11/17 前田家での訓練6・海(あみ)
桜月様宅
聴覚訓練三回目、十一月十七日
とリンク中ですー
「なーなー、いいのかよ? 子馬ぁ~」
「えー良いんだよ。俺じゃなくて刀森が既にいたんだから。適任適任、俺は補佐に回るよ。彼女を狙ってくる者を掴まえて、上に差し出す仕事するんだ」
「一番君の事? そーういう問題かぁ〜? だいたい、ユキっちが巫女ってなんだよ? それに葉子おふくろさん、泣いてたじゃん」
「あータカの小父貴が居るからねぇ。大丈夫。母さん、小父貴の事、好きだし」
「あの二人、夫婦じゃないんだ? んで一番君と子馬あんたが従姉妹でぇ、ユキっちを一番君が好き、と。ま、あの動き見てりゃあわかるけどね〜。オクテかと思ってたのに、キスまでしてたし。昨日の、いい雰囲気だったみたいだしね〜♪ じゃなくて、えーと? そんでユキっちはあそこの養女なワケで……ん〜?? な、なんか、よくわかんなくなってきたっ」
「だから母さんはあそこの管理人。亡くなった父さんはうろな工務店の元従業員で、タカの小父貴の幼馴染でもあって。タカの小父貴は息子の刀流兄と奥さんを亡くしてる。巫女ユキはその伯父貴の養女で、賀川が彼女を好き。賀川はあそこに居候してて、賀川の母と俺の母が姉妹だから従姉妹って事。ユキは巫女だからちょっと狙われてる……そんな感じ、かな?」
「あー、なんか混乱すんだけど。大体今、あたしが考えてても仕方ないんじゃね、コレ? 狙われてるってのは……アレだけど……」
強制見送られ中。
道を歩きながらの、会話。
とりあえず、帰ったらレディはシめるとして。
いっぱい考えて喋ったから、頭が痛くなってきた。
考えてんのは、あたしの性に合わねーんだよっ!
こーゆーのは、陸姉とか渚にやらせりゃいーんだっ。
……狙われてるってのはアレだけど、タカのおやっさんもいるし、一番君だって隠してるみたいだけど、手練れっぽい気がするし。
横を歩く高馬も、そーとーだろう。
情報は中途半端。しかも解決もしていない。
今、あたしが一人で考えててもたぶん、埒は開かない。
ーー汐の事と同じで。
だからとりあえず。
意識を切り替える為に、目を瞬く。
「ま、葉子さんとタカのおやっさんは、いずれ再婚とかすんのかなぁ〜?」
「そうだと良いんだけど。小父貴は俺の父さんを気にしてるし、確かに小父貴の奥さんは優しくて素敵だったけど、うちの母さん、貰ってくれると息子としては安心なんだけどな。でも、俺、ちょっと気持ちがわかったような気がする。今日は……」
高馬があたしに、視線を向けている事に気付かず。
アレは、ただの家主とただの家政婦って雰囲気じゃあ、なかったモンなぁ〜と考える。
互いを大事に想ってるけど、踏ん切りがつかないっつー感じ?
初見で夫婦だと思ったくらいなんだから、くっついちまえばいーのに。
相手がいたんだろーけど、今、好き合ってんのはタカのおやっさんと葉子さんなのに。
さっきのを聞ーてる限りじゃ、なんか、ムズかしー問題があんのかも、しんないけどさ。
「なぁ、子馬ぁ〜。あんたどこに住んでんの?」
「うーんと、海さんは」
「あたしは海の方♪」
「じゃ、今日はそっちにしてみようかなぁ」
「え?」
「じゃ、海まで走ろうか?」
「なんだそりゃ。送るなんてゆーから、車でもあんのかと思ってたんだけど〜」
ナゾ発言をした上、送るなんて言っといて車もないとか。
なんなんだ、コイツ!?
レディと一緒に帰れば良かった。
歩きかよー。
「送るとは言ったけど、公共機関か自力だよ。今日は運動してないからジョギング代わりに、移動は自力にしたいなぁ。ダメ? あ、ハンデいる?」
「ハ・ン・デ。ハンデだとぉ〜? こ〜の海ちゃんに、勝負挑もうって〜の?」
「長距離は苦手だから勝てるかはわかんないなぁ。負ける気もないけれど」
「ふーん。余裕じゃん。んじゃ、おっ先ぃ〜♪ ーー子馬ぁ、置いてくぞぉ~♪」
「うーん、いくよ」
唐突に始まるかけっこ。
この強引さはなんなんだ? 通常運転でコレなのか?
見た目もデカイ上に強引って……、職場でウザがられてんじゃねーのかな? 大丈夫か、こいつ?
……まぁ、うだうだ悩んでる時は、身体を動かすのが一番だし。
ハンデなんてナメた事をぬかす高馬を、負かす事に意識を向け。
地を蹴って走り出した。
「はい、これ」
「おま、急に失速して見えなくなったと思ったら、こんなの買ってたのかぁ?」
「だってスーパーの方が安いし。ーーっと、炭酸はね、揺れちゃうと吹くから止めた。で、オレンジとリンゴで迷ったけど、葡萄も、あ、スポーツ飲料もイイよねって、でも乳酸菌も捨てがたいし、どれが海さん好きかわかんないから。迷ったけど全部買って来てみたよ。流石にお酒はないけど、好きなの幾つでも取って?」
「どれでもいいのに♪ じゃ、これっ!」
そう言ってあたしが手に取ったのは、レトロ缶に入った桃果汁。
濃厚だけど、甘みと僅かな酸味が絶妙で、喉越し爽やかで美味いんだよね。
「コレ♪ 昔ながらで美味しいんだよねぇ~」
「そうだねぇ」
「ぷはぁ~うまいなぁ」
「うん、海さんと飲むと何でも美味しい。ねね、海さん、今度デートして?」
「ぶはっ! お、おまっ、笑わせんなっつーの。なんなんだよさっきから。すっごい強引っ。大体、今日会ったばっかのヤツと、なんであたしがデートなんか……」
「うん、じゃあ決まり! 当日迎えにいくから! よろしくね」
「はぁ? ちょっと!」
「コレ! 体冷やしすぎないようにね」
「っと。サンキュー子馬! 気ィ付けて帰れよな〜♪」
強引なのは止められず。
何故か、デートの約束を取り付けられちまったけど。
走ったおかげで色々吹っ切れたからか、悪い気はしなくて。
貰ったコーヒーを片手に、デカイ後ろ姿を見送った。
帰宅して暫く。
夕飯と風呂を終え。
レディをシめようかと思ったが。
またしても、汐との雰囲気が微妙になっていて。
今度にするかと、リビングに行くと。
「あら海、帰ってたの?」
テーブルでパソコンに向かっていた陸姉があたしに気付いて、声をかける。
丁度入れ違いだったから、気付いてなかったらしい。
「陸姉は一日勉強〜? よっくやるよね〜」
「家族の為だもの。今やっておけば、後々楽になるなら、これくらいどうって事ないわよ」
「流石陸姉。頼りになる〜♪」
言いながら、コーヒーを注いだマグカップを陸姉に手渡し、その斜め前に座りながら告げる。
「よくやるついでに。まぁ〜たなんかあったワケ? あの二人」
折角昨日のデートで、いつも通りに戻ったと思ったんだけどな。
一日家にいたなら、なんか知ってっかな、と思って聞いたあたしに。
首を振って。
「お昼までは、普通だったわよ、汐。その後は夕飯まで見てないし……」
「風呂は空と一緒だったらしーけど、特に変わった様子はなかったみたいだしー」
「じゃあ、寝る直前に何か、あったって事かしら……?」
頬に手を添えてため息を吐く。
「海は、フィル君と一緒だったんでしょう? 彼に何か、変わった様子は無かったの?」
「いつも通ーりだったと思うけど〜? 一番君イジめて遊んでたくらいだし♪」
あたしの説明に、更にため息して。
賀川さんも可哀想に、なんて呟いてから。
「海は気付いているんでしょうけど……。「何か」あったのよね? あの子達」
これはレディの怪我の事と、汐の、ここ最近の体調不良を指してんだろーなと推測して。
流石に、攫われそうになってたのとか、戦闘を繰り広げてた、なんてのはあたし達にはわかんない事だけど。
いつの間にか帰っていた、カルサムのおっさんとアプリっち。
それに大きな事は無かったんだと、思ってたんだけど。
あたしがさっき見たのは、部屋のドア越しに会話する汐とレディ。
何話してんのかまでは聞こえなかったけど、妙な雰囲気なのはわかった。
「まぁ、ねぇ。あたしも確証があるワケじゃないから、わっかんないのもあんだけど。ーー陸姉さぁ……、アイツらが最近、一緒に寝てんの知ってたぁ〜?」
「ーーは?」
「や〜っぱ、知んなかったんだ。ま、あたしも、たまたま見たから知ってんだけどさ〜♪」
お互い身を乗り出し、コソコソと囁く。
「い、一緒に寝てる、ってなんなのよ!?」
「たぶん〜、月変わった辺りくらい、からじゃね? 夜な夜なレディが、汐の部屋に通ってんの♪」
「夜な夜な……って! 変な言い方するんじゃないわよっ」
「だってさぁ〜。ナニ、してるかまでは、わっかんないじゃ〜ん?」
「海! 汐はまだ子供なのよ!?」
「けど、レディはれっきとした大人の男だけど〜?」
「っ!」
声を詰まらせた陸姉に、ニヤリとして。
「因みに今日は入れてすら貰えず、閉め出されてたけどね〜♪」
「!?」
サァ……、と陸姉の顔から血の気が引いていく。
そのままずるりと交代すると、ストンと椅子に腰掛けて。
真っ青な顔のまま、頬を押さえて呟く。
「ど、どどどうしたら……っ!? 汐がキズモノにっ!? 嘘でしょう?? ……お、落ち着くのよ、陸。ーー、と、とりあえず、フィル君を叩っ切りに……っ!」
全く落ち着いてねーじゃん。と突っ込みながら。
ちょっとからかい過ぎたかなーっと思って。
「んな事になったら、汐だって流石にフツーじゃいれねーっしょ。それに、あんなに汐大事くんなレディに、テなんて出せるワケないんじゃん?」
「わかないでしょう、そんな事っ! 一時の過ち、なんて事があったら……」
やっぱ、勉強のし過ぎなんじゃねーかなぁ、と思う。
渡したコーヒー、砂糖いっぱい入れてやれば良かったかも。
大体冷静に判断する陸姉にしては、珍しいくらいの取り乱しよう。
どうすっかなぁ、と思っていたら。
思わぬ所から、その回答が告げられた。
「…………怖い夢。見なくする為の、添い寝」
お風呂から上がって来たらしい渚が、リビングに入ってきながらそう言った。
隣の部屋だから、聞こえたんだそうだ。
「怖いなら添い寝してやるよ」
そう言ったレディの声が。
朝が早い渚が、聞いてたのはたぶん偶然。
「な、なんだ……。そうだったのね」
良かった、と脱力し肘をついて。
額に手を添え、長いため息を吐いた陸姉に笑う。
「良かったじゃ〜ん♪ ナゾが解けて☆」
「元はと言えば海、貴女の所為でしょ!?」
「そーだったかなぁ〜♪ つっかれてるから、そんな変な考えすんじゃねーの」
あたしを睨む陸姉の、マグカップに向けて。
砂糖をニ、三個落としながら。
「糖分でも摂れば。あたしも、今日は疲れたし〜♪」
角砂糖を一個放り込んで、スプーンで混ぜる。
渚にも進めたけど、もう寝るから、とそのまま部屋に戻っていった。
そうしてまた、二人だけになった所で。
陸姉が砂糖を溶かしながら、カップに口を付けた所で。
あたしはつい、言っちまった。
「……あたしさぁ、今日会ったばっかの強引なヤツに、なんか……、デートに誘われたんだけど」
「!? ゲホッ?!」
そんなあたしの言葉に。
陸姉が、盛大に咽せ込んだ。
今度は海がデートする事に…?
最後が好きです(笑)
桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より
http://nk.syosetu.com/n2532br/
賀川さん、雪姫ちゃん、葉子さん、タカおじ様、高馬くん
お借りしております
おかしな点等ありましたら、お気軽にご連絡くださいませ
書き溜め終了ー
お付き合いありがとうございました
またちまちま書いたら投稿するかと思いますが、その時気軽にお付き合いして頂ければ
しばし話数増減や整理をするかもですが




