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11/17 前田家での訓練4・フィルと海(あみ)

桜月様宅

聴覚訓練三回目、十一月十七日

とリンク中ですー






 なんで、このタイミングで来るんだよ!?


 そこにいる、高馬以外の皆が皆、心の中でそう思っている事など知りもせず。

 白髪を揺らし、その赤瞳を瞬いて。

 小首を傾げる件の少女、雪姫(ゆき)


 雪姫の姿を目に留めた瞬間、即座に動いた賀川が、雪姫をその背に隠し。

 腕を掴んで止めようとした鷹槍の手をすり抜けて、デカイ図体の高馬が賀川にーー、いや雪姫に迫る!


 その勢いに、あの崖での戦闘の際に見た、『ラッシュ』を賀川が躊躇なく放とうとしているのを目に捉え。

 (あみ)の頭にヘッドフォンを嵌め込み、誰も見ていないのを良い事に、ニヤリと唇に笑みを浮かべて。


 思いっきり。


 最大出力(ちょうとくだい)で、フィルは鳥笛を吹き鳴らした。






「な、何が起こったのでしょうか?」


 暫くして、赤い瞳をぱちりとし、呟く雪姫。


「こ、こ、この怪音は……」

「い、今のはちょっと効いたぞ……」


 その下で蹲り、悶絶しながらなんとか声を絞り出す高馬。

 鷹槍でも、これは流石に効いたのか、その顔を顰めている。

 そして対面する格好の賀川はというと、息を詰めていた割にその場に崩折れるでもなく、しっかりそこに立っていた。


「レディフィルド……」


 溢れた声は、若干擦れていたけれども。


「超特大だぜ!」


 そんな賀川にニヤリとしたままのフィルが、したり顔で返す。


 何か視界が悪いですと呟いている雪姫の足元に蹲る高馬が、手をぷるぷるさせながら手帳を出し。


「警視庁公暗部特殊所属、土御門 高馬です。宵乃宮(しょうのみや) 雪姫さん、まず事情聴取にご協力を……」


 そう呟いていた。

 その様子に、なんとか話は纏まったみたいと感じた葉子が、雪姫に声をかける。


「私の息子なの。今、子馬(こどものうま)って文字変換したでしょ? 高馬(たかいうま)って書くのよ。どっちでもいいけれどね」

「どっちでもって、それ酷いよ、母さん」

「よ、葉子さんの息子さん?」


 驚いている雪姫の前で、高馬を睨み切り捨てるように、


「葉子さんの息子でもユキさんに何かするつもりなら容赦しない」

「とりあえず話に応じてくれないかな? 雪姫さん」

「そんなの聞かなくていい……」


 聞く耳持たず、といった感じで話を切り上げようとする賀川。

 高馬は雪姫に話をしに来ている訳で、話を聞く相手は賀川ではないのだが。


(……本当、雪姫(セツ)の事になると理性働かないのな。独占欲ありすぎだろ?)


 かぁいいヤツ〜、だからあきらちゃんなんだよ、と。

 二人のやりとりを眺めながら、フィルがそんな事を思っていると。


「話、聞きます。ちなみに私の名前は『しょう』じゃなくて『よい』って読んでました。今は前田、です」

「それじゃあ、お願いいたします」

「じゃ、ねーよ。その前に一発殴らせろや、こらっ!」

「ちょちょ、ちょっと小父貴っ」


 雪姫が話に応じた所で、それまで黙っていた鷹槍と高馬の追いかけっこが始まり。

 手を握ったままの賀川にドキドキしている雪姫に、にっと笑ってから近付いていき、


「賀川。今の、ある程度、我慢できたみてぇじゃねーか」


 賀川(おしえご)の成長を褒めてやるフィル。


「こんなトコで、吹くんじゃねぇよレディっ! ヘッドフォンコレがあったからよかったモノの……」


 その後ろから海の蹴りが飛んでくるが、気にするでもなく。

 笑って肩越しに目線だけくれてやると、ん? と疑問符を浮かべた顔のまま、海が鷹槍から逃れた高馬に攫われていく。


「元気があってすごく良いな。何より動きが綺麗だ」

「はぁっ!? なななな????? どこから湧いたっ?! 何? ちょ、えええええっと、その、は、はなっ、離せえぇっ!?」


 海の攻撃線上に、高馬はいなかった筈なのだが。

 何処かから湧いた高馬は海の攻撃を華麗に受け止め、ステップを踏むようにらんらと動く。

 本当に嬉しいのか、海が当惑しているのが見えていないらしい。

 しかし、腕の中で暴れているのに気付いてハッとすると、


「これは……若い女性に済まない事を。あまりに技が美しかったので」


 突然紳士的に謝り、そっと海を離した。

 自由になった事で当然、海が振り回した拳が高馬に向かって飛んでいく。


「ちょっと髪が乱れたね。ごめん」


 それを意に介さず避けると、海のハネた髪を直しながら、


「えっと、レディフィルド君は、海さんの彼氏じゃない?」


 いきなり、そんな事を宣う。


「ぶははっ! どこをどーみたら、んな答えが出るんだぁ? (カイ)に、彼氏なんかいないっつーの」


 あまりにも面白すぎる問いに吹き出し、腹を抱えて笑い出すフィル。


(子馬(コイツ)面白すぎるっ! 海の何処をどー見たら、んな事になんのかさっぱりだが……、か〜なりご執心みてーだなぁ。ーーしっかし、なんか重要な話をしに来たんじゃねーのかよ?)


「それは良かったって、あれ? カイ? って言うのが本当の名前?」

「あみ、あみっ! 海って書いて、あみ! てっ! か、彼氏居なくて悪かったなぁっ」

「いや、俺は居なくて嬉しいよ」

「い? はぁ???」


 高馬の意図がさっぱり分からない海は、混乱が増すばかりだ。


「高馬、女の子はあんまり困らせちゃダメよ。海さん片付けしてくれるかしら? ユキさんは食べてしまって?」


 そこに巡ってきたチャンスに、逃げるように。

 嬉々として海は空いた皿やらを抱えると、台所に引っ込む。


(なんなんだよ、アイツっ!?)


 ドキドキしている心臓に苛立ちながら、半端乱暴に洗い物をしながら。

 それでも耳だけは、食堂の方へ向ける。






「そう言えば、昨日より、手が温かいです」

「うん、まあ。おまじないのおかげかもしれないね」


 雪姫がうどんを食べ始めた所で、やっと話が始まる……と思えたが。


「子馬さんは、敵じゃない?」

「わかんないけれど、今の所は雪姫みこに興味と話を聞く事が先だと思ってる」

「……すまないが、一つ協力してくれないか?」


 その前に、一つ鳥笛のテストのようなものが行われ。


「っ!?」


 何となく、直感で危機を察知した海は台所で即座にヘッドフォンを着けていた。


 高馬、鷹槍、賀川、そしてフィルが集まり、『少』『中』『大』『特大』『超特大』、それぞれ何処まで影響があるか調べているようだ。

 最も、フィルとしては手の内を全て明かしてやるつもりはない。

 海のように、稀に聞こえる者がいる事は分かっていた事だ。

 今回、『耳を訓練したい』なんて事を賀川が申し出てきた事で、本格的にやっているがその有用性は理解しているし、時間は腐る程あるのだ。実験に検証、研究はそれなりにやっていた。

 先程吹いた『超特大』のように、覚えのある者なら誰にでも有効な、『音に気を織り混ぜた、明確な攻撃目的としての音』は、このテストでは吹いていない。

 賀川はもとより、鷹槍や高馬にも、気の流れを感じ取ったからこそ、あの緊迫した空気を払拭するのに有効だと踏んだが故だったからだ。


「超特大以外はそこまで影響ないか……協力助かります」

「や〜っぱ、まだ全然ダメみてぇじゃねーかよ、カガワ? さっきの『まぐれ』だったんだな」

「何か掴んだ気がしたんだが……」


 残念そうな賀川に、ニヤリとして。


「ま、しゃ〜ねえ、また付きあってやっか。んじゃ、立て込んでるみてぇ~だしぃ今日の所は帰るぜ? またなぁカガワ〜! 海、俺様は帰んぞっ。お前は、そこの子馬にでも送ってもらうかぁ?」


 訓練に付き合ってやると告げ、からかうように海に声をかける。

 (うしお)を助けて貰った恩があるし賀川は共に戦った仲間だから、手が必要なら助けてやらない事もないが。

 先程雪姫を「みこ」と高馬が呼んでいた事からして、長くなりそうな話を座ってただ、聞かされているのはごめんだった。


「それは……俺は嬉しいな。ぜひ海さんは置いていって欲しいな……」

「んなっ!? ちょっ、ちょっとコラ、おいっレディっ!?」


 とんでもない事を提案するフィルに、慌てて海が台所から飛び出すが、そこを横から掬われて高馬にそのまま、ソファーに投げ込まれるようにして座らさせられる。

 一瞬なにが起こったか分からず、その黒目をぱちくりする海。


「いいから、俺が送るから。海さんはそこで座って待ってて」


 そんな海を可愛いな、と思いながら高馬が呟くのに、同意するように。

 フィルの肩に留まっていたルドが、ふわりと海の膝の上に着地する。


「い、居ろっての? そりゃ、ユキっちを捕獲なんて言ってる奴、放っとけねーけど」

「放っては置けない? 嬉しいな。じゃあ、俺と帰ってくれるんだ。捕獲って言うのはまあ言葉の選び方が悪かったけど、それで待っていてくれるならそうしとく。一緒帰ろうねぇ?」


 全く話の通じない高馬に、不満げな海とルドを残して。

 フィルはニヤリとした笑みを含ませたまま。

 前田家を後にしたのだった。



フィル君はここで退場ですー

やっぱり海が可愛い回


桜月りま様のうろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より

http://nk.syosetu.com/n2532br/

賀川さん、雪姫ちゃん、葉子さん、タカおじ様、高馬くん


お借りしております

おかしな点等ありましたら、お気軽にご連絡くださいませ


海を生贄に、フィルは気楽に帰る(笑)

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