明品がなかったら、助からなかったかもしれなかった。


 大事な人の前から、いなくなっちゃうのなんて、だめだよ……

 雪姫お姉ちゃんが大事なら

 もっと、お兄ちゃん自身も、大事にして欲しいーー


 ぎゅっと、ポシェットの中の電話を握る。


「ねぇ、救急車……」

「ちょっ、待って汐ちゃん!」


 汐の言葉に慌てたお兄ちゃんは、凄い速さで汐の手を止めて。フィルに笛を吹くように頼む。


「それよりレディフィルド、一番程度の低い笛を吹けるか?」


 倒れたばっかりなのにっ!

 だめっていいたいけど。

 たぶん、聞いてくれない。お兄ちゃんも頑固な所があるから。

 それに、じっとお兄ちゃんを見るフィルの蒼の瞳は揺らがない。

 だから、汐は心配するしか出来ない……

 フィルが笛を吹く。


「うっ……」

「お、お兄ちゃん!」

「だ、大丈夫だ……」

「どうしちまったんだ? カガワ……この『下』の『下』辺りだと聞き流せてたレベルだぞ?」


 大丈夫と答える、お兄ちゃんの顔は青い。

 顔を顰めて、物凄く具合悪いみたいなのに、止めるのを聞かずシャツを着込む。

 シートは脱いじゃったから、防寒の為にお兄ちゃんにコートを渡すけど……

 

「お兄ちゃん、やっぱり救急車か病院……」

「汐ちゃん、止めてくれ」

「でも」

「俺、うろなに居なくても良いか?」

「っ!」


 お兄ちゃんの言葉に、身体が震えた。

 

 なんで……


 なんで、なんで!?


 今、死にかけてた、お兄ちゃんがそれを言うのっ!?



 ひどいよ……

 いなくなる、なんて

 そんなの絶対、ダメなのに……



 それは、すごく

 すごく、凄く怖い事で



 ある日突然ーー……


 誰かがいなくなってしまう、怖さを知ってる

 心に、穴が空いてしまったかのような、その気持ちを知ってる

 みんながどんなに、心を傷めているのかも



 それが

 自分の所為で起こった事なんだとしたら


 足元から、ヒタヒタと

 冷たいモノが這い上がる


 汐の手は

 震えてなかったかな……?


 電話を繋ごうとした、その手を止められる。

 でも、賀川のお兄ちゃんが大きく深く、息を吐いて。

 海風に髪がなびくのに合わせて、


「いい、わかった。心配してくれているんだよな? ごめん。電話するならしていい」


 手を解いたお兄ちゃんが、その場に蹲る。


 ずるい

 そんな言い方されたら、電話なんて


 出来るわけないよ


 思いと言葉の代わりに。

 目から涙が溢れる。

 それが、夜輝石の小瓶を濡らして地に落ちる。


「何、子供相手に拗ねてんだよ? 何かあったんだろ? 話してみろって。……仲間だろ?」


 フィルの言葉に、お兄ちゃんが顔を上げる。

 そのままフィルを見上げて、詰めていた息を吐いた気がした。

 その唇から、紡がれたのは。

 

「……子馬に言われたんだ。『音』が克服出来なければ、『俺』の身柄を拘束するって」


 こうまって人が。

 耳の訓練をきちんと終わらせないと。

 お兄ちゃんを何処かに連れて行ってしまうという、まるで宣告でもあるかのような事実だった。

訓練最終日ー

体調が悪いようです


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん


お借りしてます

お気付きの点等ありましたら、お気軽に

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